第3話 突然のハプニング

(わ……! この子、こういうの好きなのかな)

 リーナは興味深げにスーパー・ソード・マシンを見つめていた。自分の作った物が、注目されている。レオとしては、これは喜ばずにはいられない。


「じゃあ、さっそくテストしてみようか」

 この子にも動くところを見せてやろう!

 レオははりきって庭のまん中に走っていって、マシンを置いて戻って来た。3人は庭のすみに並んでマシンを見守る。

「はっしーん!」

 レオのかけ声で、マシンはバババッと草を飛び散らせて進みだした。

「おおー!」

 レオと学はもちろん、リーナの顔もぱあっと明るくなる。


 まずは庭のすみに向かって一直線。

 車の後ろにはきれいな道ができていく。手で作業するよりずっと早い。これまで気がつかなかったけど、よく見るとたくさんのねこじゃらしの向こうにレンガで囲まれた花壇と色とりどりの花が見える。あと少し進めば、その花壇に到達だ。


(あそこまで行ったらUターンだ)

 花壇が近づき、レオがそう思った時だった。

「トトッ!」

 という小さなさけび声。そして。

「あれっ!?」

 とつぜんマシンが止まってしまった。


「あれっ!? あれっ!?」

 レオはコントローラーのスイッチを入れたり切ったり、ジョイスティックを回したり倒したり。

 でもマシンはちっとも動かない。

(ちょっとちょっと! せっかくいい所を見せられると思ったのに、こんなに早くこわれたんじゃカッコつかないぞ)

「あっ、そうだ。電池が切れたのかな?」

 レオは急いでマシンを拾いにかけ出した。


 残されたリーナにさっきまでの笑顔はもうない。くるっと縁側の方に向きを変え歩き出す。後ろから学がたずねた。

「リーナは今日、何しにこの家に来たんだ?」

 何も答えず部屋にもどるリーナの代わりに、トトが答えた。

「リーナ、おばあさまに呼ばれました。グランマ! グロースムター! ジャッダ!」

「ばあさまが……?」


 レオが車を抱えて戻ってきた時には、リーナはパソコンの前に座りこんでしまっていた。

「うう……。お前の活躍を見せてやりたかった……」

 レオはマシンを見つめて、語りかける。

「レオ、それなんだが……」

 学が何かを言おうとした時、縁側に出てきたおばあちゃんから声がかかった。


「ねえ。そろそろお昼だし、レオくんもいっしょにご飯にしない?」

 レオは庭でマシンを抱えたまま、さそいを断った。

「ぼく、早くこのマシンを動かしたいから、あとで家帰って食べます」

「あらあら。ずいぶんと熱心なのね。でもね、もう――」

 ピンポーン!

 玄関のチャイムが鳴った。


「みんなの分のデリバリーを頼んでおいたの。学、受け取りに行ってくれる?」

 学が玄関から運んできたのは、お寿司だった。レオの目が、学の持つ大きな黒い寿司桶に吸い寄せられる。

「レオくん、お寿司は好き?」

「……」

 レオの頭の中で、工作とお寿司が戦いを始める。

 マシンの修理。寿司。修理。寿司。修理。寿司。修理。寿司。修理……やっぱ寿司かな。

「うん!」

 寿司は今だけだけど、修理はあとでもできるしね!

「じゃあいっしょに食べましょう」

「はーい!」

 喜ぶレオを見て、おばあちゃんはうれしそうに目を細めた。

「待ってろよ。すぐ戻ってくるから」

 レオはマシンにそう言い残し、学について食卓に向かった。


「リーナもよ」

 みんながいなくなっても1人キーボードをカチカチ打っているリーナに、おばあちゃんが声をかけた。さっきからすぐ近くでお昼の相談をしたり、寿司を運んだりしていたのに、まったく気づかずパソコンをしていたようだ。やっと顔を上げて、みんながいなくなっていることに気がついて、あわててノートパソコンを閉じて立ち上がった。


 テーブルのまん中に、大きな寿司桶が置かれた。

「うわー! ぼく、お寿司大好きなんだー!」

「今日はお料理もできないし申しわけないと思ったんだけれど、喜んでもらえたならよかったわ」


 リーナはノートパソコンを運んできて、テーブルの端に置いた。4人が席に着くと、レオはすぐに手を合わせた。

「いただきまーす!」

 どれから食べようかな。

 レオがまよっている横で、学がまよわずイカに手を伸ばした。

「このイカ、いかしてるな」

 おばあちゃんが、くすりと笑う。そのとなりのリーナは、表情を変えることなく箸を持ち上げ、寿司を取るより先にパソコンの画面を開いた。


「リーナ」

 おばあちゃんが、注意する。その注意が聞こえないのか、リーナは表情も変えずにパソコンを見ながらお寿司の方に手を伸ばす。

「どうもスミマセン! リーナは考えることが多いのです。ソーリー! ミアナㇺニダ! マアレーシュ!」

 リーナの代わりにあやまるトト。その声にリーナがハッとして学の方を見た。

「あ、ごめん。学の話、ちゃんと聞いてたよ。そのイカがいかしてるって、他のイカと何がちがうの?」

「気にするな、ただのダジャレだ」


 そのあと学のダジャレをいくつか聞きながら、4人は大きな寿司桶を空にした。レオとおばあちゃんはご機嫌で、リーナはただもぐもぐしていた。

「ねえ、このあとリーナもみんなをお手伝いしてはどう? あなたもあのお庭が好きだったでしょう?」

 食べ終わると、おばあちゃんがにっこりとリーナを見た。

 そのおばあちゃんの言葉に、レオはあせる。

(リーナがまた庭に出てくるだとっ! これは急がなきゃ……)

「ごちそうさまでしたっ」

 マシンの活躍をリーナに見せたいレオは、お皿をさげるとだれよりも先に庭に戻った。


「おっかしいなー。電池は切れてないし、部品も取れてない。無線が壊れちゃったのかな」

 レオのラジコンカーがリモコンで操作できるのは、電波という見えないものを使って通信しているから。その無線の機能が壊れてしまったのかもしれない。

 もしそうだったら、ひとりでは直せそうもない。こんな時、たよれるのは学だ。学は難しいこともよく知っているし、知らないことがあってもすぐにスマホで調べてくれる。

「がくー! ちょっと聞きたいことあるんだけどー!」

 レオが呼ぶと、すぐに縁側に学が現れた。

「こいつ、なんで動かなくなっちゃったんだと思――」

 マシンから目を上げたレオは、学の手にリーナの手がにぎられているのに気がついた。

(うわっ、なんでもう連れて来ちゃったの? まだこっちが動いてないってのにー! 早いよ~!)


 リモコンやドライバーを手におたおたするレオを見て、学がリーナに言う。

「ほら、レオが困ってるぞ」

 まるでリーナのせいだとでも言いたげだ。

(そこ、リーナを責めるとこじゃないってばー!)

 ところが学は、思いがけないことを言った。


「どうするんだ、リーナ。レオのマシンを止めたのは、リーナなんだろ?」

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