第2話

陽向ひなたの夢の世界か、これ」

フッとつぶやいたとたん、


「そうだよ、千影ちかげ

と、陽向ひなたが、背後から涼しい声をかけた。


高校を2年で中退して以来、実質ニート生活を続けている千影ちかげに比べて、同じ17才でありながら、家業の神社を継いで宮司となっている双子の弟である。


榛名はるな 月御門つきみかど神社』は、北関東の山中にあって、知る人ぞ知るパワースポットと名高い。

月御門つきみかど神社』の総本殿は富士山麓にあるので、ここは、国内に数か所ある分祀ぶんしのうちの一社ということにはなるが、

「榛名のところの祭守さいしゅはミドコロがある」

と、月御門つきみかど一族の間でも一目おかれている陽向ひなたなんである。


祭守さいしゅというのは、月御門つきみかど神社の宮司だけに与えられる呼称である。


そもそも、月御門つきみかど家の起源ルーツは、陰陽師おんみょうじの代名詞と言っても過言ではない安倍 晴明あべのせいめいを輩出した陰陽師界の名門『土御門つちみかど』家の始祖にあたる。


『かぐや姫伝説』とも深い因縁があり、かぐや姫の昔話に登場する「みかど」こそが、月御門つきみかどの血族たる安倍 晴明あべのせいめいを暗示しているとのいわれもある。

なお、月御門つきみかど家に伝わるそれによれば、かぐや姫の正体は「影夜姫かげやひめ」という凶悪な荒神あらがみで、月御門つきみかど神社の総本殿には、影夜姫かげやひめ荒魂あらたまを封印するほこらもある。


月御門つきみかど神社の役割は、安倍 晴明あべのせいめいが富士山麓に結界をはって封印した荒魂あらたまほこらを代々守り続けるとともに、現世にはびこる数々の悪霊や魑魅魍魎ちみもうりょう調伏ちょうぶくすることであり、そのため、月御門つきみかど祭守さいしゅたる陽向ひなたも、一般的な宮司としての仕事だけではなく、陰陽師として数々の呪法をあやつることができる。


かたや、双子の兄の千影ちかげにも、他人の夢の中に入り込み、その世界に干渉かんしょうさえできる異能の力が生まれつきあった。

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