第20話 復活のA

「ねえ風花、楽しくない? 私と一緒に居るの、楽しくないの?」


「ぽえー……え、なんで? 楽しいよ、翠ちゃんと一緒に居るの。私、すっごく楽しいよ、大好きな翠ちゃんとデート出来てるんだもん! 私今、すっごく幸せだよ?」


「嘘つき……風花、ずっと物思いに耽ってる。ずっと野中の事、考えてる」


「え、別に私そんな事……私は別に悠真君の事、そんなに……ふ、風花は別に悠真君の事、考えてないよ。風花、平気だよ?」


「変だもん、やっぱり……ねえ、風花、そんなに野中の事が気になる? そんなに野中の事大事? 私と野中君、どっちが大事? どっちが大事なの!?」


「そ、それは、その……風花は悠真君……じゃ、じゃなくて! 私は、その翠ちゃん! 翠ちゃんの方が大事、だって大好きだもん! 翠ちゃんの事、私は大好きだもん! そ、そうだよ、私は……で、でも風花は……」


「何で、私は……ねえ風花、私は風花の事、大好きだから。風花の事、大好きだから! 世界一、風花の好きだから」

 ―野中なんかより絶対に私の方が風花の事好きだもん、絶対に風花の事愛してるし、大切に出来るもん! 野中なんかより、私の方が風花をわかってるもん!


「う、うん! 私も大好き、翠ちゃんの事、大好きだよ! せ、世界で一番、翠ちゃんの事大好きだから!」


「……嘘つき……」

 ―なのになんで! なんでなんでなんで! なんで!


 ―私の方が風花の事、私が絶対風花を……なんなの、あいつ! 野中、お前は何なんだよ! なんで私の風花を……なんなんだよ、お前は!!!


 ―今の彼女は私なんだぞ、今の一番は私なんだ! 私が一番なんだ、私が風花の一番で、私が風花の……もうもう! もう、何なんだよマジで! 



 ☆


「しらたきしいたけながねぎ~、お麩に春菊、すき焼きのたーれー!」


「……何その歌? 何の替え歌?」

 二人で入った夕方のスーパー、知らないリズムで知らない歌を歌いだした歩美に思わずツッコミ。

 何ですか、その歌は。微妙に気持ち悪いな、リズムが。


「あー、キモいは禁止! 私のオリジナルソングだもん、今考えたやつ!」


「歴史ゲキアサだね、それ。まあすき焼きの材料は的確に表していると思う」

 実際秋穂さんたちから指示されたのはこれらの食材だし。

 なのでその歌の歌詞? はあってるというか正解なんですけど。


「そう、これが正解! この歌が正解! という事でしらたきしいたけながねぎ~」


「ちょ、歌うのやめて。恥ずかしい、みんな見てるよ、それ」

 歩美は顔もスタイルもいいからただでさえ注目を集めるって言うのに、こんなに変な歌詞を歌えばそれはもう多大なる注目を浴びるわけで。


「すき焼きのたーれー! 美味しいすき焼き、すき焼きタイム―!」


「ちょ、本当にストップ、歩美! めっちゃ恥ずかしい、それ!」

 買い物時で多くの人に注目されて、クスクス微笑ましそうに笑われて……歩美はこう言うの慣れてるかもしれないけど、俺は慣れてないの! こんな感じで注目されることないからソワソワするの!


「ふふふっ、良いじゃん、別に! それに注目されるって楽しいよ?」


「俺は無理だ、スポーツとかもやった事ないし。だから注目されるのは嫌だ、怖いです!」


「ふふふっ、そっか……でもやめなーい! 恥ずかしがる悠真も可愛いし、面白いから! 悠真のこういう顔、やっぱり見てたいから……しらたきしいたけながねぎ~」


「ああもういじわる! 歩美のいじわる!」


「ふふふっ、いじわるで結構! 結構結構! あ、このネギやすいね、これにしよう!」

 ネギを片手に持ちながら、イタズラっ子のような可愛い笑みを浮かべ、俺にぺーと舌を出す。

 あぁ、もう可愛いなぁ、許すなぁ……そしてこれくらいの関係なら、俺は嬉しいな。


 前みたいに変なハニトラ仕掛けてくるわけでもなく、こうやって冗談言い合って、楽しく放課後過ごす……歩美との関係はこんな風がやっぱりいいな。

 歩美が俺と秋穂さんの関係を認めてくれたかどうかはまだわかんないけど、でも最近は普通だし。全然歩美、変なことしなくなったし、こんな感じで本当に仲のいい友達、仲のいい彼女の妹、ってな関係に落ち着けたらいいな、って。


「ふふふっ、可愛いわね、あの子。あの男の子も楽しそうだし……カップルかしら、あの二人? 青春してるのかしらね? 一緒に住んでるのかね?」


「絶対そうよ、可愛いカップル! 良いわね~、高校生カップル! 青春って感じ! 私も憧れるわ~、こう言うの! 高校生で同棲とかステキ!」

 ……だからこそ、こう言う事軽率に言うのはやめていただきたい!

 いくら俺と歩美の関係を知らないとはいえ、そう言う不穏な事言うのはやめていただきたい!


