第27話 どこか、黄泉の国
何も変わらない。
こんな状況で僕は何も変われない。
こんな緊急事態にどうすればいいんだろう。
僕はシーツを投げ捨て、暗いベッドの上から恐る恐る下りた。
どこか、別の人になって異世界の果てへ逝きたかった。
どこか、哀しみのない大地へと這いつくばって逝きたかった。
苦悶から逃れられるのなら逃れたかった。
伊弉諾尊は伊邪那美が魑魅魍魎の黄泉の国へ逝ったばかりに、伊邪那美は、産屋を立てる代わりに死を連れようと、酷薄に有象無象の人々の運命を呪うんだね……。
青い月明りを浴びたベッドから下りると、ふらふらと仄かに暗い水の底のような廊下へ出た。
向こう際は紅い照明がいびつに光るナースセンターしか存在しない。
小さく纏まった僕は廊下で手をふらふらさせながら俯いた。
母さんが僕を刺した血の克明なのっぺりとした赤さを僕は、はっきりとこの身を持って覚えていた。
鮮明な血の赤さ。
それは紛れもない血。
嘘でもない本物の血。
べったりと僕の記憶の海中に澱みながら残っている。
僕は廊下でいつの間にか、頬の柔らかい岸壁に流れ落ちた、ぬるい涙を堪えた。
――泣いているのかい、どうして、そんなに泣きたいのかい? と道化師が哄笑しながらどことなく、尋ねている。
目前のモノクロの病棟の壁は、希望までもが荒廃し、文字通り廃墟になった城壁のように崩れ落ちそうだった。
ここでは、ダンデが迷い込んだ暗い森の地獄の入り口のように晦冥に閉ざされ、月影はここでは一ミリたりとも照らされないのだ。
「永劫不滅の歳月が戻ってくる方法を教えましょうか?」
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