第12話 夜這い星の台本


あいつは逢瀬のプレゼントとして、僕の口を塞ぐよう、無理やり激烈に接吻した。


生温い舌が咽喉へ侵入しようと、頬の裏側の底を舐め回し、その穢れた右手は僕の胸、乳首に触れ、節々に蓮っ葉になった、ライムグリーンの純情を手に負えない。



身体は本能的に反応し、煮え滾るように余熱を帯び、ああ、ああ、あと少しで紛糾するよう、熟した杏子をつぶすように僕自身も快楽を覚え、精を放とうとしているのだ、と知る。


刀身のような銀嶺の硬さがこの青い衾で殉職させようとしている。



「――やめてよ。くすぐったい」


言の葉を吐こうとしたその刹那、密着した蛸壺に独りだけ、仲間を裏切った傍若無人の蛸のような唇が離れた。


媚びるようにあいつの充実な欲求に応じないと、あいつは激昂し、惨めに折檻するまで僕をいたぶるから、僕はシナリオ通りの夜這い星の台本を棒読みする。



「僕はお兄ちゃんがいちばん好き。本当に好きだから」


あいつは僕がおじさん呼ばわりするのを何かと毛嫌い、もし、ひょんなときにおじさん、とでも言えば、愛撫は時計が逆回りになるようにいとも簡単に激しくなるのだった。


それをわざと要求し、言葉を変えながら僕と深夜、不潔と不吉なままに遊んでいる。



「おじさん、大好き。ああ」


つい、本音が飛び出したその刹那、あいつはスタートラインを切ったように生暖かい手に平を駆使して、片方の手で僕の細い首を絞め、僕の見え隠れした陰茎を空中に晒しながら嬲り、何度も罵倒しながら情事を決行した。これで僕が誰もが苦笑するような、ラブリーの奴隷になったのは何回目だろう。



「クソ。この売女」


 あいつは売女、と罵った僕を下僕として扱い、当の僕は虐げられた子犬のように従順になっている。



「お前は悪い子なんだ。いい加減にしろ!」


この光景を他の誰かが見下ろしたら、さぞかし、コケティッシュに見えるだろうよ、と僕は慣れた手つきであいつの思い描く少年像を演じた。


 空虚な酷愛の誘惑を僕は演じ切ってしまっている。


 夜の街へ繰り出す、少女のように甲高い声で呼び合う、小夜中のお暇。


月下美人を咲かすように、ブルースターを咲かすように、僕は無理やり、あいつの、凶悪犯罪小説の旗手である、ドストエフスキーも驚愕するような、どす黒い指令に従っている。


 

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