勝利


 〜観客席〜


 フェルはガイルの猛攻を見て心配になる。


「押されてません?」


「あぁ、想定外だ」

「手助けも考えないとな」


 翔琉はジュースを飲みながら呑気に感想を告げる。


「手助けは禁止なのでは?」


「…勝てばいいんだよ勝てば」


(うわぁ、クズだ)


 〜フィールド〜


 奈々はガイルの攻撃を躱しながら逃げ惑う。


「おい!しっかり戦えよ!」


「女だからって許されねえぞそんな戦い!」


「使者様なら戦え!」


 怒号、罵声、非難。観客席はブーイングの嵐に包まれた。しかし、逃げるだけで精一杯な奈々にはガイルへの反撃は難しかった。


「そこだ!」


《魔力を7000消費し、魔術:爆破魔法を行使します》


 奈々の逃げ先が爆発する。


「うっ!」


 尻餅をついていると、ガイルが近づき剣を構えた。


「…!」


 決着する瞬間、奈々の視界に情報が現れた。


《経験値が一定に達しました。レベルアップを行います》

《レベルが上がりました。現在のレベル5》

《関連スキル:引力を解放しました》


(引力…!)


《関連スキル:引力を行使します》


 奈々の手に弾かれた剣が舞い戻る。


 〜観客席〜


「ほぉ」


 翔琉はジュースを飲みながら目の前で起きた現象に感心した。


「剣が勝手に?」

「カケルさん何かしたんですか?」


「いや、何もしてねえ」


 フェルは周りの観客達の反応を見る。


「おい見たか今の」


「あぁ、剣が急に手元に」


 観客達の罵声は無くなり目に映った異様な光景に圧倒されている。


(…頑張れナナさん!)


