バレンタイン
私は目立たない生徒だ。成績も普通、外見も特徴がなく、話がそこまで面白いというわけでもない。ただただ空気。でもその立ち位置は、遥という男によって常に脅かされている。
「牧野! 元気か」
学年一の美少年、橘遥。彼は私の幼馴染みであり、ことあるごとに私に話しかけてくる。私は彼を無碍にできない。
「私が元気に見えますか」
「僕には見えるよ」
大抵の人間は私が覇気に満ちているとは認識しない。しかしこのオカン気質の男、私をフィルターにかけて見てくる。どういうつもりなのか。そしてその母性、どこで獲得したのか。
「牧野、なんかお菓子持ってないの」
「飴玉ならありますけど。黒砂糖味の」
「それちょーだい」
「仕方ないですね……」
袋を開いて飴を手に取り、目の前の男の手のひらに落とす。
「これで満足ですか」
「ありがとう! めっちゃ嬉しい」
ルンルンで席を離れていく橘。なんだったんだ。友人の万里子が私に耳打ちをした。
「今日、バレンタインだよ」
「それが何か」
「橘、由紀からほしかったんだよ。意外と可愛いとこあるよね」
……? よく分からない。チョコがほしいならそう言えばいいのに。飴でよかったのか。困惑した表情の私を見て、万里子は苦笑した。
「もー、鈍感なんだから」
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