砂糖菓子

 砂糖菓子になってほしい。そう願うようになったのは、中学3年の春のことだった。友達の根津智実は、才色兼備で人柄のいい、非の打ち所のない人で、私はなぜ彼女の側に居られているのか分からないまま、彼女と友情を育んでいた。彼女は友達も多くて、彼女が他の人と話すたび、私は「私なんかが隣にいていいのかな」と思うようになった。彼女は特別だった。彼女が砂糖菓子で作られているのだったら、私は彼女をショーケースから出さないのに。人の手になんか触れさせないのに。彼女は人間だから、彼女の人生を力強く歩んでいくんだ。そしていつかは、私のことを忘れてしまう。

 彼女は私の言葉に楽しげに笑った。何も知らないしなやかな指で、お箸を持っている。ご飯を口に運ぶ。美味しそうに頬を押さえる。「志津子、全然食べてないじゃん。どしたの?」と無邪気にこちらを覗き込んでくる。私は彼女の口に、家から持ってきた手作りのクッキーを押し込む。「なんにもないわ。ちょっと休憩してただけよ」

 智実はもぐもぐと口を動かして、「美味し〜〜!」と雄叫びを上げた。よかったわ。それでちょっとずつ砂糖菓子になりなさいよ。それが私の叶わぬ願い。あげる度に人間らしい反応をするのはご愛嬌。私の特別な友人。いつまでも笑っていてね。

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