第38話 素直に
「悠真、お前そろそろ休憩だけどオムライスあと20個作れるか?」
「……やるよ、やってやるよ! やらないと休憩行けないし!」
……まぁ、それ以外にもちょっと休憩行きたくない理由はあるけど。
なんかその……ちょっと嫌な気がする。なんかその……ドロドロした、僕自身も僕以外もすべてが絡み合って離れない不穏な空気が。
さっきデートの決意をしたけど、すべてを断ち切る覚悟をしたけど……なんだか嫌な予感がするんだ、そうすんなり行かないような。
「……悠真、大丈夫か? なんか顔色悪いけど、先に休憩行くか?」
「いや、大丈夫……うん、大丈夫」
「そ、そうか……この後、あれだろ? 藤井さんが出るミスコン見に行くんだろ、そんな顔で大丈夫か?」
「……え?」
「なんかすっごいパフォーマンスするから悠真期待してて! って言ってたぜ……聞いてないの?」
「……え?」
ほら、なんかもう的中しそう。
☆
「おかえりなさいませ……って、お姉ちゃんか」
「うん、お姉ちゃん! 歩美ちゃん、お姉ちゃんが来たよ!!! おー、歩美ちゃん、メイドさん服すっごい似合ってるね!!!」
お母さんに連れられて、私たちの店にお姉ちゃんがやってくる。
大好きなお姉ちゃん。
でも大好きな悠真には愛されていないお姉ちゃん。
だって悠真が好きなのは私だから。悠真は私の事が大好きだから。
「あれ、悠真君は? 私の彼氏さんの悠真君はどこ、歩美ちゃん?」
でも悠真は優しいから。
優しすぎて、お姉ちゃんに好きって言われると断れないから。
私の事を大好きなくせに、お姉ちゃんお姉ちゃんって……そんなにお姉ちゃんに気を使わなくてもいいのに。
お姉ちゃんに優しくしないで、私だけ見てくれていいのに。
私以外、だれも見ないでいいのに。
「悠真は今キッチンで仕事してる、お姉ちゃんには会わないよ。お姉ちゃんと悠真は、会えないよ」
「あ、そうなんだ! えへへ、でもいいよ、私は悠真君の彼女さん」
「……お姉ちゃん、そういう事ここでは言わないで」
「この後、でーと……ん? 何、歩美ちゃん?」
「悠真と付き合ってるとか、悠真の彼女とか……そういう事、ここでは絶対言っちゃダメ。絶対だめだから、お姉ちゃん」
だからちゃんとしないと、私が。
悠真が素直になれるように、嘘つかず私の事をちゃんと見てくれるように。
「なんで? 何でダメなの?」
でも
「悠真に迷惑かかるでしょ。お姉ちゃんと悠真が付き合ってるってことがみんなに聞こえたら大騒ぎになって、悠真がお仕事集中できないから。悠真のお仕事長引いて、デートなくなっちゃったら嫌でしょ?」
ちゃんと納得はさせないと。
「え、あ、そっか……いや、悠真君とでーとしたい」
「……そうだよね。だからお姉ちゃん、言わないでね? もう悠真と付き合ってるなんて言っちゃだめだよ」
そう言いながら、お姉ちゃんの唇にすっと自分の指をあてる。
「うん、わかった! お姉ちゃん、黙ってるよ! 悠真君に迷惑、ダメダメだからね!」
うん、よし、これでいい。
これで完璧、あとは……ミスコンで全部決める。
悠真の大好きを、私の大好きを……みんなに、見せつける。
「うん、そうだよお姉ちゃん……絶対に彼女って、言わないでね」
これで悠真は私だけを見てくれる。
「……え、なんかすっごいな、藤井さん。なんていうか、その……エロ、過ぎない?」
「わかる、すっごいエロい。親友で濡れちゃう」
「……え、青ちゃん?」
「え、あ、そ、その……青ちゃんの青は青姦の青です!!!」
「……え?」
「……あああああああああああ!!!!!!」
☆
「あ~、お疲れ様です……はぁぁぁぁ」
途中から離脱してしまった難波さんの事もあって、かなり忙しく結局休憩時間を過ぎて休憩へ。
「うん、お疲れ悠真。楽しんで来いよ」
こっちも疲れた顔で僕をねぎらってくれる太雅に「ありがとう」と一言声をかけ、僕は急いで教室を出る。
秋穂さん怒ってるかな、ちょっと遅れちゃって。
とりあえずお詫びのLIMEして、それからいっぱい甘やかしデートを、ってあれ? 僕のスマホどこに
「悠真! 悠真、もう寂しいじゃん私に一言も声かけてくれないなんてぇ! 今から私とミスコンデートなのに……デートっていうか、誓いの儀式?」
「……あ、歩美?」
秋穂さんとのデートを約束するためにスマホを探していると、後ろから不穏な声。
振り返ると、可愛いメイド服姿の歩美、いつも通りにこにこ笑っているけど、その声も雰囲気もどこか怖く感じる。