「たこやきぴーまん……ふふっ、悠真。私たちカップルに見えるって。やっぱりお似合いなのかな、私と悠真って? やっぱり私と悠真、周りから見ればラブラブで、大好き同士のカップルに見えるのかな? やっぱり大好き同士、見ればわかるのかな? そう言うの、やっぱり感じるのかな?」


「……そ、そんな事ないと思うけどな? 俺の彼女は秋穂さんだし! 秋穂さんの事が好きだし、見えないんじゃないかな? そう言う二人見たら全部言うのがそう言う人だしね!」

 ほらー、もう歩美が少し前思い出して攻撃してくるし! 最近なりを潜めていたハニトラ魂が表に出ようとしてるし! 歩美の言われて悪い気はしないしむしろ嬉しいハニトラ病が再発してるし!

 そう言うの良いの、俺は秋穂さんと平穏に暮らしたいんだから!


「も~、相変わらず素直じゃないんだから……そんなに否定しなくても良いんだよ、悠真? 私は別に悠真がどう言おうと気にしないけどなー……悠真とカップルって言われたら、私嬉しいよ? それにお姉ちゃんより私の方が、悠真と恋人同士に見えると思うし。私の方がお姉ちゃんより、悠真とお似合いだと思うけどな?」


「いいいいいや~? それは違うくないかな! 俺と秋穂さん、ラブラブだし? 歩美と俺は全然そんな風はないと思うけどな?」


「でもお姉ちゃんとデートしてて恋人同士って言われたことある?」


「いや、それはその……な、ないですけど」

 秋穂さんとデートしたら大体ちっちゃな妹と間違われるか、迷子の小学生と間違われるかだし。大体言われるのは「兄妹仲いいね~」みたいなことだし。

 一回普通にデートしてるときに、警備員さんに褒められ慰められしながら迷子センターに連れていかれたこともあったな……確かに秋穂さんとデートしたら絶対に恋人同士とは言われないな。


「そうだよね、てことは私の方が恋人でお似合いなんじゃない? 私と悠真の方が、お姉ちゃんより恋人だよね?」


「そ、そんなことは無いでしょ! 見える見えないじゃなくて、中身だからさ! だからそう言う事はない、俺の恋人は秋穂さんだけです!」


「そう? 今だけ見れば私の方が、恋人みたいに見えるんじゃない? それに一般的なら、悠真の恋人は私だし? ていうか私が、今は悠真の恋人じゃないかな……大好きだし」


「……え? ええ?」

 ……だとしても今日の歩美は何かおかしいけど! 


 最近大人しくしてた反動か、はたまた最近俺と秋穂さんがイチャイチャしすぎてたことへの恨みか……よくわかんないけど、今日の歩美はとにかくやばい!

 ハニトラだとはわかってるけど、でも最近されてなかったから普通に可愛いしドキドキするし、歩美真顔で真剣そうにこう言う事言うから本気感が出てよけに……違い違う! 惑わされちゃダメ、これはハニトラ! ダメダメ、歩美は本気で言ってない!


「ふふふっ、悠真? 私変なこと言ってる? 私何か、おかしい事言ってる?」


「いや、全部おかしいよ! だって、その……おかしいおかしい! 色々おかしいって! だって俺の恋人は秋穂さんなんだし、それに……今日変だって、歩美は! やっぱりなんかおかしいって、今日の歩美!」


「別におかしくないよ、悠真が素直にならないだけ……おかしいのは悠真だって。だって周りからもそうみられてるし、実際にそうでしょ? お姉ちゃんより私の方が、見てくれは悠真の恋人なのは間違いないでしょ?」


「いや、間違いだって! 間違い、間違い……間違い?」

 ……いや、確かに言ってることは間違ってないんだ。

 確かに秋穂さんと一緒に居る時に恋人同士に見られたことないけど、歩美と居る時は今みたいに何度かあって……だから言ってることは間違ってないんだ。


 間違いない、言ってることはあってる……でも間違ってる!

 色々間違ってるって、歩美は色々……ホントに色々、間違ってるから!


「ふふっ、そうかな? 別に私は、間違ってなくても良いんだけどね?」


「……い、いい加減からからかうのも挑発するのもやめて! 俺はその、あの……あ、LIMEだ! 秋穂さんからLIME来てる!」

 少し言い淀んでしまったときに、ズボンの内側から弱い振動、小さな彼女の救い船。


 秋穂さんからLIMEだ、『悠真君! お買い物行ってくれてる? 早く会いたい! 好き!!!』って言う可愛いメッセージ……そ、そうだ! いつものやりとりを見せればいいんだ、そうすれば納得するはず!

 久々に蘇った歩美のハニトラ熱も消火できるはず!


「ほら、秋穂さんもこう言ってるし、俺も普段……おわっ!?」

 LIMEのメッセージを見せつけてやる―そう思った瞬間、歩美にグッと肩を掴まれ、ぴとっと身体を合わせられる。


「ふふっ、悠真やっぱり面白い……それじゃあ私と悠真の関係、お姉ちゃんに見せつけてあげよ!」

 困惑する俺をよそに、右手でスマホを構えた歩美が、ギュッと俺の身体を絡みつく。

 そして俺のほっぺに自分の熱いほっぺをくっつけて……え? え?


「待ってね、お姉ちゃん……私と悠真、こう言う事だから」

 注目浴びる中、俺に引っ付いた歩美がシャッターを切った。



 ★★★

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