勧誘

「なんだよ。お前がここに呼んだんだろ」

 前髪の重い少年が、そう相手に言った。

「ああ、そうだよ」

 そう言いながら、髪を茶色に染めた少年は楽しげに脇の楽器を触る。

「君にしかできないことだ」

 茶髪の少年はギターをかき鳴らす。

「ぜひボーカルになってほしい」

「……俺なんかにできるわけない」

「できるよ。理科室で口ずさんでたお前の歌声に惚れたんだ」

 茶髪の少年は前髪の重い少年にそう言って手を伸ばす。

「一緒に歴史を塗り替えよう」

「……そんなだいそれたこと」

 茶髪の少年は前髪の重い少年の腰を抱き寄せた。

「しゃがんで」

 前髪の重い少年がしぶしぶといった表情でしゃがむと、茶髪の少年は彼にキスをした。

「……な……!」

「これで君は僕のもの」

「んなわけあるか……」

「ね。ぜひやろう」

 前髪の重い少年は長い間逡巡したあと、頷いた。

「……一回だけだぞ」

 彼らがJロックを塗り替えるバンドになることを、今は誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る