紫の光
マッチを一本すった。ぼう、と燃え上がるその暗い炎を眺めいる。なんて美しいんだろう。これが今から嫌いな同級生の家を燃やすのだ。うっとりせずにはいられない。俺は俺の気質を愛している。やっつけずにはいられないという俺の執念深さを。きっかけはあいつからだった。俺の財布をボロボロだと揶揄したあいつの髪を燃やしたくなった。俺の家は貧乏だ。そのことを分かっていて、あいつはあんなことを言ったのだ。許すものか。いや、それは方便にすぎない。俺は最初から、誰かの家を燃やしたかった。美しい炎で包み込みたかった。そしてその様子を見守りたかったのだ。
あいつはことあるごとに俺に絡んでくる。やれ臭いだの貧乏が移るだの、酷いことをたくさん言われた。格好の餌食だと思った。そんなことをしたらどうなるか、あいつは何も分かっちゃいないのだ。可愛い柄本。本当は頭の先から食べてしまいたい。かわいすぎる。愚かなところが。俺をコケにするとどうなるか分からないあいつの無能さが。
家の裏で準備をしていると、あいつが現れた。
「……何してるんだよ」
「あ、柄本。今からお前の家を燃やそうと思って」
「燃やすならその奥の和室からにしてくれない?親が寝てるんだ」
俺は目を見開いた。そんなふうに言われるとは思わなかった。
「燃やしてほしいのか?」
「二人とも不倫ばかりして、白々しい家族ごっこに付き合わされてきたんだ。もうごめんだよ。全部焼いちゃってよ」
「……お前も共犯になるぞ」
「いいよ。飯田となら、俺共犯になっても」
柄本がこちらに顔を寄せた。
「俺、お前のこと好きだから。今日来てくれるなんて思わなかった」
「……俺はお前ごと燃やそうと思ったんだぞ」
「それくらい憎んでくれるかなと思ったんだ。ごめん、それくらいしか君と関わる方法が思いつかなかった」
「歪んでるな」
「それはお前もだろ」
紫の炎がぬらぬらと和室を濡らす。
二人でその明るさを見ていた。柄本の瞳にも、その光は映り込んでいた。
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