第22話 桜は死の花、


その馬面で、どういう権限を牛耳って、男性看護師がいけしゃあしゃあと述べたのか、理解に苦しんだ。



ああ、自殺する僕らなんてみんな、罵倒されるんだね……。保護室の中で激烈な耳鳴りがする。


ああ、昨日のニュース放送で芸能人が自死したニュースが無表情に拡散されていたような。



その芸能人は幼い頃から過酷な芸能界で華々しく活躍し、その甘いルックスを武器にこんな保護室で身を固めている僕よりも恵まれていたように思えた。


しかし、僕は彼を罵倒できなかった。


ニュースの一報が流れたとき、ほとんどの患者さんの眼が凍りつき、その場が寒々しかった。



明日は我が身だ、とみんなが平等に納得したからだだろう。


僕が保護室にいる最中にその訃報は耳に入り、看護師たちは各々、当事者の僕が驚くくらいに狼狽していた。



看護師の中にはその芸能人の熱烈な大ファンだった者もいて、涙を流しながら膝を崩していた。


僕はそれを見て、逆に支援するはずの看護師のほうが病んでいくように感じ取った。



誰もがその悲劇的な自死を責めなかった。


僕が死のうとした行為さえも、逆に変に同情された。


そのおかげで動揺した看護師や主治医から保護室の退出の許可をもらい、あっさりと逃れられた。



あの芸能人の自死のニュースに日本中が釘付けになり、狂騒に堕ちていくように感じた。


僕もまた、自ら命を絶った彼に酷く同情した。



桜が散らすように命が散っていく。


桜は死の花なのだ。



磐長姫の申す通り、桜は死を司る花なのだ。


 

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