第17話 仲良し

「えへへ、名前で呼んで悠真! 私の事、名前で呼んで!」


「……え?」

 ―私、わかったちゃんなんだよね、悠真がお姉ちゃんと付き合った理由! なんで悠真が初対面のお姉ちゃんの事大好きって言ったかわかったんだよね! 大好きな私じゃなくてお姉ちゃんにそう言った理由、私分かったよ! 私の事大好きだけど、お姉ちゃんと付き合った理由、大好き同士の私はわかりました!


「私、悠真と仲良くなりたい! 悠真と私で仲良くなろ?」

 ―アレだよね、私と近づきたかったんだよね? 私と仲良くなりたくて、でも恥ずかしくて……それでお姉ちゃんに近づいたんだよね? 大好きな私と距離詰めるの恥ずかしかったんだよね? 大好きな私と仲良くなるための架け橋としてお姉ちゃんに嘘ついたんだよね? 


 ー私分かっちゃったよ、全部! 私はずっと悠真の事好きだったけど、でもそんなに仲良くなかったもんね、私たち。あんまり話せてなかったし、それに……えへへ、だからまずは名前! 名前から初めて、そこからいっぱい仲良くなろ! 大好き同士、仲良くなって、いずれお互いに……えへへ、悠真! 私も悠真大好き!!!


「名前で呼んでよ、悠真……呼んでくれないとイタズラしちゃうぞ?」


「ひゃう……」

 ―あ、可愛い、真っ赤になってる。悠真顔真っ赤で、それでこんな可愛い声出して……あ、ヤバ、興奮してきた! 

 ―ホントは徐々に距離詰めて、今日は名前だけって思ったけど……えへへ、これじゃ止まんないや! 悠真への大好き、止まりそうにないや! 大好きな人が私の事大好きで、大好きっていっぱい言ってくれて……名前だけで終われないよ、こんなの!


「えへへ、この体勢好き。悠真とこの体勢するの、私好き」


「ちょ、藤井さんこれは……これはまずいって!?」

 ―この体勢、なんだっけ? この前天ちゃんと美桜と一緒に見たえっちビデオの中にあった……なんていうんだろ、これ? でもえっちな体勢で、悠真の事いっぱい感じられて、温かくてドキドキして……えへへ、これ好き。本当にこの体勢、好き。じんじん熱くなって、えっちな気分になってくる。


 ―あ、悠真も興奮してくれてる! 悠真も私の事意識して、それで……えっちな事、期待してくれてるのかな? 大好き同士でするえっちな事、期待してくれてるのかな、私に? 私も期待してるよ、悠真とえっちな事するの……でも今はまだ先。期待してるし、今もしたいけど……でも、それはまだ先。まずは名前呼んで、悠真の恥ずかしいところ、忘れよ? 名前で呼んで、お互いにお互いの事知って、仲良くなって、それで……えへへ、お互い大好き同士一緒になれたら、その時だよ、悠真!


「あ、歩美? 歩美!」


「悠真! 悠真!!! 悠真!!!」

 ―だからまずは名前、名前呼んで……アハハ、悠真に名前呼ばれるの凄く良い、すごく嬉しくてイっちゃいそうな快感で……あぁ、嬉しい! 嬉しいよ、悠真!


 ―このまま二人で、二人の世界で……やっぱり好き、悠真。ごめんね、お姉ちゃん……でも大好き同士、止まんない。お互い大好き同士だもん、止められるわけないもん! 大好きだよ、悠真! えへへ、大好き大好き!!!




 ☆


「あ、歩美? 歩美」


「ふふふっ、悠真! 悠真!!! えへへ、悠真、悠真、悠真……」


「悠真君、お菓子持ってきたよ! 悠真君と一緒に食べたいお菓子……ってあれ? 歩美ちゃん? 何してるの?」

 お菓子とジュースを両手いっぱいに持った秋穂さんが、お互い色づいた表情で見つめ合いながら名前を呼び合う俺たちを見てキョトンと目を丸くする。


「……ち、違うんです秋穂さん!!! その、えっと、これは……違うんです!」

 やばい、タイミングが悪すぎる! 

 こんなシーン見られたら、こんな表情と体勢見られたら……こ、ここまで作戦だったの、藤井さんの!? 


 と、とにかく本当にやばい! ほ、本当に違うんです、秋穂さん! その、えっと……本当に違うんですから! 何もないんです、ホントに!


 藤井さんと密着したままの俺の言葉にならない言葉を聞いた秋穂さんは、相変わらずまん丸の目のまま、

「何が違うの、悠真君? 違うって何が? 悠真君の中では何が違うの? だって悠真君と歩美ちゃんが……あ、あれ? 違うって何? と、とにかく、一回お菓子置くね、よいしょ……そ、それで悠真君、何が違うの? なんか違う事あるの?」