「ていうか、悠真がいないと始まらないのにどこ行こうとしてたの? 私と悠真がいて成立するんだから、悠真と私が一緒じゃないと意味ないでしょ!」
「な、何言ってんの歩美? その、僕はこれから秋穂さんと、いたっ!?」
そう言いかけたところで歩美の手が素早く動き、僕の腕をつかむ。
その目は全く笑っていなくて、むしろさっきを帯びたような顔で僕を見つめて。
「なんでお姉ちゃんの名前が出てくるの? 何で私といるのにお姉ちゃんの名前出すの、私いるのにお姉ちゃんの事考えてるの?」
「い、いや、だって、その」
「なんでそんなに素直になれないの、二人きりなんだからいいよ、そんなに優しくしないでも。悠真早く正直に……って、今はいいか。どうせあと10分もすれば、何も気にしない、何の関係もなくなるんだから」
「あ、歩美、それどう言う、ていうか僕は秋穂さんと」
「だーもう! 何でまだお姉ちゃんの名前出すかな、この期に及んで!!! どうせお姉ちゃんに連絡できないでしょ、スマホもないんだし! お姉ちゃんなんかいいじゃん、今は私! 早く私と行くよ、GO!」
「ちょ、あの……ぐっ!?」
つかんでいた僕の手をぐっと自分の身体に寄せて、腕を組むような形で強引に歩き出す歩美。
わけもわからないまま連れ出される僕はもちろん抵抗する。
「ちょ、歩美、離して、僕は秋穂さん、あぐっ!?」
「も~、お姉ちゃんの名前禁止! いい加減怒るよ、私だって!」
「だ、だって……」
「だってじゃない、ダメダメ! もう予定はミスコンでみんなの前でだったけど、ちょっとはやめてしちゃおっかな、でもそれなら悠真からしてほしい……って、そんな場合じゃない、急がないと! 早くミスコン行かないと遅刻だよ、悠真!」
そう言ってせかすように腕を上下させる歩美を制止するように、僕は体をぐっと止める。
歩美が何言ってるかはわからない、何を企んでるかはわからない。
「悠真? どうしたの悠真? もう、早く行くよ私たちがみんなにちゃーんと、認められる場所♡」
でも、僕は決めたから。
ここで全部決着つけるって、もう秋穂さんと添い遂げるって。秋穂さんと全部全部一緒になって、ほかの事は全部清算するんだって。
だから、僕は……僕は!!!
「ん~? 悠真? もう、かっこいいお顔が台無しだよ、そう言うのも好きだけど、今はきりっとしてほしいな! 私のかっこいい……ふふふっ」
「あ、歩美! 歩美!!!」
「ん、悠真! 今!? 今言ってくれるの、みんなの前じゃなくて!? うん、嬉しいよ、お願い! 一緒だから、私も! でもね、みんなの前でする前に、初めては悠真からがいいって思ってたから!!! 最後までしよ、うん!!!」
「僕は、僕は秋穂さ……んっ!?」
その時、小さくてフードを被ったシルエットが僕の前をさっと通り、叫ぼうとした僕の口に何かをさっと放り込む。
何か不思議な味、甘くて酸っぱくて、でも苦くて……この味は憶えてる。
「え、悠真!? 悠真!? ちょ、ちょっとあなた悠真に」
「……大丈夫、すぐ直るから。あなたの好きにしていいよ、これは素直な気持ちが出る薬だから。こいつの素直な、気持ちがね」
これは繭先生が一度だけ持ってきた薬。
繭先生の友達が作って、僕が人体実験に付き合わされた薬……そしてそのあと、すぐに保健室の戸棚に封印された薬。
数分、記憶がぼんやりして言われたことに従順になる……最高級に危険な薬だ。
繭先生が持ってきた中で唯一、明確な害がある薬。
「そ、そうなんだ……じゃあ悠真私についてきて。大好きな私に!」
「……はい」
意識がもうろうとする、何も考えられない。
誰だよ、この薬作ったダリアってやつ、頭おかしいんじゃないの。
「えへへ、やったぁ! 悠真大好きだよね、私の事! 大好きだもんね、私の事、お姉ちゃんじゃなくて、私が悠真の大好きな彼女だもんね!!!」
「……はい」
ダメだ、もうダメだ。
「やったぁ、やっと素直になってくれた!!! 悠真、私も大好き! この大好きな気持ち、みんなに伝えようね!!!」
「はい」
「行くよ、悠真! 私たちのバージンロード!!!」
「はい」
☆
「14番青木美桜です! 彼氏募集中です!!!」
「あー、青ちゃん可愛いねぇ、顔も建前も! でもでも、そんなこと言って、本当は?」
「え、彼氏です! 彼氏が欲しいんです、私!!!」
「はい、嘘つきました! 美桜ちゃんは性欲強すぎるから彼氏もだけどセックスできる相手が欲しいんだよね!!! 一日中できる性剛を!!!」
