第11話 由紀子

沖縄は朝を迎えた。

由紀子は、新鮮な空気を吸うために、野戦病院の地下壕から出て、首里山からふもとを見ていた。


読谷よみたんの辺りに黒煙が上がっているのが見えた。

由紀子は、ついさっきまで、この沖縄の地に宮里拓真がいたことを、知るよしもなかった。


その後も、沖縄戦は激しさを増した。

由紀子がいた首里の司令部が陥落した。


学徒隊には解散命令が出た。

解散?

私はどこに行けばいいの?

いつ米兵に襲われるか分からない。

こんな戦地に女学生だけ残され、由紀子たちは途方に暮れた。

学友は次々に自決していく。

私も、死ぬべきなのだろうか……


由紀子は拓真との約束を思い出していた。

ここで自決しては、拓真との約束を守れない。

何としても生きないと……


昭和20年6月23日。

日本軍の司令官が自決。

沖縄の日本軍の、組織的な抵抗は終わった。

しかし、ゲリラ戦はまだ、続いていた。



昭和20年8月15日。

日本は無条件降伏した。


由紀子は、生きて終戦を迎えることができた。

しかし、宮里の家族は残念ながら、生き残ることができなかった。

由紀子のことを知っていた宮里の親戚が、拓真の遺品を届けてくれた。

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