姉失格
「3年の教室はー…」
現在、私仁奈は渚と一緒に柚香と話すために廊下を歩いている。
「ところでさ柚香になんて言うつもり?」
「俺らと風吹の病室に行ってみませんかー?って聞いてみる」
「お見舞いなら姉なんだからよく行ってるんじゃない?」
「そりゃそうかもしんないけどさ、俺らだってあの二人の姉弟に聞きたいこと沢山あるじゃん」
「まぁ。うん確かにねー」
3年5組の教室の前にたどり着いて、中を伺う。
キャアキャア話してる一軍女子の集団や受験勉強に向けて頑張っている努力家達、何やら取っ組み合いでもしそうな男子などがいて活気に溢れていた。
その中から柚香を探す。
「どーしたの君ら?誰か探してるの?」
そんな中、私よりも何センチか背の低い女子がひょっこりと現れて話しかけてきた。
「谷川柚香って言う先輩を探してるんです。もし居たら呼んでもらえませんか??」
「おけ!」
「ゆーずー!後輩さん達がお呼びだよ〜」クラスに響くような大きな声でそう言った。
「はーいはーい、ありがとね!なっちゃん」
なっちゃんと呼ばれた女の子はトコトコとクラス内に戻って一軍女子の中に溶け込んでいった。
「えーと…久しぶりだね君たち」
「まあ昨日会ったばっかなんすけどね」渚が目を逸らす。
「で…何のようかな?」柚香は気まずそうにぎこちなく聞いてきた。
「俺らと一緒に風吹の病室に行ってみませんか?」
一瞬、柚香の顔色が変わったような気がした。
「え…?なんで?」
「私も渚も風吹くんや柚香について聞きたいことがあるの。だから…」
「風吹のこと?もう治らないって言ったじゃない。
…それともほんとは全部あの子に伝えてないこと?風吹が余命がもうほとんど無いに近いことも!全部、全部。私は口止めされてたんだよ。それを今更本人に伝えてもどうにもならないじゃない!」
柚香の一言一言に含まれる言葉の爆弾を正面から受けながら、渚は啞然としていた。
「は?…余命がほとんど無いってどういうことだよ?」
柚香ははっと口を抑えながら、しどろもどろしていた。
「いや…これはそういうことじゃなくて」
そして無言で去ろうとした。
「まってよ!」私は勢い余って柚香の袖を掴んだ。
「柚香は怖いんでしょ?弟にどんな顔をされるのか、不安でたまらないんでしょ?じゃあ…さ今度は勇気を出して向き合ってみたらいいんじゃない?」
……何も詳しく知らない私がこんな無茶なことを言ったって傷つけるだけだ。ごめん。と繰り返し心の中で唱えた。
「ありがとう仁奈ちゃん。でも二人共、ちょっとだけ考えさせて。時間を頂戴。」
柚香は切なそうでどこか物悲しそうに微笑んだ。
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