第18話 お姉ちゃんは嬉しいです!

「良かった、悠真君と歩美ちゃんが仲良くなってくれて!」

 放課後の藤井家、修羅場の雰囲気がプンプン漂う恐怖の空間。


 そんな空間の中で、俺と対面座位の体勢で座って、色づいたほっぺで甘えた声を出す藤……歩美を見た秋穂さんは嬉しそうにその手を叩いて……

「……え?」

 何で? なんでそんな喜んでるんですか?

 だって、そのこれ、俺と歩美完全に……あ、あれぇ?


「お姉ちゃん心配だったんだよ、悠真君と歩美ちゃんの事! だからお姉ちゃん大安心、二人が仲良しさんになってくれて大安心だよ!」


「……ええ?」


「だって、歩美ちゃんと悠真君同じクラスの同級生でしょ? だから仲良しさんしなきゃなのに。あんまり仲良さそうじゃなくて、むしろちょっと仲悪そうだったからお姉ちゃん心配だったの……でも、その心配が杞憂に終わりそうで良かった! 二人が仲良しさんになってくれて、私嬉しいよ! 感動で泣いちゃいそう!」

 ……潤んでいた瞳をよく見てみると、その奥には何もなくて。

 ただ単純に俺と歩美が仲良くなったのを喜んでるように見えて。


 姉として、彼女として、俺と妹である歩美との関係をすごく心配していて、それが解消されたことを喜んでいるようで……よ、よし!


「そ、そうですね、秋穂さん! 心配ご無用です、俺と歩美はすごく仲良くなりましたよ! すごく仲のいい友達になりましたよ!」

 秋穂さんが気づいてないならこのままごり押ししよう!

 やばい勘違いされて、それで修羅場になると思ってたけど大丈夫そうだ!


 そんな俺の声を聞いて、膝の上の歩美はくすくす楽しそうに笑いながら、

「うん、そうだね悠真。でも私と悠真ならそれ以上の関係、なれると思うけどね。悠真のここ、すごく熱くなってるし」


「おー、親友さんって事? それならもっと嬉しい、彼氏さんの悠真君とと妹の歩美ちゃんが親友……えへへ、それなら最高かも! そう言う関係、凄く良いかも!」


「ふふふっ、だって、悠真。私と悠真、親友なら凄く良いだって……でも私と悠真だったら、もっとすごい関係、出来そうだけどね? ふふふっ、私と悠真なら、ね?」

 相変わらず嬉しそうな秋穂さんの言葉を聞いた歩美が、ぴとっとほっぺに手をやりながら妖し気な表情と甘ったるい声で俺にそう言う……ってそろそろ離れろ、俺の上から! 秋穂さんもいるんだし、離れて!


 いくら秋穂さんが安心したとは言え、そんな声で、表情でそんなこと言われると……ああ、もう! ダメダメ邪心退散ハニトラ反対! 離れて、親友でもダメだからこの距離は!

「え~、親友ならいいんじゃない、この距離でも? 良いじゃん、私と悠真なら親友以上になれるだろうし。悠真のここ、私すごく好きなんだな……いいよね、お姉ちゃん? 私と悠真が引っ付いててもいいよね?」


「う~ん、それは……ちょ、ちょっとだけ、嫌かも」


「……お姉ちゃん?」


「その親友さんになるのは良いけど、その……そんな近い距離でぎゅーってするのは嫌かも。それはお姉ちゃんとしてじゃなくて、その……悠真君の彼女として、嫌かも。あんまり仲良ししすぎるのはヤダかも。なんかそう言うの、ヤダかも」

 さっきまで嬉しそうに喜びに綻んでいた顔を少し曇らせて。

 もじもじと小さな指を絡ませて、ゆらゆら身体を揺らした秋穂さんが、どこか申し訳なさそうに、ちょっと信じられないという風に、いつもと全然違う雰囲気の中でそう言って……あ、秋穂さん!


「あ、ご、ごめんね、悠真君も歩美ちゃんも。そ、そのお友達同士だから仲良ししたいのはわかるけど、でも……だ、ダメ! やっぱりちょっとヤダ、なんか私、ヤな気分になっちゃうから、ダメ! だから、その……歩美ちゃんには悠真君からちょっとだけ、離れて欲しいかも、です……ご、ごめんね、歩美ちゃん。でも、その……それが私の本音さん」


「お姉ちゃん……だってさ、悠真? それじゃあ悠真は私にどうしてほしい?」


「そりゃもちろん離れて欲しいです!」

 秋穂さんがこういってくれてるんだ、なんかいつもと違う感じで言ってくれてるんだ!

 だから離れて、俺と秋穂さんの総意! これが真実!