 〜フィールド〜


「何?!どこから剣を!」


 タリスが驚き、警戒が解けていた。奈々はその隙を見逃さない。


「やぁあ!」


「ぐっ」


 奈々はガイルの肩を貫く。奈々は剣を引き抜き、首に向かって振り下ろす。


「たぁ!」


「そこまで!」


 ガイルは自分の肩をを防御魔法で守る。防御魔法によって防がれた剣は根本から折れ地面に刺さった。

 静寂が発生する。


「勝者、ナナ!」


 レフェリーが声を発したが、歓声は起きなかった。


 〜観客席〜


「でもよぉ使者が学生に勝つのは当然だろう」


「1番強い実力者が選出されたっつうけど、実際他にもいるんじゃね?」


「たいして強くないだろあの女」


 観客達には不好評だった。そんな観客席の中、翔琉とフェルは拍手をしている。


「流石だな」


「はい!」


「……行くぞ、ついて来い」


 〜フィールド〜


「勝った…?」


 魔術師により肩を治されたタリスが跪き告げる。


「流石でございます」


 褒め称えられたが、奈々には懐疑の目が降り掛かっていた。


 〜国王観客席〜


 国王とその側近のみしか立ち入ることができない部屋に、翔琉とフェルが立っていた。


「よぉ、デブ王」

「あんたの負けだ、御気分は?」


 マラフェスタ8世は鷹揚に話す。


「漢同士の勝負の結果じゃ、貴殿との約束通りこの国は彼女のものだ…………部外者は去らせてもらう」

「ただ、言わせてもらおう」

「お前みたいなゴミが、他人に愛されて幸せな人生を送れると思うな!」

「嫌われ、恐れられ、迫害される」

「一生その道を歩み進めろ…愚弄風情が…!」


 すれ違い様に翔琉は告げる。


「あんたのこと気に入ったよ…」


 翔琉は負け惜しみだとは思わなかった。その返答を無視し、マラフェスタ8世は部屋から去る。


「フェル、ナナを連れて来い」


「了解です」


 翔琉は玉座に腰を掛ける。


「…絶景だな」


 フィールドの中からフェルは奈々を連れ出した。


「お疲れ様です」

「ナナさん」


「ありがとう、フェル」


「カケルさんが呼んでいます」

「一緒に向かいましょう」


「うん」


 2人は翔琉の元に着く。改めて見る扉の豪華さにフェルは溜息を吐いた。奈々は扉を開ける。


「お疲れさん」


 玉座の背にもたれながら、翔琉は奈々を労った。


「ありがとうカケル」


「見事だった」

「剣を引き寄せたあの技は意表を突くにはうってつけだ」


「アレはギリギリだったわ」

「関連スキルが急に獲得されて―」


「フェル、ちょっと出てくれ」


「…?」

「わかりました」


 フェルは言われた通り部屋を出る。


「で、だ」

「……お前の職業は?」


 核心に迫る。


「私の職業は錬金術師、職業スキルは新たな物質を作り出すこと」

「それの関連スキルで引力が解放できたの」


「関連スキルを解放した?」


 翔琉は引っかかる、翔琉の場合は関連スキルの解放などは無い。アンロックスキルから獲得する為、関連スキルに書かれている事を使用できないことはないのだ。


「ええそうよ」

「名前や職業は普通に書かれているだけど、使えない関連スキルは名称ををカッコ付きで書かれてるの」

「翔琉は違うの?」


《スキル:詐欺を行使します》


「いや、同じだ」

「カッコが何なのか考えていてな、今わかった」


「そう…なのね」


《関連スキル:記憶操作を行使します》


「…ん、えーっとそれでこれからどうするの?」


「お前はこの国の女王になる、俺は1人冒険者として黙々とレベル上げをしていくつもりだ」


「ええ?!

「わ、私がこの国の?!」


「前から言ってただろう」


「言ってたような、言ってないような」

「それに私、魔王を倒さないと」


「国のトップに立てばそれも容易いと思うが?」

「いざとなれば総力戦で魔王側と戦えるんだ」

「与えられた物は活用してなんぼだぞ」


「そうかもしんないけど〜」


 奈々は悩む。


「はぁ、分かったわ」

「私この国の女王になる!」


「よし」

「フェル、入っていいぞ」


「失礼します」


「突然だがフェルに質問がある、俺と冒険者として生活するか、女王の側近としてここに残るか」

「好きに生きていくって選択肢もあるな」


「ちょ、ちょっと待ってください」

「突然すぎますよ、いきなり何の―」


「私、なんか女王になるっぽくてね…」


「それは知っていますが、カケルさんはこの国から出るんですか?」


「まぁな」

「で、どうだ?」


 5分間の沈黙。


「…私はナナ様といます」


「…分かった」

「俺は1ヶ月後この国を出る」

「挨拶は不要だ」

「そのチョーカーも不要だな」


 翔琉はフィルにつけたチョーカーを取るとチョーカーは光の粒となり消えた。


「挨拶なしは寂しいわよ」

「友達でしょ?」


「そうですよ!あんまりです」


「すぐに行くわけじゃないしどうせまた会うさ、この国で冒険者登録したからな」


 扉がノックされる。


「はい」


「失礼します、ナナ女王陛下」


「お前の事だぞ」


「え、あっはい!」


「この国の君主としてやってもらうことが沢山あります、まずは引き継ぎ式から」


「えああぁ、フェル手伝ってくれる?」


「当然です」


 翔琉はゴタゴタに乗じて部屋から出る。


「まだ転移してから3日4日しか経ってないんだよな」

「こっから長ぇぞ」


 〜マラフェスタ王国、高級宿〜


 ベッドに座り体を伸ばす。


「こっから隣国まで経験値集めとスキル集めだな」

「高校の奴らがどこ行ったのかも気になるし、魔族とも出会わないし……運否天賦とはこの事か」


 翔琉はコインを弾く。


「………やることは決まったな」


 翔琉は微笑む。その微笑みは、悪魔を彷彿とさせる笑みだった。

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