試合
奈々が見たのは血塗れの男が幼児に馬乗りになりナイフで切り刻んでいる光景。急いで2人を引き剥がし、フェルフィーナに回復魔法をかける。
奈々に押し動かされた翔琉は漸く胸の鼓動が収まった。自分でも先程までの行動に驚くと共に、動揺している。
「俺は……人を……」
「翔琉…何をしてるの!」
「!」
《魔力を20000消費し、魔術:状態完全回復魔法を行使します》
「…これで大丈夫だ」
「なんでこんな事を!」
「…!」
《関連スキル:認識操作、記憶操作を行使します》
「…あれ?」
「私…なんの話を…」
「…明日の話だ」
翔琉はフェルを抱き抱えてベッドに寝かしながら奈々の問いに答えた。
「そうだっけ…ごめん、頭が痛くて」
「じゃあ寝とけ」
「…あれ、この子は?」
「……家出少女だ」
「翔琉…もしかして…」
「違うから早く寝ろ」
「ったく…
翔琉に言われた通り、奈々はベッドに入った。
「…」
《関連スキル:情報操作、認識操作、記憶操作を行使します》
翔琉は書類に目を通す。
「まぁ、大した情報はないか」
「……」
_________________________
〜近くの酒場〜
夜が明けるまで、翔琉は酒を飲みながら悩んでいた。【ギャンブルとはどこまでがギャンブルなのだろうか】ということに。
(今確定していることは当事者間での合意、損得の明文化、そしてゲームがないと効果は発生しないこと)
(完全なる運が勝敗の鍵を握っていることがギャンブルとしての要件なのだろうか、それとも単純に勝敗の付くものがギャンブルなのだろうか)
(後者のものなら二人零和有限確定完全情報ゲームの類は当事者間での力量の差でギャンブルにはならない)
「…試して見るか」
《関連スキル:手品を行使しチェス板と駒を召喚しました》
翔琉は目についた老人に声をかける。
「なぁ爺さん、俺とチェスしないか?」
「チェス?なんじゃそれは」
翔琉はチェスのルールを教え込む。賢い年寄りだった為1時間で教え終えた。
「爺さんが勝ったら俺が爺さんの飲み代を払う、俺が勝ったら、爺さんが俺の飲み代を払ってくれ」
「それで良いな?」
《関連スキル:強制承諾を行使します》
《行使に失敗しました》
「何を言っちょる、ルールを完全に理解している兄さんとそうで無い儂とでは力量差があるじゃろが」
(強制承諾が行使できない)
(ギャンブルの体を成していないのか、つまり二人零和有限確定完全情報ゲームはギャンブルでは無い…)
「そうだよな」
「爺さんすまねぇな、変なことに付き合わせちまって」
「はい、コレは飲み代」
「ありがとな!」
翔琉は酒場からそそくさと退出する。
「なんじゃあの小僧…」
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夜の道を早歩きで進む翔琉。
「つまり、運が絡む勝負でないとダメってことだな」
「ドミノ、麻雀、牌九等のタイルゲームやホールデムがギャンブルのギリギリの類か」
「…定時に鳴る鐘がしっかり鳴るかどうかはギャンブルになるのか?」
「機械や人力で決められている場合、故障や事故なんかで鳴らないという可能性もあるがほぼ皆無に等しいレベルだ、考慮に値しない数字だろうが…」
「試すしかないか〜」
だが今は深夜、予定通りに動いているものは夜中に動くことはない。
「昼の鐘で試すか」
夜はまだまだ明けない。
_________________________
「うーん、おはようお母さん…」
旭が奈々の顔を焼く。
「お母さん?」
「…ん、うわ!」
「フェルフィーナちゃん」
フェルフィーナの顔が目の前にあった。
「おはようございます、お姉さん」
「お、おはよう」
「ぁぁそれと、ナナで良いわよ」
「わかりましたナナさん」
挨拶をしていると、扉が開いた。
「ただいま、2人とも起きたか?」
「お帰りなさい、本当に野宿したのね」
「お帰りなさい、お兄さん」
「お風呂沸いてるよ?」
(記憶操作って凄ぇな)
「…ああ入る、あとカケルでいいぞ」
「それと、ナナはなんで俺の部屋がわかったんだ?」
「使用人の方にに調べてもらったの」
「国王陛下の無礼で怒ってるんじゃないかと思って」
「だからこそ、今日は奴を見返してやる」
「嘲笑う準備は完璧だ」
「本当に勝てるのかな…」
「勝てるさ」
国王との勝負は契約が行われていた。つまり、2人の対戦がギャンブルとして扱われたということだ。この場合職業スキルによって奈々が必ず勝利する事になる。
「勝てなくても裏でいくらでも力を貸してやるしな」
「それ卑怯でしょ」
「勝てばいいんだよ勝てば」
((うわぁ、クズだ))
