第9話 それなら私は

 ~とあるコンビニ~

「なぁ、お前さっきのお客さん見た? さっきのトンデモ美人なお客さん見た? 接客してて緊張で手が震えそうになったんだけど! 美人過ぎて声もほとんど出せなかったんだけど!」


「見た見た! すっごい美人だったよな、高校生か大学生かはわかんないけどめっちゃキレイな人だったな……また来るかな、うちのコンビニ?」


「やめとけやめとけ。あの子の顔見ただろ、あの幸せそうな笑顔。買ったのもお茶とかお菓子だし……ありゃ彼氏に会いに行く顔だ、彼氏と熱い夜を過ごすのが嬉しくてほわほわしてる顔だ。そう言う期待はしない方が身のためだと思うぞ」


「いや、別にそんな期待してるわけじゃないけど。あんな美人さんとは住む世界が違うよ、そんな期待するだけ無駄です。あんな子の彼氏になれるやつってどんな人なんでしょうかね?」


「そりゃお前、あれだよ。聖人で超絶イケメンな完璧超人だろうよ」


「そんな人間居たら俺は泣きますよ。でもいいなぁ、あんなキレイな子の彼氏さん……俺も彼女、欲しいなぁ……」




「ふふふっ、ふふふっ! ふふふふっ!」

 ―えへへ、やっぱり悠真は私の事好き、やっぱり私の事大好き! あの言葉嘘じゃなかった、今日聞いたのは聞き間違えじゃなかった! 私の事大好きだ、お姉ちゃんより私の方が……私の方が絶対好き! 絶対絶対、私が一番好きなんだから!



 ☆


「ただいま~」


「うへへ、悠真君。私も悠真君のぱじゃま……あ、歩美ちゃん帰ってきた! お帰り、歩美ちゃん! どこ行ってたの、こんな夜に出歩いちゃダメ! お姉ちゃん心配したよ、ぷんぷんだよ!」

 悠真の気持ちちゃんと聞けて、浮き足立つ嬉しい気持ちで一応寄ったコンビニから帰宅すると、スマホ片手に嬉しそうな蕩けた笑顔のターボパーカーのお姉ちゃんが、何の迫力も怖さもないぷんぷんをくれる。


「……ふふふっ、ごめんねお姉ちゃん。でも危ないことはしてないから安心して」

 もー、相変わらずお姉ちゃんは可愛いな! 

 本当に可愛くて、我が姉ながら甘やかしたくなる愛らしさ。それに優しくて無邪気で純粋で……ふふっ、本当はお姉ちゃんの事、私も大好き。


「そっか、それならいいけど。でもでも心配しちゃうからこんな時間の外出はもうダメだよ……あ、悠真君! えへへ、悠真君、私も~……」

 ……でも今悠真と連絡してる? 悠真とラブラブな連絡してる? 私を差し置いて悠真となんかイチャイチャ連絡とりあってる?


「え、悠真君? うん、今連絡してるよ、悠真君とLIMEでお話してる! 悠真君ね、私のぱじゃま姿可愛いって言ってくれたの! 本物のターボ師匠みたいですっごく可愛くてまたぎゅーってしたいって言ってくれた! えへへ、悠真君私の事好きって言ってくれたの、ふへへ」


「そっか……お姉ちゃん嬉しいの、今?」


「うん、嬉しい! 初めての彼氏さんだし、悠真君すごくカッコよくて、それに優しくて頼りになって……えへへ、悠真君の事大好きだから私すごく嬉しい!」


「……そっか。大好き、か……そっか、良かったねお姉ちゃん」

 ……私だって相手が悠真じゃなきゃ諸手をあげて祝福してたな。

 こんな嬉しそうでピンクな表情のお姉ちゃん見たことないから、こんなにハッピーなお姉ちゃん見たことなくて私も嬉しいから……でも相手が悠真だから。悠真が相手だから私は素直に祝福できないし……祝福する気もあまりない。


「うん、良かった! すごく嬉しい! 悠真君ね、ホントカッコよくてホントに優しくて……あ、そうだ! 歩美ちゃんも悠真君と仲良くしてね、クラスメイトなんだよね? 歩美ちゃんも悠真君と仲良くなろう!」


