第19話 転落少年


母さん。


僕は地上の果てから、この春の世の月を壊したいよ。


涙を拭いて、さあ、転落少年よ、泣いても何も変わらないだろうよ。


嗚咽したら、荒んだティッシュの束が増え、ただ、後ろめたさが残るだけだろうよ。


たぶん、誰も僕の強情を内定し、己のテリトリーに受け入れてはくれない。



今日も他の患者さんの悲鳴が保護室から防音室の反響のように聞こえた。


パニック状態になりたいのを堪えながら思わず、現状を信じられずに耳を塞いだ。


ここで僕は思い描いていた夢を捨て去り、一生を酔生夢死のまま、敗者のレッテルを貼られ、余生を終えるんだろうか。


いいや、月光を浴びてしまった、水辺に静かに咲き誇る、星に広がる桜を愛した、僕はここで息をするだけでいいんだ。



「僕は僕でない。……春時雨の、雨水が垂れる桜の飴は固い」


 落選した現代詩の、駄作と評された詩集を気取った、独り言が妙に空々しい。


「どうせ、何も報われない。報われない人間は報われない……」


駄作の詩編が僕には酷似している。


そんなタイトルの現代文学の小説もあったか。


未読だけど。



「言葉からも嫌われるのかな……」


僕の診断名の障害とは感受性が著しく、欠如した障害なのだそうだ。


専門書に散々書かれていた。



唇を噛むように僕は僕の中にある詩編、詩情、詩想、詩法、詩人に唾棄される。


詩にまつわるスペックが、無残に零れ落ちていく。


感性のない、障害を抱える僕には診断表を誤解する権利も義務もないのだった。


 

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