3.ギャップ大作戦①
ゼイン様と
そんな中、私は悪女ムーブをしつつ
「わあ、いい天気」
そして今日は朝からヤナとエヴァンと共に、
興味があると話したところ、直接採りに行くのはどうかとヤナが
色々採った後は、彼女と共に魔草クッキングをしようと思っている。
「結構大きな街なのね」
「はい。ここミリエルは
魔草が生えているという森の手前の街で馬車から降りた私は、元気に大通りを
「ふふ、かわいい」
「え、本当ですか? 元々のお
「…………」
やはり元々のグレース・センツベリーという人間は、本当にどうしようもなくて最低最悪だと思いながら、森へと向かっていく。
森に着いた後はヤナの説明を受けながら、せっせと魔草を
見たことのない大きな
「確かあの花って、食べられる上に割と栄養があるんですよね。腹も
「でも、どうして……」
「この辺りは貧しい家も多いですから。腹を空かせているんでしょう」
「……そう」
過去の自分と重なり、胸が
やがて子ども達は街の方へ
「子どもが無料でご飯を食べられるお店があったら、みんな来てくれるかしら」
「もちろん、喜んで行くと思いますよ。夢のような場所ですね」
どうやらこの世界には「子ども食堂」のようなものはないらしく、もしもあれば
「でも、急にどうしたんですか? そんな話をして」
私達の会話を聞いていたエヴァンは、こてんと首を
「私、そんなお店をやりたいの」
「それ、お嬢様に何の得があるんです?」
「そういう
そう答えると、エヴァンはまるで理解できないという表情を
──子どもの
今思えば子ども一人が満腹になるまで食べようと食べまいと、どうにもならないレベルで家計は火の車だったのだけれど。
そんなある日、どうしてもお腹が空いて公園で木の実を食べていたところ、近くの食堂のおばさんが声をかけてくれ、お腹いっぱいご飯を食べさせてくれたのだ。
その後も「大きくなったら、お客さんとしてたくさん食べに来てくれればいいから」と言って、何度も無料でご飯を食べさせてくれた。
それなのに結局、たくさんは食べに行けないまま死んでしまった。そんな私だけれど、今度は
前世の私にとっては、夢のまた夢だっただろう。けれど、今は
世界のためにも自分のためにも、やはりまずはゼイン様に好かれなければ。
「それと、エヴァンの名義で土地を買ってほしいの。十倍近くになるはずだから」
小説の通りなら、近々王都のとある土地の値段が一気に
元々のグレースの持つお金で十分可能ではあるものの、やはり他人のお金という感覚が抜けないのだ。とは言え、結局土地を買う際には借りることになるのだけれど。
「もちろん、エヴァンにもお礼はさせてもらおうと思ってるわ。カジノはダメね」
「でも、
「……一回だけなら」
そんな会話をしながら、私は魔草を摘んでは
二時間後、無事にたくさんの魔草を摘んだ私達は帰りの馬車に
なくなったらまた採りに行こうと二人が言ってくれて、嬉しくなる。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
私は改めてお礼を言うと、少しずつオレンジ色に染まり始めた窓の外を
のどかな景色の中、カップルが楽しそうに手を
「ねえヤナ、ヤナは男性とお付き合いしたことはある?」
「はい、何度か。今の恋人とは二年付き合っています」
「えっ」
あっさりとそんな返事をされたことで、ヤナを急に遠い存在に感じてしまう。大人だ。
私は
「エ、エヴァンは……?」
「俺ですか? 俺はかなりモテるので、それなりに」
「ええっ……」
こちらもあっさりとそう言ってのけたことで、一人取り残されたような気持ちになる。
確かにエヴァンは顔も良ければ、
「その、どうしたら男性に好きになってもらえるのかしら?」
するとエヴァンとヤナは
「以前のお嬢様からは考えられない
「ええ。私に落ちない男はいないと
「…………」
それでも私が本気で悩んでいると分かってくれたようで、二人は
「男性はギャップが好きだと言いますよね。
「なるほど……ギャップね」
「俺だけっていう特別感みたいなのも嬉しいですよ」
思い返せば小説でもグレースは恋人期間、傷付いたゼイン様を甘やかしていた。いつもの悪女らしい様子は
実際にやっていたことは悪女そのものだけれど、ゼイン様の前では悪女らしくなくても良いのかもしれない。
普段はツンケンした悪女だというのに、自分にだけは
「それに好意を向けられるのは、単純に嬉しいですし」
「さすが、すごくモテる男っぽいわ」
「女性は
「…………」
その後も三人で会議を続けた結果、普段は今まで通り悪女ムーブを続けつつ、ゼイン様の前でだけはギャップのある可愛らしい女性を演じ、好き好きアタックをするということに落ち着いた。冷静になると相当難易度が高く、
「それ、かなり難しいんじゃ……?」
「そうでしょうか? 今のお嬢様なら、
「ですね、俺もそう思います」
「というと?」
「世間のお嬢様のイメージと、今のお嬢様ではかなりギャップがありますから。
「な、なるほど……!」
確かに貧乏モブ
「二人ともありがとう、
とは言え、もちろん貴族
けれどヒロインのシャーロットが現れるまで、まだあと一年ほどあるのだ。色々と
「そうなれば早速デートですよ、デート」
「デ、デート……」
確かにまずは交流をしないと、
そう思った私は帰宅後すぐにレターセットを用意してもらい、よければ
するとすぐに驚くほど美しい文字で返事が届き、早速週末にゼイン様と街中でデートすることになってしまう。
「良かったですね、お嬢様! そうとなれば、当日の
「ド、ドキドキしてきたわ……よろしくお願いします」
私自身にとっては、生まれて初めてのデートになる。
色々な
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