「そうだね。私も悠真と仲良くなりたいかも。凄く良い人なの、私も知ってるし」


「うんうん! 二人が仲良しさんになってくれたらお姉ちゃんも嬉しいからね!」

 ……そして全然危機感ないんだよな、お姉ちゃんは。

 そこが良いところなんだけど、本当に無邪気というか能天気というか……私が悠真の事好きとかそんな可能性、全く考慮してない。

 悠真もだけど私の好きの気持ち、全然気づいてない。鈍感で可愛い二人。


 ……だったら私は。

「うん、仲良くなるね悠真と。明日学校で話してみるね……あ、そうだ。お姉ちゃんの大好きなもの、盗っちゃっても怒らないでよね」


「うんうん……ん? 大好きなもの?」

 キョトンと大きな目をさらに大きく丸くして、うーんと首を傾けるお姉ちゃん……ふふっ、本当に可愛くて大好きだよお姉ちゃん。

 でも恋はダービー、競争社会。大好きな人にも大好きな人は譲れない。


「うん、大好きなもの。私も狙ってたんだから、お姉ちゃんの大好き。だから盗っちゃって……そのまま食べちゃうかも」


「ん? 食べちゃう? 何の話……あ、もしかして冷蔵庫のプリン食べる気か! あれダメだよ、あれお姉ちゃんのだからね! お姉ちゃんが明日の朝食べるように楽しみにしてる奴だからね! 絶対ダメだよ、歩美ちゃん食べちゃダメだよ!」


「……ふふふっ、どうかなお姉ちゃん? どうかな~?」


「あー、絶対ダメだよ! お風呂上りにも食べちゃダメ! お姉ちゃんのプリンだからね、絶対ダメだからね!」


「ふふふっ、わかったよ。わかったよ、お姉ちゃん」

 お姉ちゃんのプリンだもん、それはお姉ちゃんが食べて。

 お姉ちゃんプリン大好きだもんね、そんなのを大好きなお姉ちゃんから盗らないよ。


 でもね、悠真は譲らない……今はお姉ちゃんのでも、好きなのは私だから。

 大好きなのは絶対私だから……だから私が奪って食べちゃっても文句言わないでよね、お姉ちゃん。


「もー、それならいいけど! それじゃあ歩美ちゃんも早くお風呂入って寝るんだよ、明日も学校なんだから。遅くならないようにね、夜更かし厳禁!」


「うん、ありがとお姉ちゃん。それじゃあおやすみ」


「うん、おやすみ。私も眠くなってきた……ぷわぁぁ……えへへ、悠真君……」

 ふらふら少し眠そうに、でもLIMEの画面を見ながら幸せそうな笑顔で階段を昇るお姉ちゃんの小さくて可愛い背中を見ながら。

 この幸せを壊すの可哀そうだし、心苦しいけど……相手が悠真だからしょうがない。友情よりも愛情、食い気より色気。


 大好きな人、こんな簡単に諦められない……たとえ相手がお姉ちゃんでも容赦しないよ。

「ふふふっ、悠真……悠真の事もう一度、絶対……ふふふっ……」

 それじゃあ明日はどうしようかな?

 まずは小さなことから……あ、そうだ!



 ☆


 色々あった昨日が終わって、今日も新しい朝が来て。

「それじゃあ行ってきまーす!」


「ひっへはっはいほひーはん!」

 朝準備を終えて学校に向かおうとすると3枚目の食パンをもぐもぐと頬張る妹がだらしない恰好と声で見送ってくれる……おいおい。


「由美、口にご飯入れたまましゃべるの禁止。それにいつまでもご飯食べてないで、早く中学行くんだぞ」


「んんっ……ぷはっ。へへっ、ご飯じゃなくてパンですー! それにまだ平気だよ、学校近いからね私は! だからもう1枚食べちゃおっかな、って感じ?」


「全く……ま、遅れないように行くんだぞ」


「はーい! わかってますよ、お兄ちゃん! 行ってらっしゃい!」


「うん、行ってきます」

 食い意地の張った妹にそう挨拶して、そのまま学校までの道を歩く。

 昨日はホント色々あったな、あの後もいっぱい秋穂さんとLIMEしたし、それに……あんまり藤井さんの事は考えないようにしよう! あんまり考えちゃダメだ、ちょっとドツボにはまっちゃう。


 ……でも昨日の藤井さんなんだか様子がおかしかったんだよな。

 あれじゃあまるで俺の事……

「あ、野中君! 偶然だね、こんなところで会うなんて!」


「すk……ってあれ? ふ、藤井さん!?」


「うん、私だよ! こんなところで会うなってすっごい偶然、なんだか運命! ねえねえ野中君、このまま学校一緒に行こ! 私と一緒に、二人で登校しよ!」

 色々考えていた俺の目の前に、曲がり角から飛び出してきたのは件の美少女藤井さん……ってなんで藤井さんがこんなところにいるんですか!?



 ★★★

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