 そう言うと、歩美は相変わらず妖しく微笑んだまま、

「ふふっ、そっか……ま、お姉ちゃん居るもんね、素直になれないよね……わかった、今日は離れるよ! でももう私と悠真、仲良しさんになっちゃったからね……だから私まだ、待ってるよ」


「……え?」


「ふふっ、言葉通り……それじゃ、後は二人でごゆっくり。じゃあね、お姉ちゃんに悠真……んふふふっ……」

 妖しい表情で、なんだか不穏な空気を漂わせながら、歩美が部屋から出ていく。

 と、取りあえず助かった……のかな?


「なんか、良かったかも。悠真君と……えへへ、悠真君! 悠真君歩美ちゃんと仲良くなったんだね、良かった!」

 そんな俺の心配は秋穂さんには届いていないみたいで、さっきまでのちょっと大人な表情をいつもの可愛い無邪気なモノに戻して、俺の隣にちょこんと座る。


「はい、仲良くなりました。心配、大丈夫ですよ」


「えへへ、そっか……で、でもね、悠真君……ぎゅー」


「え? あ、秋穂さん?」

 隣の秋穂さんが俺の伸ばした足の上に歩美と入れ替わるように飛び乗ってくる。

 さっきとは幾分違う軽い感覚の後、そのまま全然違うように腰に少し寂しそうにギュッと抱き着いてきて……あ、秋穂さん? どうしましたか?


「……こうやってぎゅー、ってしったりするのは私だけにして欲しいかも。歩美ちゃんと仲良くするのは良いし、嬉しいけど、でも……さっきみたいな体勢で仲良しするのは嫌かも。こうやってぎゅーってしたりするのは、私だけの専売特許にして欲しいかも。歩美ちゃんとはあんまりこうやって身体合わせるの、して欲しくないかも。悠真君がとられたみたいで、ヤダかも」


「……秋穂さん」

 ……秋穂さんもちゃんと嫉妬してくれてたんだな。

 全然そんな風に見えなくて、俺たちが仲良くしてるのを喜んでくれてるようにしか見えなくて……でもさっきと言い、今と言い。


 秋穂さんも嫉妬してくれてたんだ、俺と歩美がこんなことしてることに……ふふっ、嬉しいな、そして可愛いな、秋穂さんは!

 こんなの、もう抱きしめるしかないじゃん! ちゃんと愛を込めて、大好きな気持ち込めて抱きしめるほかないじゃん!


「うわっ、な、何、悠真君……うわっ」


「ふふっ、安心してください秋穂さん。あれは仲良しなり立てだからしてただけです、そんな事もうしません……俺の彼女は秋穂さんだけですから。秋穂さん以外にこんな事、もう絶対しません。俺の大好きな人は秋穂さんだけです」


「うゆっ、悠真君……えへへ、嬉しい。嬉しいな、悠真君……えへへ、それじゃもっとぎゅーってしてくれる? もっともーっとぎゅーってしてくれる? 私がその……安心できるように、ぎゅーってしてください」


「はい、もちろんです! いっぱいいっぱい、秋穂さんの事、好き好きしますからね!」


「……うん」

 ぎゅーっと抱き着いている秋穂さんの小さな身体をもう一度強く抱きしめる。

 大丈夫ですよ秋穂さん、心配しないでください……俺は秋穂さんが大好きですから。

 だから大丈夫です、歩美にも絶対納得してもらいます! 俺が秋穂さんの事大好きで、だからハニトラなんかいらないって……そう言う事、ちゃんと納得してもらいますから!




「……白々しい。ホント演技上手だね、悠真は……ふふふっ」

 ―悠真が大好きなのは私、そう言ってくれたじゃん。そっちが真実で、本当の言葉だって事、私は知ってるよ? 悠真は私の事、大好きなんだよね?


「今はお姉ちゃんにあげる……もう少しでその時間、終わりだから」

 ―でもまずは悠真ともっと自然に仲良くなるところからかな?


 ―今日はえっちな体勢しちゃったけど、あれは気の迷い、興奮してしちゃっただけ……明日からはもっと慎重にゆっくり行こう。あんなに積極的じゃない、もっとゆっくり、でも大胆に……外堀埋めて、悠真と内堀も埋めていく。


 ―それで、もっと自然に乗っ取るんだ。それが一番、キレイだから……お姉ちゃんも認めてくれてるしね。私と悠真が仲良し以上になること。ちょっと嫉妬しちゃったのは予想外だけど、でもお姉ちゃんは今の関係に安心しきってるはず。


 ―だから覚悟しててね、お姉ちゃん。私はお姉ちゃんも大好きだけど、やっぱりそれ以上に悠真の事好きだから。お姉ちゃんは安心しきってるかもだけど、でも……ゼった絶対奪って食べちゃうからね、お姉ちゃんの大好き。



 ★★★

 一旦藤井家編終わり?

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