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□アイオナ・コフィー
二人も欠員が出ているというのに、まるで何事もないとでも言いたげな調子で茶会は始まった。
眼前に出された銀器を、アイオナは不機嫌に見下ろす。湯気を立てる茶は、香りからして恐らくタイム。西洋社会では勇気をもたらすものとして知られているようで、桃色や紫色の花を象った刺繍を何度か目にしたことがある──そのようなちんけな祈りが通じるなら、世の中に苦労などないだろうに。
状況が状況だからだろうか、エリスを除き、誰も茶を口にすることはない。ニールがいれば毒味のひとつでもさせられたのだが、あの考えなしな従者はメレディス家の名代──ルイスを抱えて何処かに走っていってしまった。その代わりのように、アイオナの側にはルイスの従者たるサディアスが控えている。彼にアイオナを守る気などあるまい。成り行きでそうなったから、そこにいるだけのことだろう。
舌打ちしたい気持ちを必死に抑え、アイオナは周囲をじろりと観察する。自分から出るのは悪手だ。まずは流れを見守ろうと思う。
「……皆、もっとくつろいで良いよ? せっかくのお茶会なんだから、堅苦しいのはなしにしない?」
口火を切ったのは、案の定エリスだった。沈黙し、出されたものに手もつけない一同を前にして、太めの眉毛を悲しげに下げる。
これに対して、真っ先に飛んで来たのは呆れを多分に含んだ溜め息。言うまでもなくアドラシオンだ。我の強い彼女ならいの一番に発言するだろう、というアイオナの予想は見事に的中した。
「あなたこそ、現状を理解していないのではなくて? ヘーゼルダインの従者とレアード・テューフォンがどのような形で見付かったか、あなただって知っているでしょう。それで呑気にお茶会だなんて、危機管理能力が欠如しているとしか思えないのだけれど」
「うん、不安な気持ちはわかるよ、アドラシオンさん。でも、このまま事態を放っておいたら余計に収拾がつかなくなると思わない? だったら皆に集まってもらって、もう一度うちの遺産をどうするか話し合った方が良いんじゃないかな。初日みたいな形だと緊張しちゃうだろうから、もっと気軽にできないかって考えて──その結果がお茶会になっただけだよ」
「話し合うとは言うけれど、あなたは遺産を誰にも手渡したくないんでしょう? 結局堂々巡りではないかしら」
「……まあ、そうだね。私の決意は今も変わらない。でもね、皆にもそれぞれ遺産を欲する理由があるでしょ? まずはそれを聞いてみたいと思ってね。もしかしたら、私の考えが変わるかもしれないし」
ハ、とアドラシオンが鼻で笑う。いつも格式張った、貴族らしい立ち振舞いの彼女にしては品のない仕草だった。
「あなたが遺産を頑として引き渡さないから、このような事態に陥っているのよ? それを差し置いて説得の可能性があるかも、だなんて……笑わせるのも大概にして欲しいわ」
「そうかな? それじゃあ、別の立場になって考えてみなよ。自分の家の遺産を、何に使うかわからない相手に易々と渡せる? もしも自分たちが築いてきたものが非道な使い道に利用されるのだとしたら、アドラシオンさんは我慢できる? 私だったら、できないなあ」
やや大袈裟に肩を竦めながら、エリスはよく通る声で言い放つ。決して刺々しい言葉遣いではなかったが、攻撃の意図は明確である。
アドラシオンもこれに気付かない訳がなく、形の良い眉を片方跳ね上げた。すう、と息を吸い込んでから、彼女は努めて落ち着いた声色で切り出す。
「……そうね、たしかに道理は通っているわ。あなたとは格も環境も違うけれど」
「わかってくれて嬉しいよ。まあ、生まれた家ばっかりはどうしようもないけどね。それで、アドラシオンさんは、もしもうちの遺産が手に入ったらどうしたい?」