「え、あ、ち、違う!!! な、何言ってるの!? そ、そんなんじゃなくてわ、私はその、愛のある」
「青ちゃんの青は青姦の青!!! 前の彼にそんなにセックスのし過ぎで振られた青姦の青ちゃん!!!」
「ななな、なんでそれ知ってるの!? ちがっ、その、えっと、あの、違……あああぁぁぁぁぁ!!! あああぁぁぁぁぁ!!!」
「セフレは嫌なんだよね、青姦青ちゃん!!! セフレじゃなくて愛のあるセックスをずっとしたいんだよね!!!」
「あぁぁぁぁ、もう許して、ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふふふっ、面白いね美桜はやっぱり。美桜にも私たちみたいに理想で大好き同士の彼氏さんができたらいいのにね」
「……はい」
「ってもう次私たちだ!!! 悠真行くよ!!! 私たちが、みんなから祝福される場所へ」
「……はい」
~~~
「次は15番藤井歩美……ってあれ!? な、なんで野中君が?」
「いいのいいの、大事な発表だから! ほら、悠真言うよ!!!」
……ぼんやりと周りが見えるようになってくる。
うっすらと、周りが見えて、声も……なんだ、この大観衆に大歓声。
「私、藤井歩美は……悠真と付き合っています!!! ラブラブカップルです!」
「……はい」
え、なんて言った!? 聞こえない、聞こえないけど何かすごい事……すごいまずいことを言った気がする!
「えへへ~、皆さん証拠見せます! 私たちが愛し合ってる事……私の大好きな彼氏さんの悠真君と一緒に、それを証明します!!!」
「……い」
端々に聞こえる声が、周りの割れんばかりの大声援にかき消される。
なんだ、なんだ何が始まるんだ……?
「えへへ~、悠真は恥ずかしがり屋だなぁ! も~、ここは大好きな彼女である私に、全部任せていいよ♡」
……そこで、完全に視界がクリアになって、ようやく僕は世界を理解する。
われんばかりの大観衆、大声援。
そして
「愛してるよ、悠真……ちゅ、くちゅ……」
「!?」
その大観衆の前で、僕は歩美にキスされた。
☆
えっと、その……お久しぶりです。
お久しぶりすぎるかもしれないです、1年半ぶりみたいです……はい、ごめんなさい、すみませんでした。色々ありました、言い訳はこの後書きます。本当にごめんなさいでした。
この話を書くために久しぶりに読み返してたんですが、1年半前の僕ちょっとキャラ増やしすぎとちゃいますか!? 青ちゃんくらいまでは覚えてたけど誰だよ矢野さんって誰なんだよ、マジで!? 矢野さんの情報探してたけどキャラ紹介にもどこにもいなかったぞ、マジでぽっとでなのあの人!? この話数で!? なんなのこれ、だれなのまじで……1年半前の僕、教えてください。誰なんですか矢野さんはマジで。
あ、ちなみに今日の薬の設定は12話でちょろっと触れてます、一応拠出です。
で、ここからが言い訳タイムなのですが、投稿にこんなに時間がかかった理由は一番でかい理由を言うとパソコンがぶっ壊れました。
綺麗に壊れて修理不能と言われたので新しいのを買うのに時間がかかってしまったって言うのも理由の大きな一つであります。
あと、その期間でモチベが下がったことで結構色々別の事をしていました。
仕事まじめに頑張ったり、その仕事辞めたり、ブルアカにはまってコラボカフェ等で散財したり、Mー1の予選一回戦でトップバッターを務めたり(落ちました)……なんかすっごいいっぱいありました、マジで。
そんなことをしているうちにまた小説を書きたいと思い、ここに復活させていただきます。この話を完結できていないのは少し心残りでしたし。
で、肝心のストーリーですがあと3~4話で終わる予定です。
こんな感じですがそれくらいで終わる予定です。
もちろんみんな幸せなハッピーエンドで終わらせますので楽しみにしていただけると幸いです!
それでは感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!
車に轢かれそうな女の子を助けたら、学校1の美少女の姉だった!~なぜか彼氏認定してくるし、ヤンデレになるし、百合百合幼馴染もなんだか様子がおかしくなった~ 爛々 @akibasuzune624
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