指導♦︎
朝飯を食べ終えると、2人は広場へ向かう。もう昼の時間帯になっていた。
広場には既に50人ほどの若いエルフ達が隊列を組んで待機していた。
(これが訓練兵か?)
「敬礼!」
ツィルが叫ぶ。
その声を聞き、動きの揃った敬礼が行われる。エルフ達の敬礼は右腕をピンと伸ばし、人差し指をツィルに向けていた。
「忠誠!」
号令と共に跪き、伸ばしている腕を曲げ心臓に当てる。
「直れ!」
敬礼を辞め直立する。
「自衛隊みたいだな…」
「敬礼の仕方も特徴的だな」
「今回は貴方達志願兵にカケル様より戦闘訓練を指南してもらいます」
「カケル様、どうぞ」
ツィルはカケルにスピーチをするように促す。
「スピーチか、懐かしいな…」
翔琉は台座に登る。
「あー、俺はカケル。一応Bクラス冒険者だ、大した仕事はしていないがな」
「それでも魔族を殺す力はある」
「実力や才能というのは仕事をこなす力や誰かに振られた仕事を効率よくこなすことで変動したりしない」
「才能は絶対だ、才能のない奴が弱いのは当たり前だ」
「これから君達に学んでもらうのは、才能や実力なんか必要のないことだそれは自衛力、今回君達には自衛というものを学んでもらう。俺の祖国では自衛の為の部隊があった、しかし、領土は不法占領され領海侵犯も繰り返して行われていた!」
「それでは意味が無い!」
「いいか! 敵より強くないと自衛はできない!」
「勝つためには殺すしかない、エルフは人族より魔力が多い、そのアドバンテージを存分に活かせ!」
「そのアドバンテージを自衛に使うのか、侵略に使うのか、はたまた使わないのか、それは自分達で決めろ」
「だが、力が無い者にそれらの選択肢はない! 弱者に未来があると思うな! 強き者が勝利する! 勝たなければ未来は存在しない!」
演説を終える。数秒遅れて拍手と歓声が響く。
「…」
翔琉は台座から降りる。
「流石ですカケル様」
(…アイツらの目は勝利に飢える目だった…原石とはこの事を言うのか…よし、気が変わった)
「ツィル…最強の兵士を作ってやるぜ」
「お願いします!」
ツィルは勢いよくお辞儀をする。
「早速やるぞ」
翔琉は腕捲りをし髪をかき上げる。
「1人1人に教えていても時間がかかるだけだ、俺は約2週間でこの村を出る。それまでに教えられること全てを教えていたら3年かかる」
「個人のクセやオリジナリティに関しては君たち自身で相談や研究をして極めてくれ」
「「「はい!」」」
「良い返事だな」
「まずは基本から、これができれば申し分ない」
翔琉は右腕を伸ばし魔法を使う。
《魔力を500消費し、魔術:ウォールブレイクを行使します》
轟音と共に巨大樹が倒木する。
「「「?!?!?!?!」」」
「と、まぁこんな感じだ」
志願兵達は皆開いた口が塞がらなかった。
「今の何? 無詠唱であんな威力の魔法を放つなんて…」
ツィルも困惑を隠せない。
「今のは魔術“ウォールブレイク“ってやつだ」
「魔力消費は500くらいだからな初心者でも使いやすいだろう」
「ウォールブレイクで壊せるのはせいぜい岩くらいなんだけど…」
「まぁ、そこら辺は才能の差だろう」
ツィルに背を向けて志願兵に向けて発する。
「いいか! 目指すのはあの威力だ」
「できなくても良い、ただし、敵を多く殺せるまで威力は上げてもらう」
(岩壊す程度の威力だと自衛なんかできないからな)
《関連スキル:物質改変を行使します》
翔琉は地面に落ちている小石を巨大な岩にした。同じ物を100個ほど作る。
「これを木っ端微塵にできたら、先の襲撃でも問題なく戦える、相手が残すのは断末魔と燃え滓だ」
「じゃあ訓練開始!」
「「「はい!」」」
志願兵達は岩に向かってウォールブレイクを放つ。しかし、どれもこれも煤がつくか少し表面が欠けるだけであり、敵を殺せるには程遠い威力だった。