「決まっているわ。テジェリア家の繁栄に活かす。それ以外の選択肢があると思って?」
胸を張り、アドラシオンは堂々と宣言する。自分程ではないが小柄で華奢な彼女ではあるものの、その風格はたしかに気高い貴族のものだ。
アイオナはちらと視線を僅かに動かす。主人の側に控えるテオは、やれやれとでも言いたげな様子で沈黙を選んでいた。アドラシオンは普段からこういった調子なのだろう。
「そうなんだ、アドラシオンさんは真面目だね。自分の幸福よりも、家の繁栄を優先するんだ」
「当たり前でしょう? 賢人は誰かさんのように、自らのわがままだけで家を滅ぼすような真似なんてしないのよ」
「アドラシオンさんはテジェリア家を継げないのに?」
しん、とその場は水を打ったように静まり返る。
この状況でわかりやすくきょろきょろと辺りを見回すのは不躾だが、アイオナには顔全体を隠すヴェールがある。何もない風を装いながら、ゆっくりと視線を移動させて周囲を窺ってみる。
発言者であるエリスは、何かおかしなことでも言っただろうか、とでも言いたげにぱちぱちと瞬きしている。本人に悪気はないのかもしれないが、見ている側としてはどの面下げてすっとぼけているのかと苛立ちを覚えたくなる顔つきである。
サディアスも似たようなものだ。相変わらず微動だにせず、ぼんやりと中空を眺めている。エリスの発言のどこに問題があったのかすら気付いていない可能性すらある。
明らかに動揺しているのはテオとマイカだ。二人ともわかりやすく目に見えた言動に示すことはなかったが、先程と比較するとその心中は明白である。
マイカは大きく目を見開き、なんで、と音を出さずに口を動かす。その目線はアドラシオンのいる方向へ向いているが──主菜は後に取っておこう。何にせよ、マイカはアドラシオンの一挙一動で心を動かされるとわかっただけ儲けものだ。
テオはマイカのように狼狽えることはなかったが、まずい発言だったことは一瞬で理解したのだろう。面倒なことになった、と視線が物語っている。こちらはマイカとは対照的に、アドラシオンから目を逸らしていた。
そして、渦中のアドラシオン。その顔を目にしたアイオナは、笑いを堪えるのに苦労した。
「……馬鹿なことを言わないで、エリス。部外者の分際で、テジェリア家の事情を知った風に語らないでくださる?」
口調こそ高圧的だったが、アドラシオンの顔は完全に色をなくしていた。もともとの白さを通り越して、血の気がすっかり失せている。唇はわなわなと震え、銀器に触れる指先は痙攣しているようにも見える。これではまるで発作を起こした病人だ。
強気なのが話し方だけでは、エリスも気圧されることはない。小首をかしげながら、そうかなあ、とやんわり否定する。
「だって、アドラシオンさんは女の子でしょ? 家を継ぐのは基本的に男の人。例外はあるかもしれないけど、そういうのって跡継ぎが幼すぎたり、訳あって政務の場に出られなかったり……要するに、中継ぎの役割が強い。テジェリア家には、もう男の子がいるでしょう。アドラシオンさんが出る幕、なくない?」
「……よく調べているのね。でもあなたに心配されるいわれはありません。あれは後妻──しかもアンダルシアの片田舎からやって来た女の子供。名門たるテジェリアの当主に相応しい器ではないの。だったら私が女主人として家を切り盛りする方が、余程ましなやり方です」
「夫も子供もいないのに?」
エリスの追撃は、たしかにアドラシオンの弱点だったのだろう。みるみるうちに彼女の顔から表情が消えていく。すっかり青ざめた頬には、玉の汗がいくつも流れ落ちる。外は湿気こそあるものの、暑いと言えるような気温ではないはずだ。
唇をわななかせ、アドラシオンは浅い故郷を繰り返す。何度も肩を上下させてから、彼女はやっとのことでテオを見た。
「……テオフィロ、いつもの薬湯を持ってきなさい」
「それは良いけど……大丈夫かい? あれだけでどうにかなるって感じじゃ……」
