第30話 私のだよ?
プルルルルプルルルル
「はいこちら秋穂です! どうしましたか、悠真君!!! 何かお姉さんに感謝したい事でもあるのですか、お昼休みに電話かけてきて! 悠真君の大好きな彼女さんに、何か言いたい事があるんですか……えへへへへ」
お昼休み、空き教室。
ものすごく美味しくて、蕩けそうになった秋穂さんのお弁当食べ終えて、お礼の電話をかけると、そんな元気の良い声が返ってくる。
「ふふっ、察しが良いですね、秋穂さん! お弁当です、大好きな彼女さんにお礼言おうと思って……お弁当、すごく美味しいかったです!!! 秋穂さんのお弁当、最高でした! もう俺、完全に秋穂さんに、胃袋掴まれちゃってます!」
「えへへ、えへへへ……えへへへ、悠真君がそう言ってくれて嬉しいな! 私も、大好きな彼氏さんの、悠真君に美味しいって喜んでもらえて、すごく嬉しいです! えへへ、胃袋掴んじゃったか……それじゃ、悠真君は私とずっと一緒に居なきゃだね。私と悠真君は、これからも一緒だね、それなら……えへへ、えへへへへ」
電話口から聞こえる、幸せな吐息。
秋穂さんの幸せで、温かい鼓動がこっちまで届いて、俺にまで共鳴して。
「……そうですね! ふふっ、そうですね、秋穂さん! これからもずっと一緒に居ましょうね! 俺と秋穂さん、ずーっと一緒ですよ!」
「うん、一緒だよ! えへへ、一緒だよ、悠真君……ところで、悠真君的には、どのおかずが美味しかった? 彼女さんの作ったどのおかずが、彼氏さんの悠真君には一番美味しかったですか? 悠真君はどれが好きだった?」
「え~、そうですね……全部好きじゃ、ダメですか?」
「ん~、ダメ~! 悠真君は、どれが一番好きか言ってくれなきゃダメ~! 今後の参考にもするからね、どれが一番か教えて、悠真君?」
「えへへ、そうですか……それなら、あれですね、エビチリ! 秋穂さんの作るエビチリが一番美味しかったです! 手作り感満載で、最高でしたよ、あのエビチリ! また食べたいです、秋穂さんのお料理!」
「えへへ、エビチリか、エビチリ……あれ、エビチリ? 私、エビチリなんて作ったっけ……えへへ、まあいいや! 悠真君が喜んでくれるなら、私は嬉しいです!」
~~~
「ふふふっ、ふふふっ……悠真、好き」
悠真、私のお弁当、ちゃんと食べてくれたみたいだね。
嬉しそうにお姉ちゃんに報告してるけど……えへへ、これ、私への誉め言葉だよ? 私に言ってくれてるんだよね、これ全部! お姉ちゃんのも美味しかったけど、そこそこだったもん! 絶対私の方が美味しいもん!
それに、こっそり私が聞いてるのに、そう言う事言うんだもん……これは私への、プロポ―ズってことで良いんだよね? 私に直接言うのは恥ずかしいから、お姉ちゃんにそう言う事、言ってるんだよね?
エビチリなんてお姉ちゃんのお弁当には言ってなかったもん、私しか入れてないもん! やっぱりお姉ちゃんじゃなくて、私に言ってるんだよね、これ!!!
私のお料理が美味しくて、胃袋掴まれちゃかったからずっと一緒に居たいって……えへへ、もう悠真ったらぁ!!! 悠真は大胆だなぁ、こんなところで私と結婚したいって言うなんて大胆だな、もちろんYESだけど!!!
でもそう言う事は私に直接言って欲しかったかな!!! お姉ちゃんを喜ばせて機嫌とるのもいいけど、たまには私に! 大好きな私に、そう言う事は直接言って欲しいな!!!
「えへへ、好き、大好き……結婚大歓迎、私もしたい……大好きだよ、悠真……大好き、大好き……大好き……えへへ」
そっか、悠真はエビチリが好きなんだ……それなら毎日、作ってあげるよ!
大好きな私が、悠真の大好きなエビチリ、毎日作ってあげるよ!!!
