挑発♦︎


 野田山奈々、翔琉の元クラスメイトである。


「貴方、どうやって王城に」


「門から…」

「それよりいい待遇してもらってんだな、使者"様"」

「自分から転移者って名乗ったのか?」


「いえ、転移先が国王陛下の前だったのよ」


「それは災難だな」


「私の手の甲に神の紋章が書かれてて、そこから使者の話が王の元に伝わり、この扱いよ」


「そんな紋章俺にはねぇぞ」


「見えないとこに書いてあるのかも、ちょっと見せて」

「あ、ほらここに」


 奈々は翔琉の襟足を持ち上げて指を差す。


「項か?」

「そりゃ見えねぇわ」


「そんなことより、何しに来たのよ」


「冷たいなぁ、クラスメイトに会いたいのは当たり前だろ?」

「他の奴らは?」


「まだ見かけてないわ」


「そうか…」


《魔力を140消費し、魔術:情報確認魔法を行使します》


『氏名:野田山奈々 Lv.3

 年齢:17歳』


「…」


「あなたはこれからどうするの?」


「ん? 俺か、どーしよっかなぁ」


「じゃあ私と一緒に王立学校に行かない?」


 奈々が嬉々として提案した。


「うげ、王立学校とか貴族の集まりじゃねぇか」

「この手の異世界転移で貴族がまともだった作品あるか?」


「まぁまぁ、そんなに固いこと言わずに」


「…まぁ少し見るくらいなら」


「よし!じゃあ行こっか」


「行こっか?今からか?」


「ええ、もちろん」


「やっぱり明日にするよ」


「え?なんで?」


「転移したばかりだ、まだやることがある」


「やる事?」


「職とかな」

「お前が早すぎるんだ、転移してまだ数時間だぞ?」


「そうは言っても」


「ここで寝泊まりできるんだろ?それか学校の寮とか」


「その筈だけど」


「いいよなお前」

「俺は宿泊まりだ、金が要る」


 要らない。ギャンブルでどうとでもなる。


「国王陛下に転移者だって言えばいいじゃない、特別待遇とかがあるかもよ」


「お前そういう特別待遇OK派だったか?」

「格差毛嫌いしてたろ」


「だってこの世界の勝手がわからないうちは迂闊な行動取れないでしょ」


「まぁ、そりゃそうだが」


 盗みという迂闊な一手を取った翔琉には、居心地の悪くなる話の内容だった。しかし、リスクを取ってでも必要な一手である。


「取り敢えず、やる事済ましたらお前のとこに行く」

「どの世界でも、安定職につかないといけない」

「日本ほど酷くはなさそうだしな」


「確かにね…」


 2人は日本の惨状を思い浮かび、落胆する。


「…入学するんだろ、いつするんだ?」


「詳しい話はまだ何も聞いてないわね」


「そうか…」

「学校は何処にあるんだ?」


「確か、王城内にあるって言ってたわ」


「結構広いんだなこの城」


「東京くらいあるのかしら」


「流石にない―」


「「?!」」


 空襲警報のようなサイレン音が聞こえた。その直後、部屋の戸がノックされる。


「ナナ様、今宜しいでしょうか」


「大丈夫よ」


「失礼しますナナ様」


 使用人が入室する。


「…何者かによって王城内に魔物があられました」


「ええ?!」


「…!」


「…ナナ様、そちらの方は?」 


「えーっと私の弟よ」


「はぁ?」

 

