第3話 ネムフィラブルーの黎明
本も読み飽きてしまった。
ここでは時間が神隠しに遭ったように遅れているように思える。
どんなに抗って、努力を課しても、僕に損得勘定を委ねる、資格は毛頭ない。
何も生まれぬ水の泡になった、僕の端麗な夢をゆっくりと星霜は壊していく。
ネムフィラブルーの黎明、栄耀と成る明星が窓際からよく映えて見えた。
春の明けの明星が卑小な僕を案じている。
どうせ、ここで一生涯閉じ込められていても、何の得策はない。
白けさせるように僕は青い悲鳴を叫ぶだろうに。今日で入院してから十日も経つから。
母さんは僕の左腕を刺してから逮捕され、審判で不起訴処分になった。司法側が温情な判断をしてくれたのだ。
母さんは不起訴処分になってから銀鏡には戻らず、僕と同じように閉鎖病棟に入院している。
同じ穴の狢、堂々巡りをやろうじゃないか。
朝食後、僕は多目的ホールの隅にある椅子に深々と座り、茫洋と青く腐った時間を持て余していた。
ここにいると、孤独感に酷く蝕まれるような青い錯覚を起こすから、多くの人がいる多目的ホールで、時間を潰そうというわけだ。
多目的ホールでも、僕は本を一冊読むようにしている。
この期に及んで、言の葉の理に縋ろうとしている、細小な僕。
「ねえ、君、何歳?」
同じ病棟の住人が興味を持って声を掛けてくれたようだ。
「十五歳」
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