第6話

ちょうどそのとき、障子戸しょうじどがスラリと開いて、

「おはよう、千影ちかげ。もうすぐ朝ごはんだよ」

と、縁側にヒザをついて座っている陽向ひなたが、涼しい声を放った。


千影ちかげは、呆然とその姿を見返した。

寝るときは浴衣を身につけている双子の弟が、もうすでに和装の上衣と紫紺の袴を端然と身につけていたからだ。


陽向ひなたは、双子の兄の不可解な表情に気付いて、室内にヒザを進めた。

「どうしたの? どこか具合でも……」

言いかけて、ふっと寝具の枕もとに目をやる。

「ねえ、千影ちかげ。枕の下に、何かがはさまっているよ」


「へ?」

千影ちかげは、無造作に枕を跳ねのけた。


枕の下には、長さ15センチほどのソフトビニール製の人形があった。

オンラインゲームのキャラクターを模した、1/12スケールのフィギュアだ。


「ゲッ! なんで、こんなとこに……?」

千影ちかげは、フィギュアをワシヅカミにして、スットンキョウな声をあげた。


「押し入れから布団を出すとき、まぎれこんだんでしょ」

陽向ひなたは、「何をか言わんや」とばかりに即答した。


この部屋の押し入れの中を一度でものぞいたことがある者ならば、誰でも察しがつくことだ。


なにしろ千影ちかげは、整理整頓せいりせいとんという言葉とは昔から相性が悪い。

ジャマなものは手あたりしだい、上も下もおかまいなしに押し入れに放り込むヘキがある。

マンガ雑誌にゲームのソフト、使い古したカバンにスウォッチ、機種交換した古いケータイに、壊れたタブレット……エトセトラ・エトセトラ。


フィギュア人形のひとつやふたつ枕の下にまぎれこんでも、少しも不思議ではない。

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