若葉の短編集
はる
少年
同じクラスの榊という男が好きだ。これは誰にも言ったことがない。そもそも、俺には友達がいないから、言う相手がいないというのはある。榊はそんな陰キャな俺にも珍しく、話しかけてくれる存在だ。脱色した金髪と、色白の肌が近づいてきて、たまに俺の素肌に触れ合ったりすると、俺の熱は少し高まる。サラサラした髪に触れたいと思う。少し掠れた声を作っている喉仏にそっと口づけたいと願う。榊は俺のそんな気も知らず、人懐っこい笑い方をして、俺を人知れず救うのだ。
ある放課後、俺は一人居残りをして補修を受けている榊のいる教室に入った。榊は振り返って、なんだ、センコーかと思ったわと笑った。俺は笑い返した。まだ残ってるの。先生はいないんだね。榊は椅子を揺らしながら後ろ手を組んで頷いた。あんまり俺が時間かかってるから。ぜってー珈琲飲みに行ってるわアイツ。俺は彼の隣に座って、彼の頬に触れた。榊はびくっとして俺から離れようとした。俺はそのまま彼に口づけた。君が好きなんだ。突然だけど、付き合ってほしい。ね……俺、君が受け子やってるの知ってんだ。バラされたくないでしょ? 榊は泣きそうな顔をして頷いた。こんなやり方は不本意だったけれど、それ以外に彼が言うことを聞いてくれる手段を思いつかなかった。これから君は俺の彼氏。ずっと一緒にいよう。補修なんか止めて、今から手を繋いで帰ろう……ね? 彼は蒼白な顔で逃げようかと扉を見ていたけれど、観念したのか立ち上がった。……ま、補修は俺ももうしたくなかったし、センコーも帰って来ねぇし。……帰るぞ。意外にすんなり手を繋いでくれ、彼と二人、通学路を歩いた。彼は突然笑いだして言った。遅いよ、健。脅しなんていらなかったのに。素直に言ってくれればよかったんだよ。このことは内緒ね。俺、お前がハッカーなこと、知ってるんだよ。分かってるよね。俺は彼に誓いのキスをした。初めてのキスは、煙草の苦い味がした。
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