第36話 私可愛い? 好き?

「ねえ悠真、可愛いかしら? 私の本番衣装、似合ってるかしら? やっぱり私の方がお姉ちゃんより可愛いかしら?」

 創立祭開始数分前、慌ただしく動く教室の中でそう声をかけられる。


「え、何、今忙しい……ってなんだ、歩美か。うん、可愛いと思うよ、似合ってるよその服。本当のメイドさん……って言うか給仕さん? に見える。すっごく似合ってるよ、歩美」

 キッチンの仕事を中断して振り向いた先にいたのは、大正ロマンを感じる給仕服に身を包んだ歩美。


 バレー部のエースらしいそのスラっとした長身に、振袖チックなその衣装はよく映えてすごく可愛い。

 いつもは流している髪を、今日は部活仕様にポニーテールにまとめているところも、非日常感を演出していて、服にもベストマッチで可愛くて。本当にそう言う類のお店の店員さんみたいに、良く似合っている。流石秋穂さんの妹。


「えへへ、そっか……やっぱり私の方が可愛いか、私が悠真の一番か……うへへ、やっぱり嬉しいな、悠真がそう言ってくれるの。私が一番可愛い、一番いいって学校で言ってくれるの、最高にうれしいな!」

 俺がそう褒めると、歩美はほっぺに手を当ててくねくね腰を動かしながら、笑顔でそう言う。本当に嬉しそうな表情で俺にそう言ってくる。


「いや、そこまで言ってないけど。ま、まあ可愛いと思うよ。多分お客さんの評判もかなりいいんじゃないかな、評判になりそう。可愛い子が居る、ってお客さんも増えるんじゃないかな、わかんないけど」


「えへへ、そこまで言ってくれてるよ、お姉ちゃんじゃなくて私が一番可愛いって、やっぱり歩美が一番……って私は別に売り上げとかそう言うのはどうでもいいんだけどな! 私的にはそう言うのどうでもいいんだけどな! 悠真が可愛いって言ってくれればどうでもいいんだけどな! ね、可愛いよね? もっと可愛い頂戴? 悠真の可愛い、私に欲しいな、私が一番って言って欲しいな!!! 悠真に私が一番可愛いって言って欲しいな!!!」


「ちょ、歩美圧が凄いよ、怖い怖い!!! ちょ、ちょっと離れて歩美、近いし圧が凄いから!」

 早口で色々呟きながら、ぐいぐいっと俺の方に顔を近づけてくる……いや、怖いよ怖いよ、近いですよ! 


「じー……いちゃいちゃならよそでやってくれ! ヒロもいちゃいちゃ……あー、クソが!!!」


「ケッ、見せつけやがって! 太雅と言い悠真と言い……クソがっ!!! 仕事しろ!!!」

 あと周りからの視線もすごいから!

 すっごい嫉妬と殺意の波動を感じるし、それにあらぬ勘違いをされてるし!


「えぇ~、良いじゃん! 私と悠真の仲でしょ、そう言うの気にしなくて良いじゃん! 私と悠真だから、そう言う事全然考えなくて良いんだよ……もしかして、まだ恥ずかしい? それとも罪悪感? 大丈夫だよ、私は全然気にしてないし……ふふふっ、だから言って欲しいな。私が一番可愛くて、悠真の一番って言って欲しいな」

 でも、そう言っても歩美には全く通じていないみたいで、また顔をぐいぐい近づけてきて。


 楽し嬉しそうな目で俺の事を見つめながら、そう耳元で囁いて……あぁ、もう!

「あ、歩美、からかわないで! くすぐったいし、怖いからやめてよ、もう! そ、それにダメでしょ、こう言うの!」


「ふふふっ、からかってないよ、ダメじゃないよ? 悠真が言ってくれればいいだけなのに、恥ずかしがらないでいいのに! 私と悠真なんだよ、私と悠真の深い関係なんだよ? その関係だから、普通に言ってくれていいんだよ、むしろ見せつけたいし、私は!!! 私は、私と悠真の関係を、見せつけたい!!!」


「深いって、お姉ちゃんの彼氏と、彼女の妹の関係でしょ? そ、そんな深い関係じゃないし、見せつけるのは俺が嫌なんだけど!」

 見せつけられたら困るし、勘違いされるのも普通に嫌なんだけど!?

 ていうかなんで歩美はそんなに積極的なの、これじゃまるで……いやいや、ダメダメ! 俺の彼女は秋穂さん、好きな人は風k……秋穂さん!!!


