第7話 好きだったでしょ?
「おかしい、こんな事許されない。絶対に許しちゃダメだ、お姉ちゃんだから今は耐えてるけど、絶対ダメだ!」
―相手がお姉ちゃんじゃなかったらやばかったな、絶対。
―お姉ちゃんだから何とかなってるけど、でも無関係な人が同じ感じで……そうなってたら私、絶対耐えられてなかった。だって今でもお姉ちゃん見たらかなり怖い態度で接してしまいそうだし。
「歩美、ご飯できたよ! 降りてきて、悠真君もいるよ! みんなで一緒にご飯食べましょ~!」
「歩美ちゃんご飯だよ! 早く早く!」
「……ごめん、今日は部屋で食べる」
だからその幸せの食卓に私は足を運べない。
あの二人のイチャイチャ見たり惚気話聞かされたら何しちゃうかわかんないから。
だからごめんね野……悠真。
今は一緒は無理だ、私は無理だ……でも絶対、私も追いつくから。
「歩美ちゃんお部屋で食べるって! 残念、みんなでご飯食べたかった!」
「ふふっ、そうですね」
―何かあったのかな、藤井さん? ちょっと心配。
☆
「それでね、悠真君がすごかったんだよ! ばーんて車から私助けてくれて、それで『怪我はないかいお姫様』って……すっごくカッコよかった! それでね、その後も私の事『可愛すぎて大好きすぎてきみにめろめろ。もう絶対離れたくない』って、『運命のアカイイトで繋がってるから、一生一緒にいよう! 一緒に幸せになろう!』って言ってくれて、それでそれでその後も……」
「うふふっ、そうなのね~、そうなのね~! うふふふっ」
「ちょ、秋穂さん話盛りすぎです、そんなこと言ってません! 僕そんなロマンチストじゃありません、どんだけ美化してるんですか!? も~、口元というかお顔にケッチャプもついてますし……動かないでくださいね、今拭きますから」
藤井さん不在の夜ご飯の食卓、興奮して嬉し楽しそうに色々話す秋穂さんの暴れたほっぺをティッシュでふきふき。
俺そんなこと言ってないですよ、そんなロマンチストじゃないですし! 後ご飯食べながらそんなに興奮しないでください、喉詰まったら大変ですから!
「んん~、だってぇ、私には……んっ、ありがと悠真君。えへへ、大好きな人がこんなことしてくれるなんて幸せ……あ、そうだ! それ以外にもね、悠真君いっぱい言ってくれてね! 『秋穂のナイトになるよ! 僕が一生君を守るよ』とか『他の人に渡したくない。俺だけの秋穂になって』とか『秋穂が好きすぎてギューッてしたまま離れられない』とか……」
「ちょっと待ってください、盛りすぎですって! そんなのは本当に……」
『ふふふっ、悠真君はロマンチストなポエマーさんなんだね!!』
「違います、そんなんじゃないです! 別に俺はそんな変な……もう、秋穂さん!」
「えへへ、さっき私をからかった罰でーす……えへへ、お姉さんに甘えるのは良いけど、加減しないとダメだよ! お姉さんだってたまにはやり返しちゃいますからね~……でもいっぱい甘えて欲しいし、甘えたいな……えへへ」
「も~……わかりました。許します、秋穂さんの事」
『ラブラブだね~、しゅきしゅきだね~!』
可愛くニコッと微笑んで、恥ずかしそうにゆらゆら揺れる秋穂さんにため息交じりの赤い息を吐きながら。
ご両親さんも和やかで優しい雰囲気で温かくて……そんな楽しい空気のまま、夜ご飯の時間は過ぎて行った。
「なんで……なんで……!!! やっぱり全然……意味、わかんないよ」
……ただ一人を除いて。
☆
「ばいばーい! ばいばーい悠真君! またね!!! あ、夜連絡する、待ってて! お、お電話はちょっと恥ずかしいかもだけど」
『またいらっしゃい、悠真君!!!』
「ありがとございました! また来たいです、今日は本当にありがとうございました! 連絡待ってますよ、秋穂さん!」
暗闇の玄関でハッピーに手を振りながら見送ってくれる秋穂さんと親御さんにぺこりと深めのお辞儀をし、少し熱くなってきた夜の中を歩き出す。
あの後作ってもらったデザートをのんびり食べて、秋穂さんとか親御さんと色々話したり……ふふふっ、すごく楽しかった!
絶対にこれから何回も行くぞ、もっと秋穂さんと仲良くなりたいし! もっとラブラブなりたいし!