「話し合わせて(小声)」


「あー、そうそう俺の姉」


 下手くそな嘘である。


《スキル:詐欺を行使します》


 訝しむ顔をしていた使用人は何事もなかったかのように、入室時の普通の表情へと戻った。


「私達も現場に行っても?」


「はい、その為にご報告に参りました」


「分かったわ!」


 奈々は急いで準備をし、コインを転がし遊んでいる翔琉の腕を引っ張り部屋を出た。


 〜騎士団総本部〜


 騎士団や王宮の魔法使い達が巨大な魔物、ハイベヒーモスと戦闘していた。


「ど、どうしよう!」


「取り敢えず倒さないと話にならんだろ」


 焦る奈々に対して翔琉は飄々としている。


「た、倒す?! あんなにデカいのに?!?!」


「ならこのまま王城で飼うか?」


「うっ」


 奈々は翔琉の論に舌をつっかえる。


「ナナ、戦えるか?」


「…多分」


「援護任せた」


「ちょっと翔琉!」


《関連スキル:身体能力超向上、戦闘力超向上を行使します》

《魔力を5000消費し、魔術:水鉄砲を行使します》


「グヲァアァァ」


 ハイベヒーモスの片腕が飛ぶ。


「え! 嘘!?」


「ナナ〜援護〜しろ〜」


 翔琉から催促され、腕を前に突き出し魔法を放つ準備をする。


「もう!……魔術“ギガメテオ“」


《魔力を6000消費し、魔術:ギガメテオを行使します》


 青空は曇天となり、稲妻の塊がハイベヒーモスを襲う。


「ヲヲヲゥワァアア」


 ハイベヒーモスが膝をついた。


「じゃあ、美味しいところは貰ってくぜ」


《魔力を200消費し、魔術:手刀を行使します》


 翔琉はハイベヒーモスの首を切り落とした。


「「「うおおおお」」」


 応戦していた団員や魔法使い達が喝采する。


「いつの間にこんな野次が」


 翔琉は野次馬を睥睨しながら呟いた。


「よくやった使者ナナ!」


「あ、デブ王」


「国王陛下!」


 騒ぎを聞き駆けつけた国王が仁王立ちをしていた。奈々は急いで跪く。それに反し、翔琉は高圧的に突っ立っている。


「我が国を守ってくれた事を喜ばしく思う」

「褒美をくれてやろう参れ」


 国王は王笏をブォンと振り歩き始めた。


「は!」


 奈々は国王の後を追う。


「カケル…!」


「あ、俺も行くのか」


 〜マラフェスタ王国王城、玉座の間〜


 絢爛豪華。誰が見てもそう言うだろう。金色の装飾に色とりどりの宝石が埋め込まれた柱。紅色のカーペットが気品さを際立たせ、大きなステンドグラスが王の存在を誇示している。そんな空間の中央。玉座にふんぞり返り、国王は髭を弄りながら奈々に告げる。


「使者ナナよ、其方のおかげで我が国が滅ぶことは無くなった」

「欲しいものを1つだけくれてやろう」

「なんでも言ってくれ」


「失礼ですが、まだ欲しいものは存在しません」


 奈々は素直に応答した。


「そうか、なら欲しいものができれば言ってくれ」


 話はそれで終わり。そんな空気感が玉座の間に漂う。


「国王陛下、今回の魔獣を倒したのは隣の男であります、彼にも何か」


 奈々が痺れを切らし、国王に進言した。国王は奈々の進言を聞き翔琉に視線を飛ばす。


「男には見えぬが…」

「ふむ、貴様見るからに貧民の様じゃが出身は」


 憎たらしい言い方で翔琉へ尋ねた。その言い方に、翔琉は苛立ちを覚える。


(なんだとこのクソデブ、目が脂肪で潰れてんじゃねぇのか)

(俺が…あんな奴らと同じ貧民だと…?)

(皆から迷惑がられ、ヘイト要員にしかなれない、その上国の役にも立ちやしないどころか被害しか与えない害悪共と…俺が同じ…?)

(ふざけるなよ)

(俺は君主に匹敵するほど尊く、皆から敬われて然るべき存在…決めた…デブ王…お前には恥辱を味わってもらう…!)

「お答えできかねます」


 慇懃な答え方。しかし、その場にいた全員が無礼であると感じる程に煽りを孕んだ返答だった。


「ほう、じゃがあの魔獣を打ち倒したのは使者ナナの魔法あってじゃろうが」


 国王は翔琉を再度挑発した。嫌味な微笑みが、より一層翔琉の逆鱗に触れる。


「こ、国王陛下」


「だれか、その者を連れ出せ」


 奈々の微かな諫言虚しく、国王は翔琉を追放する為、兵士が翔琉を押さえ込んだ。


「…俺に…触れるな」


《関連スキル:武術超覚醒を行使します》

《スキル:柔術を行使します》

《魔力を80000消費し、魔術:腐敗進行を行使します》


 翔琉の声が聞こえた瞬間、押さえ込んでいた兵士が四方に吹き飛んだ。


《アンロックスキルから認識操作、記憶操作、魔術威力超向上を獲得しました》


「ぬぉ?!」

「魔術師達よ! 早く奴を!」

「な!?!?」


「か、カケル?!」


 気づけば翔琉は国王の目の前に立っていた。

 玉座に近づける者はそれ相応の資格のある者。国王は貧民が自身と同じ場所にいる事に怒りを覚える。


「なぁ国王…俺と1発、勝負しねぇか?」

「お前には不釣り合いなこの玉座を賭けてギャンブルだ。この国1番の実力者とナナを戦わせる」


「私?!」


「そいつが勝てば俺はなんでもしてやる。文字通りな」

「だが、ナナが勝てばこの国はナナのもんだ」

「どうだ?お前は嫌いな奴を好きにできる。俺はナナが勝てば都合がいい」


「な、なにをほざく!」


 当然反対する。怒りのままに肘掛けを叩き、手の側面から血が流れ出た。


「…」


 激怒している国王に嘲笑の視線を送り、翔琉は口を開く。


「するよなぁ?」


《関連スキル:強制承諾を行使します》


「………あぁ、良かろう」


 抗えず、承諾する。


「国王陛下?!」


「一体なにが…?!」

「貴様、一体なにをした!」


 側近達が驚き、玉座へ近づく。


「良い!これは余と奴の問題じゃ」


「…御意」


 側近達は国王の意見に反対などできない為、元の立ち位置へ戻る。


「勝負は明日、学校の校庭でよいな?」


「あぁ、好きにしてくれ」


「ちょっとカケル! 私、あの魔術で精一杯なのよ?」


 奈々が翔琉へ抗議する。


「安心しろ、気にしなくても…お前が勝つから」


「え?」


 沸いた怒りは収まらない、翔琉の矜持(プライド)を踏み躙った国王は土下座してても許されないだろう。


(……馬鹿な王に統治されているこの国が愚かで無様で見苦しくて仕方がない…!)

("新たな王"を迎え、この国は、より尊い、覇権国家へ成り上がるだろう…!)

「…やることは決まったな」


 翔琉は微笑む。その微笑みは、悪魔を彷彿とさせる笑みだった。

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