第65話 集中訓練

「ロンさん、アーラさん、タチエナさん、しばらくぶりですね。お変わりないようで何よりです」

「師匠に鍛えられたからな!」


 私達が領都に戻ってから数日、《中型迷宮》にて修行兼素材収集を行っていたロンさん達も帰ってきました。


「増えてる?」

「そうね。あんなに大きい気配の人達、領都には居なかったはずよ」


 アーラさんとタチエナさんが気にされているのは領主の皆さんです。

 素振りをしていた彼らもこちらにやって来ます。


「こいつらか、ヴェルスの仲間ってのは」

それがし達の兄弟子でもあるがな」

おとうと弟子になるモルトーと言います。以後お見知りおきを」


 一先ず挨拶を交わし、それから少ししてヴェルスさんとナイディンさん、それとネラルさんがやって来ます。


「すみません、お待たせしました」

「仕方ありませんよ。色々と報告もあったでしょうしね」


 隠れ村の元狩人長で、魔物討伐隊を率い領内各地を巡っていたネラルさん。

 その際に得た情報を共有するため、執務室でヴェルスさん達と話し合っていたのです。

 とはいえそれも終わったようで、中庭に出て来たヴェルスさんは咳払いを一つ挟み、話を始めました。


「ここに集まっていただいた皆さんは打倒武帝のための主要な人員です。計画開始まであと三ヵ月、これからは集中的に訓練をしていきます。それでは師匠、本日の具体的な方針をお願いします」

「承りました」


 ヴェルスさんの代わりに前に出て、話を引き継ぎます。


「今日はまず模擬戦をしましょう。長い付き合いになるのですし、お互いの実力を身をもって知っておくべきです。対人戦の練習にもなりますから」

「「「わかりました」」」


 という訳で、弟子達九人で班対抗の模擬戦を行います。

 ヴェルスさん達ハスト村チームと、同盟を結んだ領主さん&ネラルさんのチームに別れてもらいました。

 人数差及び模擬戦で魔術師は仕事がし辛いため、アーラさんは観戦です。


「審判は私が務めます。……よーい、始め」


 バッと手の平を振り下ろすと、両集団がぶつかり合いました。

 優勢なのはハスト村チームです。

 単純に指導期間が長いのもありますが、共に戦った時間の長さから息の合った動きが出来ています。


 しかし、領主チームも負けてはいません。

 ネラルさんの強化バフによって《パラメータ》を高め、ハスト村チームの連携に対抗しているのです。

 また、モルトーさんとネラルさんは集団戦の経験が豊富なので、俯瞰的な立ち回りで味方をフォローできています。


 一進一退の攻防は続き、やがて決着。


「そこまでです。勝者、ハスト村チーム」


 結局、練度と連携の差は覆せませんでした。

 さて、戦闘が終われば反省会です。

 相手チームで最も脅威に思えた人を挙げて行ってもらいます。


「特に強かったのはフィスニルさんでしょうか。身体能力が驚異的でこちらの陣形も随分と引っ掻き回されました」

みな強かったがあえて挙げるならナイディンだろうな。この中でも一段上の実力であったように思う」


 多少のばらつきはあったものの、おおよそこのような意見にまとまりました。

 実際私も、ナイディンさんとフィスニルさんの強さは頭一つ抜けていると思います。


「ではそのお二人と他の皆さんの違いとは何だと思いますか?」

「違い? んー、武器じゃねえよなぁ。槍と爪だし」

「《ユニークスキル》や《称号》を持っているわけでもないわよね」

「……ふむ、《職業》の格、ですかな?」

「ええ、まさしく」


 ナイディンさんの答えを首肯します。


「お二人共上級の上位に位置する《特奥級》の《術技系スキル》と、それに対応する《職業》を持っています。それが実力を大きく押し上げているのです」


 《特奥級職業》の《パラメータ》補正はもちろんのこと、付随する《職業スキル》も強力です。

 例えば《槍豪》の場合はこう。


《槍術巧者》槍豪専用職業スキル:自身の使用する〈槍術〉に対し、消費体力軽減、硬直時間短縮、発動補助の恩恵を与える。


 通常、〈術技〉は対人戦では使い辛いです。

 発動するのに溜めが必要で、発動後も硬直が発生しますので。

 しかしこの巧者系職業スキルがあれば、デメリットは大幅に緩和されます。


「そこで、集中訓練の第一段階として皆さんには《特奥級》を目指してもらいます。厳しい道のりと思われますが、よろしいですか?」

「「「はい!」」」


 取りあえずの目標を提示しました。

 色よい返事をいただき、訓練を始めます。


 今度のは一対一での模擬戦です。

 《術技系スキル》の習熟を闘志が左右する以上、実戦形式の方が効率がいいのです。


「では、アーラさんはこちらに」

「了解」


 これまで観戦してもらっていた彼女への指導も始めます。

 私が教えるのは、もちろん武術です。


 アーラさんは魔術師ですが、《職業》の《パラメータ》補正を得るためにも、何らかの《武術系スキル》が欲しいと仰られました。

 純粋な魔術師のままでは武帝さんの戦闘速度に付いて行けませんし、ちょうど良い機会だったと言えます。


「アーラさんの場合は《体術》の適性が高いようですね」

「そう?」

「そうなのです」


 言って、まずは準備運動をします。

 全身の関節を回し筋をほぐし、体を温めます。

 魔術師とは言え狩人をしている彼女は、この程度では息も切らしません。


 すぐに本格的な指導に入ります。

 まずは正拳突きの練習。

 手本を見せて、それを真似してもらい、修正箇所を指摘しながらゆっくりと理想の一撃に近づけていきます。


 合間合間に模擬戦組への指導も挟みつつ、アーラさんの指導をステップアップ。

 蹴りの練習、防御の練習、隙の無い足運びの練習等々、とにかく基礎を固めて行きます。

 そしてアーラさんの腕が上がらなくなり、模擬戦組の体力が限界の限界の限界を迎える辺りまで訓練を続けました。


「今日のところはこのくらいで良いでしょう。皆さんお疲れかとは思いますが、ストレッチを忘れないように」


 そのようにして初日の訓練は幕を下ろしました。

 次の日も、その次の日も同じような稽古が続き、一週間後、アーラさんの《体術》が《中級》になりました。

 それにより模擬戦に参加するようにもなり、初めは拙いながらも段々と戦い方を学習していきます。


 その頃には弟子達の半数が《特奥級》に至っており、残された者も早く追い付こうと気炎を上げていました。

 そこからさらに一週間、アーラさんが《体術(上級)》を覚え、そして他の弟子達が全員特奥級になったところで訓練の第一段階は終了を迎えました。


「皆さん、二週間にわたる辛く苦しい基礎訓練、よく耐え抜きました。今の皆さんであれば、次の試練も易々と乗り越えられるでしょう」


 そして、一拍開けて続けました。


「それでは、《迷宮》行脚あんぎゃ開始です」

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