第2話 見てくれ! ぼくの作品!

 元気にしゃべるリーナのスマホを興味深そうに見るレオに、学が紹介する。

「リーナのスマホには、人工知能が入ってるんだ」

「へー! すごい!」

 その言葉に、スマホの画面がまたひゅんひゅん光る。

「トト、エジプトの知の神様から名前いただきました。すごいです、ありがとう。サンキュー! シュクラン!」

 ちなみにさっきからトトがしゃべっている聞きなれない言葉は、色々な国の言葉だ。


「わー! すごいすごい! ねえきみ、リーナって言ったっけ? ちょっとそれ、よく見せてよ!」

 レオは大興奮だ。一方リーナの方は冷静に、まゆを寄せてレオにこうたずねた。

「ちょっと、ってどのくらい?」

「ちょっとって言ったら、ちょっとだよ。ほんのちょっと。ねっ!」

 レオは両手をリーナの前で合わせる。

「ちょっとなのに、よく?」

 リーナが小さな声でつぶやき、首をかしげる。

「チョットはスコシ、ですネ! ヨクはタクサン!」

(ん?)

 レオも首をひねった。

(たしかに「ちょっと」と言いながら、「よく」見せてほしいというのは変かな?)

 レオが考えている間に、リーナは玄関を上がり奥に消えてしまった。


「ちぇっ」

「すまない。まったく不愛想なやつだ。あいつは昔からぼくがダジャレを言っても、ほとんど笑わないようなやつなんだ」

 レオは名残惜しそうに、リーナが消えていった先を目で追った。

「ふーん。だれなの、あの子?」

「ぼくのいとこだ。それより、どうだった?」

 聞かれてレオは、ぱっと笑顔に変わった。

「ああ! いい材料、見つかったよ!」


 レオと学は裏庭に回ると、自転車の荷台に積んできた段ボールを開けた。中から青いラジコンカーをつかみ出す。大きめのオフロード4WDで、こういう作業にも頼りになりそうないい感じだ。

 縁側に面した部屋にはリーナがいた。つくえにノートパソコンを広げて、すごい勢いでカタタタタとキーボードを操っている。庭にいるレオからも、開いた掃き出し窓を通してその姿が見えた。


(す、すごい。何のゲームやってるんだろ。あの勢いだと、きっと100万点は取ってるな)

 何をやっているのかは分からないけれど、レオは勝手にすごい想像をして勝手に納得する。

「リーナって小さいのにすごいんだね」

ことはけど、小さくはないぞ。ぼくらと同じ4年生だし、背だってレオとそんなに変わらないだろ」

「よ、4年生?」


 だけど、さっきすごくちっちゃく見えたんだけど? 体はほとんどリュックにかくれてたし、Tシャツもくつ下もぶかぶかだったし……。

「たしかあいつは1組だったな」

「え? しかもうちの学校なの? あんな子いたかなあ?」

目立たないよな。活発なタイプじゃないし」

 そう言う学も、背は高いけれど運動は苦手で活発なタイプではない。いつもまじめな顔で本やスマホに向かって調べ物をしたり、静かにダジャレを考えたりしている。そういうもの静かな雰囲気は、リーナは学とよく似ていた。


 レオの段ボールをのぞいた学が、そこに小さめの刃が入っているのに気づいた。さっき倉庫で見た替え刃の4分の1くらいの直径しかない。

「レオ、これは?」

「じいちゃんがくれた。さっきの刃の話をしたら、大きすぎるからこのくらいの方がいいだろうって」

「たしかにこのラジコンの大きさにはぴったりだな」

「で、それを動かすのに使うモーターはコイツだ! 百均の扇風機!」

 レオはずいぶん前に買ったまま使わずにいた小さなハンディ扇風機を、学に見せた。スイッチを入れるとブーンと風が送られてくる。

「あ~すずしい。これ壊すの、やっぱもったいないかな~」


 なんて言っておきながら、レオはご機嫌で腰に下げたカバンからひょいとドライバーを取り出し、あっという間に扇風機をバラバラにした。やっぱり工作の魅力には耐えられないのである。

「これ、電池もつながってるから、このまま使えるんだよね」

 中から取り出したモーターには、導線で電池ボックスがつながっている。羽根を刃に取り替えるだけで、刈刃のでき上りだ。


 次に、この刈刃とラジコンカーとをつなぐ。

 レオは2つのパーツの間に、おもちゃのショベルカーのアームを挟むことにした。ドライバーでショベルカーを分解し、アームを取り外す。そして段ボール箱から電動ドリルを取り出した。

「さてと、合体だ!」

 アームの根元とラジコンにドリルで穴をあけ、お互いの穴を重ねボルトを締めてくっつける。アームの先にも同じようにして刃を取りつける。ちなみに電池ボックスはラジコンの裏にかくして、導線はアームに沿わせた。さらに刈刃が小石をはじいたりすると危ないので、安全ガードとしてクリアファイルを加工して取りつける。


 1時間後。

「ジャジャーン!」

 回転刃のついたアームを持ったラジコンカーが完成した。

「おおっ。あっという間に完成だな! ラジコン草刈り機! 特にこのアームがいい。刃の角度や高さを変えて、細かい作業ができそうだ」

「いいだろー? だけどこのアーム、動かせないんだよ。これはまあ、見た目だけ」

「そうなのか」

 学はラジコンのアームを指でつまんで曲げたり伸ばしたりした。こうやって手で動かせばもちろん動かせるんだけど、リモコンでは動かせないようだ。

「これを動かす方法だったら……」

 学が何かを言う前に、レオが

「ところで、完成を記念して新しい名前をつけようよ。“ラジコン草刈り機”って、なんかカッコ悪いしさ」

 と提案した。

「そうだなあ、たとえば……」

 レオはしばらく腕組みしてから、ひらめいたというようにさけんだ。

「スーパー・ソード・マシーンってのはどう!? シャキーン、シャキーンって感じでかっこいいだろ!」

 ぶんぶんと剣を振るまねをしてみせる。


「ソード、刀デスネ! かっこいいです。好! 好! ジャッザーブ!」

 すぐ近くで、元気な声がした。


 いったいいつからいたんだろうか、ふり返ると2人のすぐ後ろにトトを連れたリーナが立っていた。くるくるした目をらんらんと輝かせて、スーパー・ソード・マシンをのぞきこんでいた。

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