もう二度と失いたくないんだ

「はじめまして。俺は高藤渚。よろしくな」

こうやって誰かと挨拶を交わすのも何回目なのだろうか。

僕は幼い頃から病院で入退院を繰り返してきたせいで何回も同じ部屋の人が命を失っていくところを、弱っていくところを見たことがある。

ある時は隣からその子の母親らしき人の泣き声が聞こえたこともある。もう、考えたくもないけれど脳裏に焼き付いて離れてくれない。

せっかく親友と言えるほど仲良くなれた友達も最近死んでしまった。

それから僕は怖くなった。生きていくことが。

大切なものを失った僕に、何が残されているのか。

僕は学校にも行けない体だから、《友達》というものを病院でしか作ることができなかった。

何回か学校に登校したことはあるけれど、ずっと欠席しているせいなのか、最初は心配してくれたクラスメイトも僕のことを始めからいなかった者のように扱ってきた。

でも、僕にとって一番の思い出はまだ、体があまり悪くなかった小学一年生の頃、近所のお兄さんが僕にサッカーを教えてくれた。

ドリブル、パス、シュート。

僕にとってサッカーはかけがえもなく、新鮮な思い出だった。

そのサッカーを教えてくれたお兄さんは引っ越してしまったけれど。

でも、僕にもう一度チャンスがあるならば友達とサッカーをしてみたい。

そして、僕は勇気を出して微笑んだ。

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