「……あれ? そう言えば藤井さんどうしたんだろう?」
夜ご飯の時も部屋で食べる、って言っていなかったしさっきの見送りの時間もいなかったし。
心配とあと嫌われてるみたいでちょっとショックかも。
そんな簡単なわけないから、あんまり近くにいない方がすぐに割り切れて良いと言えばいいんだけど、でも……
「何? 私がどうかした、野中君?」
「ふえっ!? ふ、藤井さん?」
「ふふっ、なんでそんなに驚いてるの? 私だよ、本物の藤井歩美」
俺の言葉に反応するように電信柱の影からにゅっと現れたパーカーの藤井さんが、そう言って小さく笑う。
え、なんでこんなとこいるの!? いつから!?
「ふふふっ、そんなに気になる私の事? 私の事、そんなに知りたいんだ?」
「いや、そう言うわけじゃなくてその……」
何でそんなに挑発的なの、何ですかそれ!?
ちょっと怖い、なんか怖いです!
「ふふっ、相変わらず面白いね、悠真君は。私の用事はコンビニ。シャー芯切れちゃってさ、買いに行こうと思って」
「あ、そう言う事ね! なるほど、買い出しね!」
「うん、そう言う事。あ、そうだ野中君の家あっちだよね? コンビニと同じ方向、ちょっと一緒に歩かない? 二人きりで話したいこともあるし」
「え、二人? あ、うん大丈夫! なんで家知ってるかはわかんないけど大丈夫! ちょっと歩こう!」
「うん、歩こ。二人でちょっと夜の散歩だね」
そう言って暗闇でもわかるくらいに顔を近づけて少し恥ずかしそうにはにかむ。
……やっぱり可愛いな、藤井さんは。秋穂さんが可愛い系なら藤井さんはキレイ系、やっぱり凄い美人さん。
だからそんな距離に居られるとすごくドギマギしちゃいます、心臓もバクバクしちゃいます……そ、その忘れられなくなります! 秋穂さんの事大好きになったのに、その……藤井さんの事もやばいです!
「ふふふっ、どうしたの悠真君? 私の顔になんかついてた?」
「え、あ、いや、その……やっぱり姉妹だから秋穂さんと顔似てるな、なんて思って。やっぱり秋穂さんと同じで藤井さんも……ごめん、何でもないです!」
あぶね、口が滑って変なこと言いそうになった!
よくとどまったぞ、俺の口! 流石にセクハラ、マジで本格的に嫌われるやつ!
「……何それ、ちゃんと言ってよ……まあいいけど。それよりさ、こうやって夜に散歩してるとイケない事してる気分にならない? なんかちょっぴり危ない事してる気分にならない?」
「そ、そうかな? 俺はたまにするからそんな気はしないけど」
「私はするんだよ。それに今一緒なのはお姉ちゃんの彼氏、そっちから見ると彼女の妹―そんな関係の人と夜に二人なんて本当にイケない事してるみたい。ふふっ、ダメだよ、野中君」
ピュッと長い指を唇に押し当てながら暗闇でもわかる少し汗ばんで赤くなった顔を妖艶に歪め、からかうように俺に笑いかけてくる。
「そ、それはど、どうでしょうか?」
―ナンデそんなに挑発的なんですか、今日の藤井さん!?
なんかいつもと様子が違って、でもその藤井さんも可愛くて好k……ってダメダメ! 俺の彼女は秋穂さん、秋穂さんが彼女なんだから! 邪念をステロ、カバマンダ!
「ふふっ、なんでほっぺパンパン? 面白くて可愛いからいいけど……私はすごく、イケない事してる風に思えるな。ていうか野中君がお姉ちゃんと付き合ってるのもイケないことに見えてくる。野中君ってロリコンさんだったの? 学童のボランティアに行ってるのは知ってるけど、もしかしてそれが目的?」
「え、ロリコン? 違うよ、俺はそうじゃなくて、その秋穂さんが好きというか! そのボランティアも将来に役立てばいいかな、って!」
本当にロリコンじゃないです、その子供は好きだし可愛いと思うけど性的な対象には入らないから! 本当だから!
そう少し必死に弁明する俺を見た藤井さんはまたクスクス可愛く笑いながら、
「え~、本当に? ちょっと不安だな、そんな野中君がお姉ちゃんと付き合うなんて……ていうか野中君はもっとお姉さんタイプが好きなんだと思ってた」
「だ、だから秋穂さんと付き合ってるし……」
「違う、そう言うお姉さんじゃない。もっと身長高くて、キレイ系な……そんな私みたいなタイプが好きなんだと思ってた」
「え、そ、それは……」
「というか私が好きだと思ってた。野中君は私の事、好きなんだと思ってた」
「……え?」
★★★
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