第29話 愛妻弁当

「お姉ちゃん、悠真お姉ちゃんのお料理、すっごい美味しかったって言ってたよ。またお姉ちゃんの料理、食べたいな~、って」


「ふへへ、悠真君……え、ホント!? 悠真君、そんな事言ってくれてた!? 私のお料理に、そんな事言ってくれてたの!? 歩美ちゃんに言うってことは……えへへ、あの時のあれ、嘘じゃなかったんだ! えへへ、えへへ……えへへ」

 部活終わりの自宅で、にへへとスマホを楽しそうに見つめるお姉ちゃんに、私はそう声をかけると、そんな嬉しそうなお姉ちゃんの笑顔と、弾む声が返ってくる……ふふふっ、そんなのまやかしなのに。


 悠真、お姉ちゃんの料理美味しかったなんて私に言ってないよ? そんな事、一言も言ってないよ? 悠真は、お姉ちゃんの料理にそんな感想持ってないよ?

 それに、さっきも悠真の写真、見て笑ってたんだろうけど……ふふふっ、それも悠真の素晴らしい演技だよ、お姉ちゃん。悠真演技上手だからね、学校でも貫いてるし……もっと素直になれば良いのに、悠真!


 悠真が大好きなのは私って事、知ってるんだからね! 私の事が一番好きなの、バレバレなんだからね、私の事愛してくれてることは周知の事実なんだからね!

 悠真は私と付き合うために、私と一緒に過ごすためにお姉ちゃんを……ふふふっ、ホント抜け目ないな、悠真は! もう悠真私の事好きすぎかよ!!!


「うん、言ってたよ、大好きって! また食べたいな、って……お弁当、作ってあげたら? 悠真にお姉ちゃんのお弁当、作ってあげたら?」

 そんなに大好きなら、私がお弁当作ってあげる! 悠真の大好きな私が、悠真のための愛妻弁当作ってあげる! 


「あ、それ良いね! 私、明日1コマないし、悠真君にお弁当……えへへ、喜んでくれるかな? 悠真君、喜んでくれるかなぁ……えへへへ」


「ふふっ、きっと喜んでくれるよ、お姉ちゃん。あ、そうだ! お姉ちゃんが悠真にお弁当作るなら、私も自分のお弁当作ろうかな? 家キッチン広いし、二人で一気に作れると思うし。久しぶりに、自分のお弁当を自作しようかな?」


「えへへ、悠真君の喜ぶ顔……え? 歩美ちゃんも自分で作るの? それならお姉ちゃん作ってあげるよ、歩美ちゃんの分のお弁当も作ってあげるよ! 歩美ちゃんはゆっくり寝てていいよ、ここはお姉ちゃんに任せなさい!」


「ううん、そこまでお姉ちゃんに負担はかけられないよ。それに、たまには姉妹仲良く……ね? 仲良くキッチンに立って料理する―これって素晴らしいことだと思わない、お姉ちゃん?」

 でも悠真は変なところも含めて、妙に律儀だから。

 普通に私が愛妻弁当渡しても、多分受け取ってくれないんだよね……もうちょっと素直になってほしいな、悠真には! 

 そう言う演技に拘るところもいいけど、たまには素直に大好きな私の事も受け入れてくれないと、嫉妬しちゃうぞ☆


 ちょっと話は逸れちゃったけど、私の愛妻弁当、悠真普通には受け取ってくれないから。

 だから、お姉ちゃんと一緒に二人でお弁当作ることにする……私が悠真にお弁当渡す、って言えばお弁当、すり替え放題だからね。


 お姉ちゃんが作ったお弁当は私が食べて、悠真には愛のこもった大好きな歩美からの愛妻弁当……ふふふっ、悠真大喜びだろうな!!! 

 私の愛妻弁当食べて、愛を感じて、もっと大好きになって……そろそろ私の事も、美味しく食べて欲しいな♪ 


「えへへ、悠真君への、私の……えへへ、悠真君、喜んでくれるかな……えへへ、えへへ……えへへへへへへ……」

 ……ちょっとお姉ちゃんが可哀そうだけど、仕方ないよね。

 悠真が私の事、選んでくれてるんだもん。悠真が私の事、大好きって言ってくれてるんだもん。しょうがないこれはしょうがないんだよ、お姉ちゃん!


