第31話 野中のせいだ!!!
「ねえねえ、歩美? のーまどこにいるか知らない? ちょっと頼みたいことがあったんだけど、歩美なら、何か知ってると思って」
「え、知らない。ごめんね、私でも悠真がどこいるか、今はわかんないや……でも、何してるかはわかるよ? 今ね、悠真絶対、私の愛妻弁当食べてくれてる……私が丹精込めて、悠真の事いっぱい大好きって思いながら作った、私特製の愛妻弁当……悠真は今、絶対にそれ食べてくれてる。悠真が私の事、食べてくれてるんだ!!!」
「あ、そっか……アハハ、彼氏欲しいなぁ……私にも彼氏……」
「ふふふっ、そうだよ……えへへ、悠真! 大好きだよ、悠真……えへへ」
今日もエビチリ作ってあげったからね!
いっぱい悠真の事考えて、いっぱい大好きな気持ち込めていっぱい作ったからね!!! 大好きだからね、悠真の事!!!
今日も楽しんでよね、美鈴の愛妻弁当!!! 悠真のための愛妻弁当!!!
「……悠真君……風花は、風花は……悠真君……」
☆
「風花は私の何だから! 私の風花なんだから!!! 私が大好きな風花なんだよ、風花が大好きな私! 野中のじゃない!!!」
「……え?」
昼下がりの空き教室の中で。
お昼ご飯を食べていた俺のところへやってきた難波ちゃんが、グッと俺に詰め寄りながら、血走ったような怒った目で、俺に叫んでくる。
「え、じゃないでしょ、わかってるだろ! 風花ずーっとあんたの事見てる、野中の事見てる! 野中の事見て、ずーっとぽわぽわしてる! 私の事じゃなくて、ずーっと野中の事考えてる……風花をたぶらかすんじゃねぇ! 風花は私のだ!!!」
「いや、その……」
「うるさい、言い訳要らない!!! 風花は私のだ、たぶらかすんじゃない!!! 風花の事、たぶらかして自分のものに……野中、彼女いるんだろ!!! 風花の事、何たぶらかしてんだよ、風花まで好きにするんじゃないよ、野中! 風花は私の彼女なんだけど!!! 私の大好きな、私だけの風花なんだけど! あんたは彼女大事にしろよ、風花の事たぶらかすんじゃない!!!」
ドンドンと机を激しく叩きながら。
自分の気持ちをぶつけるように、俺の事を糾弾するように、難波ちゃんは叫び続ける。風花ちゃんの彼女として、色々な感情に任せて怒り狂うように。
風花ちゃんをたぶらかしてる?
俺が……そ、そんな事ない! だって、その……この前、ちゃんと決別したもん!
風花ちゃんへの大好きの気持ち振り切って、風花ちゃんの好きを、俺への好きをお互い忘れて……だから、もう大丈夫だ!!!
俺は風花ちゃんにそんなことしてない!
風花ちゃんからはもう卒業した、もう俺の心は秋穂さんにある! 風花ちゃんはもう、もう……俺はもう、風花ちゃんの事は忘れたんだから。
「そんなわけない、そんなわけない! だったらなんで、風花は野中の事見てんだ、なんでいっつもお前の事考えてるんだ!!! もう忘れたって言ってからもずっとだ……忘れるって言ったのに、野中の匂いが消えない! 風花からの中の匂いが消えない、ずっと残ってる!!! 私の風花なのに、お前の匂いがずっと残ってるんだ!!! 大好きな風花に!!!」
「そ、それは……か、勘違いでしょ、難波ちゃんの。俺と風花ちゃんは、本当に……ただの、幼馴染なんだから。もうただの、幼馴染に戻ったんだから。だから、その……風花ちゃんの事、そんな風に思ってないし、風花ちゃんもそんな風に思ってない。俺と風花ちゃんは、ただの幼馴染なんだから! そんな、匂いとか……そう言うの、ないよ。もう風花ちゃんと、ちゃんと幼馴染に戻ったから!」
「勘違いなわけない、そんなわけない!!! 私が風花の事間違えるか、大好きな風花の感情も匂いも読み違えるか!!! 私だって、悔しいんだぞ!!! 大好きな風花がお前なんかに、お前なんかに……信じたくないんだぞ!!!」
難波ちゃんの血走った目の奥に段々と闇が入って行って、そのヒートアップして真っ赤になっていく感情とは裏腹に、ずんずんと暗く沈んでいく。
「でも、間違ってないんだ! 風花は、野中の事、ずっと考えてる! 付き合ってから、今までずーっと……私だけの事、見てくれた時なんてなかった! ずっと視界の隅には、思考の端には野中がいる、お前の影がずっとちらついてるんだ!!! 風花にはずーっとお前が居るんだ……風花は私の彼女なのに!!!」
「……難波ちゃん」
「私が大好きなのに、私が風花の事大好きなのに……風花は、私の風花になるはずだったのに! でも、でも、でも! 風花は私だけの風花になってくれなかった! 風花には、ずっと野中がいたんだ……なあ、野中? お前と風花はどういう関係なんだよ、なんで風花はそんなに野中の事が好きなんだ? 教えてよ、野中……なんなんだよ、お前は風花の?」
そう言った難波ちゃんの目は、完全に真っ暗に沈んで、今にも泣きそうになっていて。強がっていた表情を一気に崩して、本音の悲しい表情になって。
……そりゃそうか。大好きな彼女が、他の人の事見てるんだもん……俺だって、秋穂さんが他の男の子の事こんな感じになると思う。大好きな人だもん、俺だけのものにしたいもん……一緒だよね、それと。
だったら言おう。
ちゃんと関係、伝えよう。
「……ごめん、難波ちゃん。俺と風花ちゃんは幼馴染だ、でも……その、お互い大好き同士だった。お互いがお互いの事好きで、でもその気持ちが伝えられなくて……そう言う関係だったんだ、俺と風花ちゃんは」
「……」
「俺だって、大好きだった。風花ちゃんの事、俺も大好きだった……でも信じて、本当にもうそう言うの解消したから。俺にも彼女いるし、風花ちゃんにも難波ちゃんがいる―この前、二人でそう言うしこりは、取り除いたから……今の風花ちゃんが好きなのは、難波ちゃんだけだよ。風花ちゃんは、難波ちゃんの事、心から愛してると思うよ。俺の事見てても大丈夫、本命は絶対難波ちゃんだから」
耳障りの良い、そんな甘い言葉と思われるかもだけど、これは本心だ。
何度も言うけど、風花ちゃんはあの日、絶対納得してくれた。風花ちゃんと俺は、そう言う関係じゃなくなったんだ……ただの幼馴染だから。
だから安心して、難波ちゃん。風花ちゃんは、ただの幼馴染だよ。だから、風花ちゃんの一番は難波ちゃんだよ!
「……なんだよ、やっぱりお前も好きなんじゃねえか……やっぱり風花の事、野中も好き……そんなんで風花が引くわけない、風花がそんなんで……やっぱり、やっぱり、やっぱり……」
「……難波ちゃん?」
そう言ったけど、難波ちゃんの表情は変わらなくて。
むしろ悪化した様に俯きながらブツブツ何かを話して……だ、大丈夫?
「風花は私の、風花は私の、風花は風花は風花は……野中!!! 野中!!!」
「は、はい……!?」
「んちゅ……ちゅぷっ……」
「!?」
ブツブツと話していた難波ちゃんが急に顔をあげると、そのまま俺の唇に、自分の唇を重ねた……!?
★★★
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