"ごめんなさい"と"ありがとう"

「お前の姉ちゃんも一緒に連れてきたんだけど入ってもいいか?」

「え!ほんとに!!もちろん」

元気な声が聞こえた。

「久しぶりだね柚姉さん。元気にしてた?」風吹はニコッと笑った。

「まぁまあってとこかな?」軽く笑うと柚香は風吹の近くの椅子に座った。 

「そういえばこれ、花屋で買ったやつ綺麗だなーって思って」柚香は白いバラを差し出した。

「バラかー凄く綺麗だね。ありがと!」

そばの棚にそっと花束ごと置いた。この前俺が持ってきたガーベラは未だに生き生きと花瓶にさしてあった。

それっきり話が続かなかった。沈黙の空間。それを柚香さんが破った。

「調子はどう?」

「やっぱ、まぁまあってとこだね」

「そっか」

「あのさ…僕ってあと何日生きられるの?」

柚香は驚いたような顔をして俺たちの方を向いた。

きっと俺が余命のことを風吹に話したのではないかと思ったのだろう。

俺は風吹にバレないように首を少し横に振った。柚香は首に冷や汗をかいていた。

「この前お医者さんが看護婦さんと話してたんだ。僕って余命があるんでしょ」静かに息を呑む。

「今まできっと僕のために隠してくれたんだと思う。ありがとう。でも僕も薄々気づいて来てたんだ。覚悟はできてる。僕は悔いなく生きたい。僕は、どれくらい生きられる?」

柚香の目からじわじわと涙があふれる。病室に彼女の嗚咽が静かに聞こえる。言いたくなくて、認めたくなくて、ずっと隠し通してた。ここで言ってしまうのは駄目かもしれない。きっと余命を患者に周りの許可なしに伝えるなんて危なすぎる。彼女は迷いに迷っていた。

「わからない…。どうしていいか分からないの…」

彼女なりの決断だったと思う。それが正しいことなのかは俺にも分からない。

「ごめんなさい。なんにも言えなくてごめんなさい。どうにもすることができなくて、ずっと逃げてた。姉らしくなくてごめんなさい。」ごめんなさいの連発。

それを止めるように風吹は優しく姉を抱きしめた。

「ずっと僕のために、ありがとう。


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