「良いから! 持ってきなさいと言っているでしょう? 主人の命令が聞けないの⁉️」
間近で金切り声を浴びせられたテオは困ったように視線を右往左往させ、最終的に小走りでその場を離れた。アドラシオンのため、いつもの薬湯とやらを持ってくるつもりなのだろう。
そのアドラシオンは胸を押さえながら、苦しげに正面を向いた。素人目に見ても尋常ではない様子だが、指摘が飛んで来ることはない。マイカだけは、心配そうにマドリードの才媛と呼ばれる女を見つめている。
あれは単なる体調不良ではないとアイオナは推測する。異常な発汗に顔色の変化、ついでに呂律も回っていない。毒を盛られている──という訳ではなさそうだが、どちらにせよアドラシオンが健康体でないことは事実。普段のつんとすました体裁が取り繕えていないのも、エリスの言葉に振り回されているのも、もしかしたらこれが原因かもしれない。
それに、きっとアドラシオンは実家に関する問題を抱えている。先のやり取りから察するに、恐らく彼女には腹違いの弟がいる──後妻と言っていたし、カトリックで複数の配偶者を持つことは禁じられているから、アドラシオンの母親は既に故人なのだろう。順当に事が進めば、テジェリア家を継ぐのはアドラシオンの義弟となる──のだろうが、本人はそれを認めたくないようだ。故にこそ、カルヴァートの遺産を手に入れようと躍起になっているのかもしれない。
そんなアドラシオンを追い詰めた張本人はというと、呑気に茶を味わっている。そして、うんうん、と周囲の空気など気にした様子など微塵もなく、勝手に納得した風でうなずいた。
「そっかあ。アドラシオンさんの夢は大きいんだね。私はスペインのしきたりとかよくわからないけど、何か結果が残せると良いね」
他人事のように言うと、今度はアイオナの方に目線を向けてきた。アドラシオンの鬼気迫る睥睨が見えていないのだろうか。
「アイオナさんはどう? もしもカルヴァート家の遺産が手に入るのだとしたら、何に使いたい?」
なるほど、参加者──主人の地位にいる人物に一人ずつ聞いていくつもりか。とはいえルイスはどこぞの蛮族が連行していったため、残されているのはアイオナだけだ。サディアスに聞いたところで確たる答えは返ってこないだろうし、ルイスから意向を伝えられているとも思えない。
アイオナは暫し思案する。馬鹿正直に答えるつもりはないが、いつまでも様子見というのはつまらない。それに、決まりきった面白味のない答えしか用意できないお貴族様よりも、幾分かましな言い分を持っているのだと証明してみるのもなかなか良いような気がした。
カルヴァート家の遺産。それがどれほどの価値を持つものなのかは見当もつかないが、仮にわかりやすい資産──通貨として使用可能なものと見なそう。その場合、自分がすることと言えば──。
「──貯蓄、ですね。いずれ来るべき日まで、切り札は温存しておきたいので」
静かに告げると、エリスは僅かだが驚きを目に宿した。そういえば、彼女の前ではあまり口を開いた覚えがない。一言も喋っていない訳ではない──と思うが、相手には口数の少ない人物という印象を植え付けていたのだろうか。意表を突けたのなら、少しばかりではあるが小気味良い気分だ。
「来るべき日、かあ。アイオナさんは堅実な人なんだね。何か目標でもあるの?」
アドラシオンよりは冷静な受け答えだったからだろうか、エリスは机に身を乗り出しながら会話を続けてきた。はぐらかすのはなしだぞ、ということか。下手な誤魔化しは通用しなさそうだ。
目標──と問われると大袈裟なような気もするが、やりたいことがある、というのは嘘ではない。アイオナもまた、ある目的を持ってこの会合に参加している。
しかし、それは誰にも──従者であるニールでさえも知らぬこと。限られた、そしてアイオナが利用するに値すると真に思う相手でなければ、伝えることはない。無論、エリスには何を対価にされようと情報の一片すら渡したくないと思う。
