イモリの友
なんというか、ずっと人間の振りをしているような気がする。学校で生徒会長をしている僕は、本当は山奥でずっとイモリを見ていたかった。誰の声も届かない場所で、静かに静寂に耳を澄ませていたかった。なぜこんなにも面倒な大役をやっているのか分からない。人間の振りがあまりに上手くいきすぎたためだろう。失敗した。もっと下手にやれればよかったんだろうけど。学校で声をかけてくる人達も、本当の僕を知ったら、もう言葉をかけてはこないだろう。それでよかったのにな。本当は僕も寂しがりなのだろうか。分からない。分からないことばかりだ。
家で飼っているイモリは、僕の唯一の親友だった。彼とは心が通っているとはっきり感じられる。マイペースで、やりたいことだけやる彼は、僕の実現しなかった人格を体現してくれている。それだけでよかった。
春奈と学校で呼ばれている女子が、学校帰りにイモリを見つけて興奮している僕に声をかけるまでは。彼女は僕の横に座って、「イモリかぁ。好きなの?」と話しかけてきた。学校で見せていない一面を無防備な時に見られた衝撃で、僕は固まってしまった。
「え、あ……そうなんだ。可愛いな〜なんて……」
終わった。僕の学校生活は終わった。これで明日から、イモリ好きの気味の悪い奴扱いされるようになるだろう。しかし彼女は、
「ほんとだ! よく見たら可愛いね! 京極くん、いい感性をしてますなぁ」
と、顔を寄せてきたのだ! 僕はすっかり慌ててしまって、「うん」とか「はぁ」とか言ったような記憶があるようなないような。なぜか家でイモリを飼っていることを引き出され、「見に行きたい」と言い出した。そんなこんなで、今僕は部屋の掃除をしている。イモリは僕の緊張もいざ知らず、あいも変わらずマイペースに、ケースの壁を這っていた。
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