第14話 紫苑色の夜の底
口を離した途端、胸糞悪い腐った豆のような異臭が僕の鼻腔を突き刺した。
「そうなのか。俺はこういった定形的な、淫らな少年が、賞賛を浴びる、がり勉で優等生なのが、正直、びっくりするよ。どうやったら、大した勉強時間もなくて、あんなに軽々と断トツな成績が取れるか、気になるな」
淫らな少年、とあいつが言った呼称に僕は忸怩たる慄きが身を巣食った。
そうなんだ、僕は第三者が見ても、絵に描いたような淫らな少年。
幕府から発禁処分になった、卑猥な春画のように、エロティックな若衆のワンシーンを僕は演じ、蒼茫の快楽主義の臨場を描き、僕は恋情の勝算を会得しようと無理しているのだった。
「誰もが羨むような優等生をこんなに慰み者にできて……。快感だな」
あいつの粗末な感想に呆れもしない。
紫苑色の夜の底、僕はあいつの思惑通り、慰み者は慰み者として、青い演技の神髄を磨いた。
「快感って?」
卑語を知らぬ幼子の振りをして媚びた。
「死」
あいつは僕の棒読みの台詞を一切合切無視して浸っている。
庇護されぬ僕はあいつの餌食になった。
どう、努力を続行しても、何の運命論に査定は下されない、水無月の鏡池にある、藤納戸色の花菖蒲が咲く、夜半の刻時、僕はあいつの胸元でうたた寝していたようだった。
目が覚めたら、虎狼の食い逃げのように、僕は情事の後味の悪い、後始末のタイミングで目が覚めた。
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