第7話 聖地、暮れの春
桜の移ろいは儚いのは知っているけど、僕は俄かには信じたくないのだ。
桜がすぐに散ってしまうのを。
いつまでも、暮れの春のまま、春麗に身を委ね続け、春愁の正絹を重ね重ね、じらしたいのに、少年期らしい、永遠の春は森羅万象に勝ち目がないのだ。
何て、凄然な麗しく、かぐわしい薄桃色の桜花なのだろう。
満開の桜に僕は恋い焦がれてしまっている、ふふふ、月並みな感想。
花の頃、僕らは青いベンチに深く腰掛けながら、春昼と戯れる優雅な観桜会をやっている。
「少年、桜が好きなんだな」
青年が独り言を呟くように褒め称えている。
「とても見惚れているようだ」
花時、僕はその哀しみを浸した花弁をじっくりと見回した。
「綺麗な春爛漫の花。桜月……」
桜を散らす心の深奥に触れる谺のように僕は言う。
帰依に属するようにそっと、星朧の桜の神話を語り継ぐように。
――ここは何より、星辰の神話の関連する遺跡がある公園なのだから。
宮崎神宮は狭野尊と崇められた、辺境の最果ての少年によって神殿を建立され、皇宮屋を奉られた比類なき聖地とも謂う。
こんな逸話を公の場で披露したら、酷く誤解が生じるだろうに、国花の象徴的な花である、桜は何食わぬ訳知り顔で楚々と咲いている。
「桜、綺麗だなあ」
青年も同じような感想を抱いていた。
「君、桜の花びらが頭にあるよ」
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