そう言いながら脱衣所へと入って行った。風呂から上がり、3人は食堂まで降りる。すると下の階には王城で見かけた兵士が立っていた。
「お迎えに参りました」
「ご苦労様です」
深々と頭を下げる奈々。それに釣られてフェルフィーナも頭を下げる。下げなかったのは翔琉だけだった。
「じゃあ行こうか」
「失礼ですが、その子は…?」
フェルフィーナを見つめる兵士。
「この子は私達の妹で親から離れて一人暮らしする間まで預かっているんですよ」
「何またホラ吹いてんだよ」
「仕方ないでしょ」
2人のナイショ話を見つめながら、3人は馬車に乗る。自動車が通過する道を馬車が通っている為、注目を浴びている。
「…ナナ、フェル」
「俺とギャンブルをしないか?」
「「ギャンブル?」」
2人は眉を顰めた。
「あの鐘が12時になると鳴るに賭けてた方の勝ちだ」
「負けたら勝った方に2000Telな」
「そんなの鳴る方に賭けるわよ」
「わたしも」
「じゃあ俺は鳴らないで」
しばらくすると鐘の音が聞こえる。
「ほらね」
奈々が凄んだ。
「ふむ」
(やはり、普段から確定しているようなものはギャンブルの対象にはならないか…)
翔琉は2人に2000Telずつ渡す。そうこうしていると王城内の学校に到着した。
「これが言っていた学校か?」
「多分、私も初めて来たわ」
「こちらです」
兵士の跡をつける、3人とも警戒している。坂を登り、校庭へ出るとそこは即席のアリーナになっていた。
歓声と騒音が耳を劈く、W杯の様な熱狂である。
「玉座が賭かっている事に興味津々なんだな」
3人は兵士に連れられて控室へと向かう。控室にはデブ王もとい、マラフェスタ8世が踏ん反り返っていた。
「待ちくたびれたぞ」
翔琉は一歩踏み出し人差し指を向けて言う。
「お前のデブ活は今日で終わりだ」
「何を!」
「改めて言うが、ナナが勝てばお前の玉座はナナのものとなり、お前はこの国からグッバイ、逆にナナが負ければ俺がなんでも言うことを聞く奴隷になる」
「分かっておるわ」
「んまぁ、開始時刻まであと30分ほど、心置き無く過ごしたまえ」
「そしてこれがお主らの朝食じゃ、今日で最後の晩餐になるからのぉ」
「進言どうもありがとう」
皮肉たっぷりの返答。
「フン!」
盛大に煽り散らかした翔琉は憤慨した国王の退室を見届けた。
「あんな言い方酷いでしょ」
「お前はどっちの味方なんだよ」
「酷い目にあったのは俺の方だ」
「それはそうかもしれないけど…」
「まぁあと30分だ」
「落ち着いて行けよ」
「相手がガキだろうが老耄だろうが女だろうが構わず一本取ってこい」
「うう〜」
奈々は地団駄を踏む。
「カケルさん、私は何をすれば?」
「フェルフィーナ…長いからフェルでいいか?」
「うん、フェルでいいよ」
「この後は観客席で試合を見るぞ」
「分かりました! ナナさん頑張ってね」
尻尾を揺らしながら、フェルが先に控室から出て行く。
《魔力を49000消費し、魔術:解毒魔法・呪詛耐性魔法を行使します》
「がんばれよ」
フェルの後を追う翔琉。1人残された奈々は机に並べられた朝食を食べるのだった。
_________________________
「「「「「うおおおおおおお」」」」」
決闘開始時刻になり、2人が入場する。翔琉が対戦相手は初めて会った冒険者、ガイルだった。
翔琉は観戦席でフェルと一緒に対戦相手を見る。
「やっぱりか…」
「どうかしましたか?」
「いや、特に」
〜フィールド〜
「宜しくお願いします、使者様」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
2人は深々と頭を下げ合う。その後は特に会話もなく、レフェリーが入場した。
「ルールは一本勝負」
「致死ダメージを与える攻撃は禁止とする」
「つまり、殺さなければいいんだな」
「?!」
奈々はガイルのの衝撃的な言葉に息を呑む奈々。
「構え!」
レフェリーの掛け声を聞き、2人は剣を構える。
「始め!」
ガイルは奈々に向かって踏み込んだ。
「ㇶ!」
火花を散らし、剣がぶつかる。
「これを受けますか、さすが使者様ですね」
「あ、ぁりがとう」
「っ!」
奈々の剣が弾かれ、丸腰となる。
「はぁ!」
ガイルが奈々の腹部を狙い剣を突ぬこうとしたが、奈々は腕で剣を受け止める。腕からは血が垂れ、痛みで体が身じろぎする。
「ほう、ならこれはどうですか!」
ガイルの懐から暗器が飛び出す。
「っ!」
奈々の腹部から血が溢れ出る。
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