第4話 憐憫少年
疲弊した僕がそれだけを伝えると、その青年はにこやかに不似合いな笑い方をした。
「俺が最年少だと思ったのに! 十五歳って高校一年生だろう? ああ、それか、中学三年生? 学校はどうしているんだよ」
随分、初対面なのに失礼な物言いをする人だな、と僕は訝しげに後ずさりした。
僕の立場は妙に憐れむほど、可哀想な境遇なのだろう。
文句ひとつも言えぬ、完璧な憐憫少年。
「君は幾つなの?」
「俺? ああ、二十三歳。まあ、世間から言わせれば、俺も酷い境遇だよ。お前ほどじゃないけど。俺は留年した挙句、大学を休学しているんだ」
こんな風に初対面の人の触れたくない内情をずけずけと質問攻めにする気質だからこそ、色んな意味でその場の雰囲気から浮いてしまったのかな、と僕は妙に分析する。
「さっき、窓から桜が見えたよ。何か、置いてけぼりを食らっているよな、俺たち」
僕が高校に行けていないのは彼からすれば、明らかだったのだろう。
「高校はどうしているんだよ」
あんまり、彼がしつこいので僕はそそくさとあしらう。
「行けていない。母さんから経済的な理由で高校進学を反対されて、反論したら左腕を刺されてここにいる」
彼の表情がみるみるうちに樹氷に纏わりつく氷片のように凍った。
聞いてしまったらいけないような、分の悪そうな顔付きを見せた。
それなら、最初から狙い通り、根掘り葉掘り聞かなければいいじゃないか。
「ごめん。酷いことを聴いて」
興味本位の彼の言動に彼自身が後悔したようだった。
「学校に行けない理由が経済的なものなんて考えたこともなかった」
彼は余程経済的にも潤沢に恵まれ、湯水を灌ぐように進学を続行できたのだろう、と僕は勘を冴えさせた。
世の中には物事を遂行させるのに、他者のほうから応援され、自分から発信しなくても、幸運が此岸から寄ってくる、要領のいい奴がいる。
休学したくらいで不幸と思っているんだ、と言えたら、どんなに楽に重荷を腰紐から外せるのだろう。
「学校に行けないのなら大変だぞ。これから」
「通信制高校に入学はしたんです。一応」
彼の不安を抑えるような、ぎらついた眼に一筋の安堵がもたらす、光明が差し込んでいた。
母さんの刺した腕の傷は、今でも痛むことがある。
ひりひりと真皮まで大きく痛めつけ、逃れられない聖痕のように、じりじりと鈍痛を催すのだ。
手を上げたとき、神経に激痛が走る日もあった。
痛すぎてのたうち回るように寝込んだ日もあった。
「来月は一時外出してスクーリング授業があるんです」
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