梅雨の季節

 歴史の授業は退屈だ。もう知っていることばかりだから。雨の降りしきる世界で、教師の声がくぐもって聴こえる。梅雨はあまり好きじゃない。なんで六月があるんだろうと思う。生まれた月だけれど、梅雨がうっとおしいから、そう思う。早く終わってほしい。

 隣に座っている女子が何かを折っている。たぶん手紙だ。女子ってそういう、ちまちましたことが好きだよな。よく分からない。

 女子……浜辺が俺に手紙を差し出した。誰宛だろう。そう思って手紙の表面を見ると、何故か俺の名前が書いてあった。無言で自分を指差し、浜辺に確認をする。浜辺は小さく頷いた。教師の目を盗んで、手紙を開く。

『梅雨って、好きだな』

 そう書いてあった。変な手紙だ。

 俺はノートの端を千切って返事を書いた。

『どこがいいの?』

『だって、雨の匂いするでしょ。嗅いだら落ち着くんだよね』

 へぇ。そんな人もいるんだ。

『俺は梅雨、あんまり好きじゃないな』

『どうして?』

『じめっとしてるし、六月自体が好きじゃない』

『誕生日月なのに』

 俺ははっとして浜辺を見た。

『……知ってくれてたんだ』

『うん。私は好きだよ、六月』

『……両親が離婚したのが六月なんだ』

『そうだったんだ。……悲しかったね。せっかく織くんの誕生日月なのに』

『……うん』

『私はお祖父ちゃんの誕生日月なんだ。織くんと同じ日なんだよ。先月亡くなったんだけどね』

『……そうだったんだね。寂しいって思う?』

『うん、思うな。よく思い出すよ。お祖父ちゃんの声とか、手を繋いだ時の体温とか』

 俺は浜辺の横顔を見た。そんなふうには見えなかった。俺は何も知らないのだと思った。雨は止まない。浜辺は俺を見て、にっこりと笑った。梅雨はまだ始まったばかりだった。

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