地図♦︎


 ハイガーゴイルの襲撃から1日が経った。2週間分の服と地図を受け取り、翔琉は紅茶を飲みながら地図を見ている。


「なるほど」


 1950年から1970年代レベルの文明力があるためか、地図も正確であり、現代日本と比べると精度は落ちるが、それでも素晴らしい出来の地図である。


「俺のいるマラフェスタ王国はパッセル大陸の立憲君主制国家で、内陸国」

「隣国には特筆すべき4つの国があり、チェル公国、バッカロン共和国、グレートアイデン=ハイウェスト連邦、そして大陸最大級国家のドリツ帝国、大陸の5列強とよばれる…ねぇ」

「大陸沿岸部は別大陸との貿易が盛んであり、大陸1の貿易国家、メルニア王国があり、そこをドリツ帝国と連邦が狙っていると…」

「共和国と公国は中立を宣言しているが実際のところは利権を獲得するために使節を送り続けているらしいな」

「それで?我が王国は漁夫の利を狙っている…」

「めんどくせぇ国しかねぇよ」


「カケル?今大丈夫?」


 情勢に悩んでいると、ツィルが声を掛けた。


「ん?あぁ、入って良いぞ」


 翔琉の返事を聞き、ツィルが部屋に入る。


「失礼します」

「カケル、例の戦闘訓練について、明日のお昼に指導をお願いするわ」


「明日の昼な、わかった」

「あと、頼んでも無い情勢まで教えてくれて助かるよ」


「当然のことよ」

「私達を守ってくれたんだし」

「何かあったら言ってね」

「その…私にできることならなんでもするから」


「ああ」


 そう告げて、ツィルは退室した。


《魔力を300消費し、魔術:消音魔法を行使します》


「転移者とまだ1人しか出会ってない。仮にこの大陸に全員いたとして収容されたり解剖されたりレイプされたりしているか高値で売られたりしているんだろうな」

「先に魔王討たれんのも嫌だし…てか魔王の居場所も知らねぇし」


 翔琉の視界に情報が映る。


《アンロックスキル:完全妨害、鉄壁防御、未来予知》


「なるほどねぇ」


 その日は何も起きず、翔琉は眠りにつく。


_________________________


「んんん」


 旭が翔琉の顔を焼いた。


「おはよう俺」


 翔琉は寝巻きから着替える。


「この制服も捨てるか」

「…?!」


 翔琉の鼓動が高まる。この鼓動の高まりは宿での一件とツィルとの邂逅の時以来である。


「カケル、起きてる?」

「朝食の準備できてるわよ」


 応答は無い。数分が経ったが翔琉が出てくる気配はない。


「カケル?入るわよ」


 ツィルは心配になり部屋へ入る。


「…!」


 入った瞬間、胸部にナイフが刺さった。


《魔力を300300消費し、魔術:消音魔法、延命魔法を行使します》


「イヤアアアアアアアア!!!!」


 叫び声は室内で無惨にも消え失せる。力を振り絞り抵抗するが、翔琉はナイフを何度も突き刺す。


「真っ赤っか…凄いな」


 一息付き、改めてツィルを見る。


「あ、め………t」


「いやだ♪」


 鈍い音がツィルから発せられる。翔琉の鼓動が収まった時、部屋にあったのは瀕死のエルフと血濡れた翔琉。

 部屋は血生臭い匂いで包まれた。


「はぁ…」

「綺麗にしないと」


《魔力を800消費し、魔術:隠蔽を行使します》

《魔力を200000消費し、魔術:状態完全回復魔法を行使します》

《関連スキル:記憶操作、認識操作を行使します》

《魔力を30消費し、魔術:洗濯を行使します》


「………マズイ、だいぶマズイ」

「完全に理性がおかしくなってたが…次があるなら抑え込まないとやばいな」


 語彙を失う翔琉。

 