「エルフでこれって人間なら煤すら付かないんじゃねぇか?」
「か、カケルがおかしいんだよ」
「そんなもんか」
「おい、そこのお前」
「は、はい!」
「魔法を放つ時は対象をよく見て放たないと、お前のは殆ど手前で落ちてるぞ」
「すみません」
「謝る暇があるなら練習だ」
「はい!」
「…んー2週間で大丈夫か?」
「ねぇカケル」
「ん?どうした」
「わ、私にも戦闘訓練をお願いします」
「…女だからって容赦はしない」
「当然です」
「森の中での戦闘訓練をまず私にお願いしたいです」
「率先して行動できないと、彼等に困惑を与えてしまいますから」
「わかった」
村から離れ、互いに遠くの場所で待機する。
「ツィルの…エルフの特性は望遠、遠くを見ることができるというチート技。おそらく見えてんだろうな」
草木の揺れる音と共に木の葉が舞い落ちる。
《関連スキル:思考超加速、動体視力超向上、反射神経超向上を行使します》
翔琉は遅くなった時間の中を歩く。
《スキル:柔術を行使します》
「剣術と射撃術も使わねぇとな」
翔琉はツィルの腕を弾いた。
「え?!」
「なんでバレて――」
「うっ」
「お喋りは隙も暇も居場所も教える行為だ」
ツィルは翔琉から距離を取る。
(相手は丸腰同然、勝てる)
「その慢心がもう負けてんだわ」
手刀が首に当てられ、ツィルは気絶した。
「こりゃ、本腰入れて教えなぁとな―」
「?!」
(また、あの感覚)
理性を蝕む速度を心臓の鼓動が表す。
「落ち着け俺」
《魔力を600消費し、魔術:鎮静魔法を行使します》
「(溜め息)…これでも精一杯か」
「なんでこんな事になってるんだ?」
「どこからだ、騎士団長を殺したあたりからか?」
「何が原因で」
「…ん」
ツィルが目を覚ます。
「あぁ、起きたか」
「あ! 私…」
「やっぱり強いね」
「色々と直さないといけない点があるぞ」
「はい!」
2人は村へと戻る。志願兵達は相変わらず岩に攻撃し続けていた。
「これ、人海戦術で木っ端微塵にしそうだな」
「彼等には実戦の他にも座学が必要ですね」
「それはお前に任せるよ」
「…善処します」
「よーしお前ら、今日はここまでにしよう」
「詳しい説明はまた今度、今回のはまぁオリエンテーションみたいなもんだ」
「「「はい!」」」
「あっという間に個別指導が終わったからな、想定より早めに授業終了だ」
「悔しい」
「んまぁ、いつか勝つさ」
「カケル、晩御飯にしましょう」
「早くないか?まだ夕暮れだぞ」
「色々やることがあるからね」
「色々ねぇ」
(めんどくさ)
ツィルと共に食堂へと向かう。翔琉はこの村の構造をある程度理解してきていた。
「おお、美味そうな肉だな」
「豚肉の燻製よ」
「なぁ、家畜はどこにいるんだ?」
「家畜は施設の中で飼ってるの、また今度紹介するわ」
「…あぁ」
(家畜の前に俺は望遠を手に入れたい心境だ)
「この村には罪人とかいないのか?」
「滅多にいないわ」
「出来たらどうするんだ?」
「法律とか」
「国法は適応外だけど、村の掟があるわ」
「それに則って処罰をするの」
「盗みや侮辱行為なら1ヶ月間の外出禁止令」
「破壊や詐欺は国軍へ強制送還」
「殺人、放火は凌遅刑よ」
「急に火力が上がったな」
「まぁ、ここ200年強制送還以上の犯罪をした人は出てないわ」
「安心して」
「あぁ」
翔琉は早々に晩御飯を食べ終え部屋に戻る。
《魔力を300消費し、魔術:消音魔法を行使します》
(成程、殺人…か)
(やることは決まったな)
翔琉は微笑む。その微笑みは、悪魔を彷彿とさせる笑みだった。
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