「絶対喜んでくれるよ、悠真は……悠真は絶対、喜んでくれるから」

 悠真が大好きなのは、私だから。

 だから私が作ってあげる。最愛の悠真へ、とびっきりの愛を込めた、愛妻弁当を。



 ☆


「みんな~、報告! 巨大タケノコGET!!!」


『お~~~!!!』


「こっちは和風メイドコスプレ衣装GET!!! これで大盛り上がり間違いなし!!!」


『よっしゃーーー!!!』

 創立祭3日前、水曜日。


 一応創立祭の準備期間である明日からは自由に準備ができる。

 でもそこは俺たちお祭り大好き、それ以前から盛り上がるのは当然なわけで。


 今日だって、山ちゃんが持ってきた巨大タケノコとか、伊集院さんが持ってきたメイドのコスプレ衣装とかで大盛り上がり……喫茶店にタケノコは使わねえだろ! って思うかもしれないけど、それは無視! こう言うのは気分なの!!!


「はいは~い、みんな落ち着いて落ち着いて。明日から準備期間だからね、明日から頑張ろうね~! それじゃあ朝礼始めるよ~!」


『はーい!』

 そんな盛り上がりも、先生が入ってきたらすぐに落ち着く。

 楽しみのはもちろんだけど、でもその前に勉強も大事! 学業と遊び、両立するのが学生の役目ですからね!


 ~~~


「はい、悠真これ。お弁当、作ってきたよ」

 朝礼を終えて、1時間目の準備をしていると、とんとんと机を叩く音と女の子の声。

 見上げると、歩美がニコニコしながら、お弁当のきんちゃく袋を持って立っていて……ああ、秋穂さんが作って奴か! 昨日電話で言ってたな、お弁当作るって! 彼氏さんの俺に作ってくれるって……もう、最高かよ秋穂さん!!!


「あ、ありがと! よろしく言っといて、秋穂さんにも。感想は、後で伝えるし!」


「ふふっ、そうだね。言っとくよ、お姉ちゃんにも……でも感想は、私に聞かせてね。お弁当の感想は、私に言ってね」


「え、なんで?」


「それは、だって……ふふっ、言わせないでよ、恥ずかしい。恥ずかしいから、言わせないで……食べてみたら、わかると思うから。私へ感想伝える理由、わかると思うから。よろしくね、悠真……ふふふふふっ……」


「……?」

 なんだか不気味な事を言いながら、歩美は俺にお弁当を渡して自分の席に帰っていく。

 感想は直接秋穂さんに言えばいいと思うけど……取りあえず、秋穂さんにはありがとうってちゃんと言っておこう!!! 彼女からの愛妻弁当とか最高だな!!! も~、最高! 幸せ!!!



「……なあ、やっぱりあの二人……」


「だよな……」



 ~~~


「ふふふっ、ふふふっ……悠真、大好き……えへへ」

 今日も素直に「歩美大好き! 愛妻弁当ありがとう!」って言ってくれなかったのは残念だけど、受け取ってくれたな、私のお弁当!


 そのお弁当、私の愛がいっぱい詰まってるからね、いっぱい大好き込めて作った歩美特製悠真へのラブラブ愛妻弁当だから……ふふふっ、味わって食べてね。

 それ食べて、感想言ってくれて……その後ラブラブなまま、私の事も食べてくれると嬉しいな! 私の事も、美味しく食べてね、悠真!!! 大好き、大好き!!!


「……歩美が怖いよ、最近……彼氏欲しいよぉ……」


「ぽわ~?」



 ~~~


「あ、悠真君、歩美ちゃんにお弁当……ぷるぷる! ダメ、考えないようにする、私は翠ちゃんが大好き大好き……悠真君の事考えない……ぷるぷる、ぷるぷる!」


「……ちっ」

 ―まだ消えないのかよ、まだ野中の……ああ、もう! 


「風花、風花! 風花!!!」


「う、うん、わかってる……わかってるよ、翠ちゃん……ぽえ~」

 ―ああもう、何だよこれ、何だよこれ! そんなに野中が大事か……ああ、クソ!!!


 ―明日だ……明日全部、決着つけてやる!!!



 ★★★

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