第66話 《迷宮》行脚

 《スキル》の鍛錬を終えた弟子達が次に取り組むのは、《レベル》上げのための《迷宮》巡りです。

 手始めにやって来たのは《中型迷宮》のある隠れ村。


 ネラルさんにとって第二の故郷でもあるこの村は、しばらく見ない内に大きく発展していました。

 領都の《小型迷宮》を制覇した狩人や、商人長からこの村の存在を教えられた行商などが訪れるようになったためです。

 人が増え、モノが増え、全体的に豊かになっています。


「知り合いのところに寄って行きますか?」

「いえ、大丈夫です。あいつらのことは心配はしておりませんし、邪魔をしてもいけません。何より、個人の事情で時間を無駄にはできませんから」


 きっぱりと答えたネラルさんの意志を尊重し、私達は真っ直ぐ《中型迷宮》へ向かいました。

 なお、今回は他の領主さん達に合わせて第五階層からの挑戦です。


 今更苦戦する要素など一つもなく、瞬く間に第十五階層まで到達。

 その日は区間守護者を倒して引き上げ、そして翌日、最終守護者に挑みます。


「では、指示通りの班分けでお願いします」


 ハスト村チームと領主チームに分かれてもらい、別々で戦ってもらいました。

 前回は二パーティー合同で立ち向かった相手ですが、ヴェルスさん達はあの頃から大幅に成長しています。

 人数は減りましたが、むしろ前回よりも余裕を持って勝利できました。


 次いで、領主チームも第二十階層に入って行き、そして無事に帰還しました。

 なお、私は少し前に倒したばかりなので今回は戦えません。


「ふぉっふぉ、まさかこんな少人数で最終守護者に勝てる日が来るとは。長生きはしてみるものですな」


 モルトーさんが感慨深そうに言いました。

 聞けば、守護者戦には大勢の騎士を引き連れて臨むのが定石だそうです。

 人数制限等はないので、〈術技〉と数の暴力で一気に削り取るのだとか。


「それも我ら領主が《職業》を独占していたが故でしょう。信用できる騎士達にでも《職業》を与えていれば、数人で最終守護者を討伐することも可能だったかもしれませぬ」

「仕方ないですよ。それが正しいと教えられてきたのですし、それに武帝のめいに背いてはどのような制裁を受けるか分かったものではないでしょうから」


 そう言ってガロスさんをフォローするヴェルスさん。

 それから後方の仲間達の方を向き直り、そして告げます。


「《迷宮》行脚は始まったばかりです。反省は馬車の中ででもしましょう」


 その言葉を合図に皆さんが乗車し始めます。

 全員が腰を落ち着けたところで、馬車を発進させました。


 向かうのは南、ガロスさんの治めているロクス領です。

 そこで《中型迷宮》を攻略し、その後はモルトーさんのトークス領、フィスニルさんのファスニル領、ナイディンさんの故郷であるバラッド領を順繰り回り、ここボイスナー領に戻って来る予定になっています。

 旅の目的はもちろん、最終守護者の討伐です。


 既に皆さんの《レベル》は六十を超えており、通常階層の魔物をいくら倒しても得られる《経験値》は微々たるもの。

 しかし最終守護者なら、一体だけでも大量の《経験値》を得られます。

 《レベル》差が小さく取得経験値の減衰も比較的軽く済むので、今のヴェルスさん達が狙うにはまさにうってつけと言えるでしょう。


 しばらく馬車に揺られた私達は、関所近くの村で馬車を預かってもらい、道なき山に進路を取ります。

 隣領は革命計画とは無関係。

 領主が何人も集まっているのを見られては、何かしら勘繰られるかもしれませんから。


 私を先頭に山へと足を踏み入れ、駆け出しました。


「申し訳ないですな、儂らばかり楽をさせてもらって」

「感謝」

「しょうがっ、ないですよっ。僕達は平気なのでっ、お気になさらずっ」


 なお、モルトーさんとアーラさんはこれまで馬車を牽いていたユウグに相乗りしています。

 お二人はこの中では体力が無い方なので、走らせては旅に支障が出ると判断したのです。

 私もできるだけ消耗の少ないルートを選択していますが、それにも限度がありますからね。




 さて、その後も旅は順調に続きました。

 いずれの最終守護者も強敵ばかりでしたが、ハスト村チームも領主チームも難なく打ち勝ち《レベル》を上げました。

 そして今、私達はバラッド領に来ています。


「……よもやこれほど腕をお上げになられるとは。同志も猛者揃いでありますし」

「これでパルドさんにもご納得いただけるとありがたいのですが……」

「もちろんでございます。これほどの実力者が陣営に属すとなれば、当方も腹を決めるほかありますまい。我らにできることがお有りでしたら何なりと」


 パルドさんの屋敷にて、そんなやり取りが交わされました。

 彼からの協力を得ようとしていたのです。

 目的は見事達成でき、パルドさんも革命に全面協力してくださることになりました。


「然れども、戦闘ではさほど貢献できないかと思いまするが……」

「そう言えば《槍術》がまだ《中級》のままだと以前仰っていましたね」

「ええ。最近はそれに加えて寄る年波にも勝てず……と、こんなことをモルトー殿の前で言うのはお恥ずかしい限りですが」

「いやはや、儂も歳を取る苦しみは分かっております。義侠心などで老骨に鞭を打つ必要はありませんとも」


 パルドさんは既に五十歳手前まで来ています。

 サラリーマンならまだまだ現役ですが、戦士にとってはシルバー世代です。

 たとえ今から鍛えても皆さんに合流するのは遅くなりそうなので、戦闘面での参加は諦めるしかないでしょう。


 しかしながらヴェルスさんが頼むのは別のことです。


「戦闘員ばかり多くても仕方がありませんからね。戦えるのならばそれに越したことはないですが、その他にもやっていただくことがあります。具体的には──」


 パルドさんに御前会議などでの誘導役を担ってもらうべく、ヴェルスさんは計画を話して行きます。

 立案以来、執務室の面々や各領主の側近達と話し合い、決定版と呼べるまでプランを煮詰めました。

 様々な可能性を考慮しているため内容が長くなっていますが、パルドさんは集中を切らさず聞いてくださいます。


「──成程、承りました。では、そのように」

「お願いします。出来る限り僕らに有利な反応を引き出していただければ嬉しいです。それから──」


 そうしてパルドさんからの協力も取り付け、私達は《迷宮》行脚を再開したのでした。

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