ヴェール越しではあるが、アイオナは口元に人差し指を立てる。余程の間抜けでなければ、真意は正しく伝わるだろう。
「ええっ、秘密なの? そういうことされるとますます気になっちゃうよ」
「……私はあなたのことを何も知らないもの。素性も意図も不明瞭な相手に、自分のことなんてお話しできません」
案の定、エリスはこちらの意図をすぐに汲み取った。子供のように頬を膨らませてはいるが、その実アイオナの真意を引き出そうとしているのだろう。そう簡単にぺらぺら喋るものかと、アイオナは内心で舌を出す。
「……たしかに、あなたについて知らないことだらけね。私たちばかり情報開示するというのも不公平ではないかしら?」
この間に息を整えたらしいアドラシオンも同調してきた。発言に乗っかられたのは癪だが、エリスについてひとつでも多くの事柄を知ることができるなら多少は我慢しよう。マイカもまた、アドラシオンと心を同じくしているらしく、じっとエリスを見据えている。
三対一。やる気のないサディアスは置いておくとしても、エリスは圧倒的に不利だ。話したくないのか困った顔をした彼女だが、観念したのか溜め息を吐いてから口を開いた。
「私のこと、かあ。大したことない話ばかりだよ?」
「あなた自身の情報はどうでも良いの。私たちに投げ掛けた質問をそのままお返しするわ。あなたはカルヴァート家の遺産を守り、何を為したいの?」
刺すような言葉遣いは今に限ったことではないが、アドラシオンはいやに早口だった。余程苛立ちを募らせているのか、貧乏ゆすりまでしている──先程ぶつけられた言葉を引きずっているのか。
問いを投げ掛けられる立場となったエリスは、迷う素振りを見せることはなく息を吸う。そしてにっこり、お手本のような微笑み。
「私は、カルヴァート家の遺産をイングランドのために使いたい。ご先祖様が皆そうしてきたように、愛する祖国の力となりたいの」
「嘘ね」
アドラシオンは即刻切り捨てたが、アイオナはそう思わなかった。多少利口に見える大国のお嬢様でも、意外に単純なのだと失望する。
アイオナは読心術に長けている訳ではない。しかし、エリスの口振りには控えめだが確かな熱が込められていた。イングランド、と口にする時、彼女の笑みが一段深まったのをアイオナは見逃していない。──形なき国家にどのような感情を抱こうとも、見返りは与えられないのに。エリスは馬鹿を超えてまともにものを見られないようだ。
「嘘じゃないよ。私は、生まれ育った祖国のことを大事に思ってる。その役に立ちたいって気持ちは本物だよ」
数秒で愛国心を否定されたのが悔しかったのか、エリスは唇を尖らせながら反論する。しかしアドラシオンがはいわかりましたと自らの意見を取り下げるはずもなく、吐き捨てるような侮蔑の眼差しを向けられるだけだった。
「口だけなら何とでも言えるわ。結局、あなたは遺産を手放したくないというわがままを正当化させたいだけなのでしょう? エスパーニャの如き富める大国ならまだしも、イングランドに未来があるとは思えないわ。あなた、世間が如何様に動いているか、ちゃんとお勉強してきたのかしら?」
「そんなことない、イングランドには可能性があるよ。故郷だから、アドラシオンさんは贔屓目で見ているのかもしれないけど、スペインだって何でもかんでも上手くいってはいないでしょ? アルマダの海戦では、未来がないかもしれないイングランドに敗北したのに。アドラシオンさんこそ、世界について勉強した方が良いよ」
「アルマダの海戦って……イングランド人はそればかりね。何年前の話だと思っているの? それに、よく考えてご覧なさいな。イングランドはどれ程の植民地をお持ちなのかしら? ああ、教えていただかなくとも結構。たとえ外つ国に土地を持っていようとも、エスパーニャとは比較にならないでしょうから」