「む~、確かに今はそうだけどすぐに……む~、悠真は慎重さんさんだな、恥ずかしがり屋さんだな! わかったよ、今は我慢する! 悠真と私の関係がちゃんと言えるようになるまで我慢するよ、解消して、またくっつくまで……でも可愛いは言ってほしいな! もう一度ちゃんと、悠真の口から私への可愛い、聞きたいな!!!」

 一度は落ち込んだようにむ~、とほっぺを膨らませた歩美だけど、すぐに納得して、持ち場に戻る……なんて素直な事はなく、また俺の方にやってきてふんすふんすと鼻息を荒くしながらそう言う。


「い、言わなきゃダメ? そ、その誤解が広がるって言うか、また嫉妬の目が……い、言わなきゃダメかな?」


「うん、ダメ、言ってくれなきゃダメ! 私が聞きたいんだもん、悠真から又聞きたいんだもん……そうしてくれれば私、仕事も頑張れると思うし! 知らない人と話して悠真が薄れるホールの仕事も、絶対に頑張れるし! だからお願い、悠真! ね、ね? お願い、悠真……今の私たちに出来る、一番の事でしょ? もっとしてもいいけど、お姉ちゃん……えへへ、言ってほしいな、悠真! チャージさせて、悠真の事!!!」


「ちょ、また近いって……わ、わかったよぉ。そ、その……か、可愛いよ、歩美。すごく似合ってて、可愛いと思うよ」

 圧力に負けて、取りあえず美鈴にそう言う。

 なんかすごく怖いし、それに言わないと暴走しそうな雰囲気あったし……ま、まぁ可愛いのは事実だし! 藤井さん、確かに可愛いし!!!


「えへへ、やったぁ~! ありがと、悠真! これで私、お仕事頑張れるよ! それじゃあ悠真もお仕事頑張ってね! えへへ、だいs……おっとっと。これはまだ、言っちゃダメだね! とにかく頑張ろうね、悠真!!! むふふん、可愛い……えへへ、頑張ろうね!!! むふふ~ん!」

 俺の言葉を聞いてにへ~、っと顔を綻ばせた歩美が楽しそうにステップを踏みながら、ホールの方へ消えていく。


「……なんかすごかったな、今日の歩美。大丈夫かな?」

 今日の歩美、いつもより積極的な気がするし、それに……いや、ダメ。そう言うのは考えちゃダメだ、絶対に考えちゃダメ。

 俺の彼女は秋穂さん、大好きなのも秋穂さん……風花ちゃんも歩美も、そう言う目で見ちゃダメなんだ。二人の事、そんな風にしたらダメだから。絶対に、そんな風に思っちゃダメなんだから。



「あう……あ、悠真君! 悠真君好き、会いたい、話したい、いっぱいぎゅーしたい、なでなでしてもらいたい、風花も悠真君に可愛いって言ってもらい……ひゃう!?」


「風花、何してる? 何しようとしてる?」


「いえ、何でもないです……何でも、ないです」



 ~~~


「んふふっ、悠真私の事可愛いって……んふふふっ」

 ―ホント大好きすぎるよね、悠真は私の事! 私の事大好きなのにじみ出てて溢れてるよ、隠してても一杯見えちゃうよ! 私への大好きが溢れて、止まんなくなってるよ!!!


「えへへ、可愛い、大好き……むへへ」

 ―ホント素直になってくれればいいのにな~、悠真は! 素直になってくれれば、私といつでもどこでも合法イチャイチャできるのに! 悠真がお姉ちゃんは私と仲良くなるための道具で、本命で大好きなのは私って……そう言ってくれれば楽なのに!


 ―好きじゃないお姉ちゃんなんて足かせをなくして、お姉ちゃんに一切の気を遣わずに、お姉ちゃんに……も~、悠真早く素直になって私に告白してよ!!! 


 ―お姉ちゃんは本当は好きじゃない、本当は歩美と付き合いたいって……そう素直に言ってよ、私待ってるのに! いつまでも私、悠真がそう言ってくれるの待ってるのに!!!


「も~、悠真の恥ずかしがりさん、そう言う所も好き……あ!」

 ―そうだ、今日は創立祭、特別な一日! 今日なら悠真も私の事素直に大好きって……むふふっ、きっとそうだ! きっと言ってくれる、シフト終わりにデート誘ったら絶対に言ってくれる!


 ―あ、でもお姉ちゃん来るんだっけか……ううん、見せつければいいんだ! お姉ちゃんに私たちのラブラブっぷり見せつけて、それで「悠真の大好きは私!」って……


「むふふ、むふふ……えへへ、大好き悠真。待っててね、悠真!!!」

 ―楽しみになってきたな、創立祭!!!


 ―私と悠真が結ばれて、お姉ちゃんの事を完全に吹っ切って悠真が素直になって私と引っ付いてくれる……えへへ、楽しくなってきたな、創立祭!!! 悠真がお姉ちゃんという道化を引きはがして、私の事をちゃんと彼女にしてくれるまでのカウントダウンだ!!! 待ってるよ、悠真!!!



 ~~~


「ラブラブだな、相変わらず。悠真のところはお熱いですね~!」


「……そんなんじゃないし、お前はどうしたんだよ。太雅はなぜあんなに天間さんとお熱いんだい?」


「え、あ、そ、その……そんな事、無いぜ? 俺と音夢……天ちゃんが仲良しとか、そんな事実ないぜ~?」


「……太雅、自分の行動見直した方が良いよ」



 ★★★

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