《アンロックスキルから完全妨害を獲得しました》


「複雑な気分だよ」

「ステータス」


『氏名:頂(いただき)翔琉(かける) Lv.139


 魔力:81154090000


 年齢:18歳


 職業:ギャンブラー


 職業スキル:ギャンブルに必ず勝利する


 関連スキル:手品 強制承諾 超記憶 演算超排除

 思考超加速 暗殺 視線誘導 動体視力超向上

 反射神経超向上 基礎値無限大 上限超突破

 読心術超向上 配当計算超向上 駆引力超向上

 勝負力超向上 神回避 隠密行動 身体能力超向上

 致死無効 復活 超回復 精神汚染超耐性

 環境変動超耐性 身体異常超耐性 武術超覚醒

 経験値超入手 情報操作 認知不能 戦闘力超向上

 人体操作 物質改変 威力超向上 欺瞞 完全妨害


 アンロックスキル:不死 魔力無限 魔法新規作成

 世界秩序超改変』


「ちょ、ちょっと」

「どいて欲しいんだけど」


 意識を取り戻したツィルに請われる。翔琉はツィルに馬乗りしている状態であった。


「あっすまん」


 急いで立ち上がる。


「急に押し倒して、どうしたのよ」


「忘れてくれ」

(記憶操作が裏目に出たな)


「それより、朝食にしましょう」


「あぁ」


 翔琉とツィルは食堂へと向かう。廊下でエルフと会う度にお辞儀をされる。


「皆カケルに感謝してるわ」


「清々しいな」

「ところで、エルフって何で稼ぐんだ?」


「私たちは基本的に自給自足で生活しているわ」

「あとは人より魔力が多いから戦争なんかが起きた時に優先的に徴兵されて特別支給がされるわ」


「なるほどな」


 他愛もない話をしていると食堂に着く。


「綺麗だな、木製とは思えないほどだ」


「魔法で上から加工をしてるからね」


「あぁそうだ、魔術に関する本を幾冊か貸して欲しいんだが」


「わかった、用意しておくわ」


「ありがとう」


「それじゃあ座りましょう」


 2人は先に向かい合いに座ると料理が運ばれてくる。木の実や山菜が運ばれてきた。


(野菜料理か? ヴィーガンが喜びそうな飯だな)

「頂きます」


 翔琉は手を合わせ食べ始める。


「イタダキマス?」

「なにそれ?」


「え、あぁ、俺の国では飯を食う前には『頂きます』って言うのが礼節なんだ」

「飯を食った後は『ご馳走様でした』って言う。自然の恵みに感謝することを表す。家畜や野菜なんかは人間に採られる前までは生きてるからな、人間のエゴで殺してごめんなさい、生きるための糧になった事にありがとうと伝えるるための言葉だ」

「…少なくとも俺はそう思いながら唱えてる」


「ステキね」


「誇れる文化だよ」

「神に感謝はしない、自然に感謝をする」

「…今では売国奴によって破壊されかけている文化だがな」


「行ってみたいわ、貴方の国」


「素晴らしい国

「皆自分の国に誇りを持って生活していた、圧倒的な君主に忠誠を誓っていた…大戦に敗れるまでは、な」

「俺は今でも君主に死ねと言われれば死ねる。だが、そう言う意志を持った人間は『変人』として軽蔑されるようになった。戦後教育のせいでな」

「3S政策で国民の思考はボロボロとなり、金の亡者である政治家に国民は侵され、三流国家に成り果てた…」


 日本の歴史をほんの少しだけ説明する。


「…なんと言うか、お気の毒に」


「だが、まぁ良いとこもあったさ、多分な」


 翔琉が野菜を食べ終えると肉料理が運ばれてきた。


「何肉だ?」


「牛のローストビーフよ」


「ローストビーフは好きな料理の1つだ」

(ヴィーガンが別の意味で喜びそうな料理だな)


 翔琉は肉を口に運び舌で転がす。


「うん、美味い」


「気に入っていただいたようで嬉しいわ」


 頬張る翔琉を見て、ツィルは微笑んだ。

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