「植民地の数なら後からでも変えられるよ。今の情勢全てが結果に帰結する訳じゃない」
「でも、あなた一人の力でできることなどたかが知れているわ。あなたはイングランドを変えられない、変わらないイングランドの辿る道なんて、いくらあなたでも想像できるんじゃないかしら。……考えたくないと目を逸らしていても、ね」
先程の当て付けか、アドラシオンは徹底的にエリスの希望を砕きたいようだ。論破し、打ちひしがれるエリスと姿でも見たいのだろうか。だったら手っ取り早く始末しておけば良いのに──再び外野に放り出されたアイオナは小さく欠伸する。つまらない論戦を聞かされるこちらの身にもなって欲しい。白い肌の高貴で無知なお貴族様の夢物語など、端から興味はないのだ。
散々な言われようのエリスはというと、それでも表情を歪めることはなかった。ふう、と息を吐き、銀器に残る茶を飲み干す──きっと、客人用に出された茶は一様に冷めきっていることだろう。
喉を潤したらしいエリスは、おもむろに髪の毛を片耳にかけた。伏せられた睫毛が彼女の白い皮膚に影を落とす──だがそれは絶望による陰りではない。
「うん、アドラシオンさんの言う通り。私一人じゃイングランドは変わらない。それはアドラシオンさんも同じこと──あなたがどれだけ優秀でお利口だったとしても、テジェリア家の行く末やスペインの趨勢はあなただけのものじゃない。──ので、この話はここでおしまい。私には、イングランドの力になりたいってこと以外にも、やりたいことがあるよ」
「……何が言いたいのかしら?」
「何って、さっきの質問の続きを答えようと思っただけだよ。うちの遺産でしたいこと──一番はさっき言った通りだけど、何もひとつの目的だけにこだわってる訳じゃないよ。それだけじゃつまらないでしょう?」
アドラシオンの頬が歪む。気に食わない、と表情が如実に語っているものの、幾分か残っている理性と矜持が彼女の口をつぐませた。名家の生まれとは、つくづく面倒なものだ。体面など、無理に保てば保つだけ重荷となってのし掛かってくるものなのに。
「もしも遺産を自由に使っても良いってなったら──うん、まずは父上を捜しに行きたいな。あの父上が任務を放棄してしまうなんてあり得ないもの。きっと何か事情があるはずだから……まずはそれを確かめたいと思うよ」
聞き手の様子など意に介せず、エリスは言葉を連ねる。
彼女の父親──アダム・カルヴァートことカルヴァート家の当主であった男は、六年前に女王の命を受けて国外へ旅立ったという。どういった任務を命じられたのかは不明だが、どうせ略奪ばかりしている国のことだ。多分ろくでもない目的なのだろうとアイオナは推測する。
エリスは父親のことをいたく信頼しているようだが、きっと彼は逃げたにちがいない。人とは存外、思わぬところで保身に走るもの。気高い志を持ったまま死ぬなど、戯曲くらいでしかあり得ないだろう──ちなみにアイオナは戯曲を鑑賞したことはない。あくまでもものの喩えである。
アドラシオンは黙して聞き役に徹していた。僅かでもエリスの言葉に綻びがあれば、すぐにでも食らい付くにちがいない。
「あとは──そうだね、恥ずかしいけど、せっかくだし教えちゃおうかな。関係ない人には、秘密にしてね」
そのエリスは、茶目っ気たっぷりに片目を瞑りながら声を落とす。思いきった発言をかますらしいということは、アイオナも容易に想像できた。
参加者たちは揃って沈黙する。エリスの発言を、彼女が隙を見せる好機を、静かなる刺客たちは今か今かと待ち構え──。
「私ね──いつか、運命の人に出会いたいの」
それら全てに挑みかかるかの如く、エリスはうっすらと頬を染めた。
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