第26話 ひとつ、ふたつ、みっつ
母さんは二人きりになっても名前を知らない父さんの分まで、カバーするように常日頃から頑張っていた。
運動会のお買い物競争、父の日の手紙、夏休みの絵の宿題や日曜大工まで独りで奮闘してくれた。
変われるのなら骸骨に跪く過去を変えたい。
誰も迎えに来てはいくれないだろう、ここで辱めを受けている、こんな僕には。
カーテンを仕切ると朧月がますます、光栄に見えた。
春の夜の月と春の星だけはこんな小さく丸まっている僕を責めない。
母さんに会えたら謝りたい。
こんな丸く収まるような、身の小さい僕のために罪を犯してごめんなさい、と。
消灯時間になっても朧月は変わらず、こんな氷室のようなベッドの上で眠れるわけがなかった。
僕は凍えるような乾いたベッドの中で数えた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
――ほら、倦怠感を引き連れて、オベンチャラを述べて、何も変わらない。
青い月光を浴びた嗚咽を堪え、一筋の涙を零したら迷惑をかけるから、とそれだけは依怙地になり、何としても厭いたかった。
何も変わらない、チョークで描いた、つまらない日常を嘆くよりも僕は変わる展望を希求したい。
母さんは冷たい拘置所でもっと、つらい思いをしているんだし、僕がここでへこたれたらいけない。
僕は春の月と眠る夜更けに思考回路をぐるぐると回した。
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