「え、それはその……だ、だから違くて、あの……」


「そうだよ、何が違うの悠真? 違う事なんてないでしょ、私と悠真だよ?」


「ちょ、黙ってて藤井さんは! それにそこからどいて、もっと誤解が……!?」


「だから名前。二人の時は歩美って呼んでくれてたのになんで今は呼んでくれないの? 二人の時みたいに呼んで、歩美って……仲良ししてたじゃん、私たち。さっきまで名前呼んで仲良しして……ふふふっ、やっぱりお姉ちゃんの前じゃ、仲良し恥ずかしい? 私は恥ずかしくないけど、悠真は恥ずかしい? 仲良しするの恥ずかしい? 大丈夫だよ、恥ずかしいの忘れよ? 私と悠真の仲良し、お姉ちゃんに見せつけよ!」


「な、仲良しぃ……?」

 幼い子供をたしなめる様な優しい強さで、俺のお腹を指でとんとんと軽くつつきながら、恋人に語り掛ける様な甘い声で。

 対面座位の格好を崩さないように腰に回した片手にギュッと力を入れて、蕩けた甘い表情でそう言ってきて……ちょ、ふじ……歩美! それまずいって、本当にまずいって! これは言い訳出来なくなるって!


「何がまずいの、言い訳って何? どういう事、悠真? 私と悠真だよ? 何もまずくない、見せればいいじゃん、お姉ちゃんに……私と悠真が仲良ししてるとこ、お姉ちゃんに見せてあげようよ」


「いや、ダメだって、それは! そんなのダメだって、絶対!」

 仲良しって何、何のこと言ってるの歩美は!?

 やっぱりこれ作戦、俺と秋穂さんを強引にでも引き離す……本当に何もしてないです! 仲良しとか知らないです、俺!


「え、何もしてないの? 悠真君と歩美ちゃんは仲良ししてたんだよね? 二人で仲良ししてたんでしょ? お互い名前呼び合って、そんな感じで引っ付いて……悠真君と歩美ちゃん、二人でしっぽり、仲良ししてたんだよね?」

 俺と歩美の話を聞いても、秋穂さんの表情は特に変わらず、いつものほわほわ楽しそうな表情のままで。


 ゆるふわないつもの甘い表情で、いつもの楽し気な口調。でも、その表情と声が今は逆に恐ろしい。

 達観して、この後もっと怖いことをするような、そんな雰囲気がして……本当に違うんです、秋穂さん!


「何も違くないじゃん、お姉ちゃんの言うとりでしょ悠真? ごめんね、お姉ちゃん。ちょっと悠真照れてるんだと思う。私と仲良ししたこと、照れてるんだと思う……お姉ちゃんの言う通り、私と悠真は仲良ししてたよ。お姉ちゃんがいない間にこっそり、二人っきりで仲良ししてたんだ。二人っきりで、しっぽり仲良し……ね?」


「ちょ、歩美! そんな言い方やめろ、変な……てか本当に離れろ、秋穂さんいるんだよ! 離れて、この体勢はホントダメだから!」


「ヤダ、離れたくない。私この体勢好きだし、悠真もお姉ちゃんとしてるし。だから離れません、仲良しします。私と悠真は大好き仲良しします……えへへ」


「ちょ、歩美ホントに……あ、秋穂さん! その、えっと……あぁ!」


「そ、そっか仲良しか……悠真君と歩美ちゃん、私のいないところで仲良ししてたんだね」

 挑発するように秋穂さんに話しかけながら、脚と腰の手にギュッと力を込めて離れないように画策する歩美に、伏し目がちな表情でボソッとそう呟く秋穂さん。


 その目はどこか潤んでいるように見えて、寂しそうに、静かに怒っているようにも見えて……か、完全に歩美の手のひらの上で転がされてる!


 歩美の戦略に完全にハマって、これじゃあ俺はただの浮気野郎のクソ野郎で、それで秋穂さんも……あ、秋穂さん!

「そっか、仲良しさんだもんね悠真君と歩美ちゃん……そっか、私居なくて、ふたりっきりで仲良しさんなってたんだ……あはは、仲良しさんなんだ」


「ちょ、秋穂さん! 俺と歩美はホントに……」


「も~、隠さないで悠真! 大好きなんでしょ、悠真は……だったら大丈夫。大好きだから大丈夫だよ、悠真! 私も大好き! だから大丈夫!」


「大好きだから問題なんだよ、好きじゃなかったら問題にならない! 大好きだからダメなんだって、歩美!」


「えへへ、大好き、悠真……も~、そんな情熱的な言葉は二人の時にして、いくら私でもちょっと恥ずかしい! でもでも、そんな大好きな悠真なら私と仲良しすべき! 大好きなんだから、仲良しするくらい当然だよ!」


「え、ええ……?」

 確かに秋穂さんの事大好きだから歩美に気持ちが行かない、ってのは問題はないかもだけど……でも問題ありだって、これは!

 こんなことして、それで……あ、秋穂さん目、ウルウルしてる! やばいって、これ本当に俺と秋穂さんが……!


「そっか、仲良しさんか……悠真君と歩美ちゃん仲良しさん……そっか……」


「えっと、秋穂さんその……!」


「……良かった! 悠真君と歩美ちゃんが仲良しさんで私嬉しい!」


「……え?」


「も~、お姉ちゃん心配してたんだよ、二人の事! だから良かった、歩美ちゃんと悠真君が仲良しさんになってくれて! お姉ちゃん大安心だよ、これで! 良かった良かった!!!」


「……え!?」



 ★★★

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