孤立した古城に集められた子息子女とその従者たちが、断絶の危機に瀕するカルヴァート家の至宝を巡り、腹の内を探り合う……と思いきや、そのうち一人が殺害されたことによって状況は一変、不穏な暗がりへ降下していく。
カルヴァート家の一人娘、エリスが握る至宝への鍵は誰の手に渡るのか、はたまた誰にも渡されないのか。各々が思惑を巡らせる中、何者かによる殺害、傷害の犠牲者も増えていく。些細なことが軋轢を生み悪化する状況下で平穏を貫き、不気味かつ只者ではない雰囲気を滲ませるエリスの言動も相まって、争奪戦は混沌としていくことに。
海外ミステリを思わせる空気感、不安定になっていく登場人物たちの心理描写、時に強く時に静かに散らされる戦いの火花といった、霧の晴れない湿地帯を行くような群像劇です。その中から何者かがこちらを見続けているような、登場人物たちが覚え、蓄積されていっただろう不気味さをぞわぞわと味わわされます。
願望と愛憎が渦巻き、見えない怪物が巣食う古城の中で、集められた少年少女はいかなる運命を辿るのか。そして、至宝を奪い合おうと画策する者たちの裏で、怪物は何を思い、何故その一部を手に掛けたのか。濃霧が晴れて明らかとなる最後まで、ぜひ見届けてください。