☆
木曜日、創立祭2日前。
「お~い、悠真! ちょっとこっち手伝ってくれ!!! この看板の建付け、悪すぎて話にならん! お前の大工技術が必要だ、悠真!」
「俺別に技術ないけどわかった! 俺の叡智を集結して何とかしてやる!!!」
「のーま、それ終わったらこっちね! のーま料理得意だよね、昔風花ちゃんから聞いたことがある! それ終わったら、試作品の最終段階作るの手伝って!!! どうしても上手く行かないところがあってさ!」
「了解! ちょっと待っててね!!!」
授業もなくなって、生徒たちがお祭りの準備をし始める独特な雰囲気の空間の中で、俺は人一倍忙しく働きまわっていた。
「野中、こっちも! こっちも頼むよ、後で!!!」
「あ~、悠君はこっちだよ! 悠君はこっちが先約だからね、こっちの方に先に来てもらうんだからね!!!」
「アハハ、どっちも行くから! どっちもお手伝いに行くからちょっと待ってて!」
看板作りに、お料理作り、衣装の採寸。
メニュー表の最終決定に、先生への許可取り、PR活動、あとポスターの色塗りとか、買い出しとか、先生のタバコの買い付けとか……とにかく色々なところへ、俺はそれの助っ人に走り回っていた。
「ふ~、大変だ! やっぱりお祭りはこうでなくっちゃ!!!」
別に俺は学級委員長ってわけでもないし、この創立祭のリーダーというかトップというか……そう言う地位の高いところにいるわけでもない。
ただ、お祭りが好きだから!
こういうお祭り騒ぎの時に、色々みんなで頑張って、それを盛り上げるためにベストを尽くす……俺はそう言う事が大好きだから!
去年も創立祭、文化祭問わずめっちゃ頑張ったし、秋祭りの時も風花ちゃんと一緒に小学生向けの屋台を運営して……ふふっ、懐かしいな、あれも。風花ちゃんと二人で頑張ったな、去年の秋祭り。
今年は秋穂さんとその屋台、一緒に出来たらいいな……ってそんな事考えてる場合じゃない! 今は創立祭だ、そっちに集中しないと!
「よーし、これでいいか? こっち補強しといたし、もう大丈夫だと思う! これで壊れないぜ、多分!」
「おー、サンキュー悠真! これでイケるぜ、ナイスだ悠真!!!」
「どいたま! それじゃあ、俺はこっちに!!!」
「悠君! これ、どうかな?」
「ん~、美味しいけど、もうちょっとかも! ちょっと貸して、これならこうしてこうして……これでどうかな? さっきより味、染みこむと思う!」
「どれどれ……お~、べりぐっど! さっすが悠君いいセンス! ありがと!!!」
「えへへ、どういたしまして!」
あと、人から頼られるって言うのも悪くない気分だしね!
人から頼られて、頑張って。その成果を、喜んでもらえる……それって一番素晴らしいと思わない? 一番嬉しいことだと思うんだよね、俺は!!!
「……ぽえ~……悠真君、楽しそう。風花も一緒に……ぽえ~」
「風花、風花! 集中して、戻ってきて!!! 風花、作業集中!!!」
「ぽえ~……あ、ご、ごめん! ごめんね、翠ちゃん……えへへ、頑張るね、私も。私もこれ、頑張るね!」
「うん……やっぱり、野中のやつ……よし」
☆
「ほへ~、頑張った頑張った! ちょっと休憩!」
時刻はお昼の2時前、そろそろやることもひと段落してきたころ。
準備期間は明日もあるという事で、そろそろお開きも近くなってきたという事で、ずーっと働きづめだった俺はいったん休憩を取ることにした……そう言うときほど働けや! って思うかもしれないけど、俺は疲れたの、もう! いったん休憩します、俺は!
「ふ~、美味しい……えへへ」
そう言う事で、今日も今日とて秋穂さんが用意してくれた愛妻弁当を食べる。
今日は一人の空き教室、だからより美味しく味わえる……ふふっ、やっぱり秋穂さんの作ってるエビチリは美味しいな! この前の生姜焼きもすっごく美味しかったけど、こっちの方が俺好みの味かも! めっちゃ好きかも、これ!
「ふふっ、秋穂さん美味しい……秋穂さんやっぱり大好きだ……はい?」
そんな風に考えながら、一人でご飯を食べていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえる。
誰だろう、なんか不備があったかな? 一応ここにいることは青ちゃんとか太雅には伝えてるし、それ関連かな?
「はいは~い、誰ですか……って、難波ちゃん!? ど、どうしたの?」
そう思ってガラガラ扉を開くと、そこにいたのは風花ちゃんの彼女の難波ちゃん。
ギロッとした目つきで俺の方を睨んで、恨みに満ちた目で俺を見ていて。
「……よ、野中。ちょっと話がある」
「え、な、何……何かな、難波ちゃん?」
「……あのさ、風花私のなんだけど。風花は、私の風花なんだけど」
部屋に入ってきた難波ちゃんが、ドスの効いた声でそう言う。
「……え?」
「だから私のもの……風花は、あんたのじゃない。風花は私のものだ、風花は私の彼女だ⋯⋯風花はあんたのじゃない!」
★★★
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