第4話 私の彼氏さん!!!
「紹介するね、悠真君! こっち妹の歩美ちゃん! それで歩美ちゃん! こっちが悠真君! 私の彼氏さん!!!」
『……!?』
目の前にはクラスのアイドルで憧れの藤井さん、腕にくっつくのは本日色々あった藤井さんの姉(仮)の秋穂ちゃん。
「え、あ? の、野中君? 彼氏? うちのお姉ちゃんと? は、ハァ!?」
「うん、そうだよ、歩美ちゃん! 悠真君とは今日あったんだけど熱烈なあぷろーち受けちゃって……私も大好きになっちゃった。えへへ、大好きだよ、悠真君!」
「……お、お姉ちゃん!? 野中君!? は、ハァ!? 意味わかんないんだけど、意味わかんないんだけど!!! どういう事、野中君!? 説明して、どうしてお姉ちゃんなの、なんで私のお姉ちゃんなの!? 意味わかんないんだけど!!!」
「え、あ、その……ええ?」
……意味わかんないのはこっちだよ、藤井さん!!!
俺だって意味わかんないよ! 何がどうなのかわかんないし、顔近いしまつ毛長いし、お肌キレイだし、怒った顔も可愛いし!
た、大切なお姉さんに手を出しちゃったから怒るのは当然だけ……いや、手出してないぞ、付き合った覚えなんてないぞ!?
「も~、悠真君! 歩美ちゃんの前で恥ずかしいかもしれないけど、そう言う嘘つくのはダメだぞ! さっきいっぱい愛の言葉囁いてくれたし、お付き合いもOKしてくれたでしょ? 恥ずかしがらないでよ悠真君! さっきみたいに言ってくれたら良いんだから……私の方が恥ずかしいかもだけど」
「え、いや、え? え?」
「ちょっと、野中君!? 野中君はお姉ちゃんみたいな人がタイプだったの!? 野中君はもっと……ていうか今日⋯⋯説明して! 説明して野中君!!!」
「えへへ、悠真君……もう一回言って、私の事好きって、可愛いって……えへへへ」
俺の腕をギュッと握りながら恥ずかしそうにくねくね身体を揺らしながら、ポッと顔を赤くする秋穂ちゃんとは逆に怒りに顔を真っ赤にするのは藤井さん。
違うんだよ、タイプなのは藤井さんというか、君の方が好き……じゃなくてじゃなくて! そう言う事じゃなくて、その……質問はこっち! 聞きたいことがありすぎる、聞きたいことしかないよ! まずはわかりやすいところから!
「ししし質問はこっちだよ、藤井さん!!! なんで藤井さんがここにいるの、なんで藤井さんがこの家に帰ってきてるの!?」
「それは私の家だから! 帰ってきたの、部活終わったから! 汗臭くないかな、大丈夫かな!?」
「ううん、すごくいい匂いです! めっちゃいい匂いです! じゃ、じゃあ次の質問!!! あ、秋穂ちゃんがお姉ちゃんって嘘だよね!? その……シスター的な意味だよね!? 妹の間違いだよね!!!」
「ちょっと、失礼! 失礼だよ悠真君! どう見ても私がお姉ちゃんじゃん、私がお姉ちゃん、歩美ちゃんが妹! お姉ちゃんにしか見えないでしょ、お姉さんおーらいっぱい出てるでしょ! 悠真君もそこが好きになったんでしょ!」
少し怒ったようにぷんぷんとほっぺを膨らませてぴょんぴょこ可愛く飛び跳ねる秋穂ちゃん……いやいやいや! おかしいおかしい!
「いや、でも身長とか! 秋穂ちゃん140センチもないじゃん、俺のお腹くらいの身長だし! めっちゃ童顔で可愛らしい顔だし! だから、その……小学生じゃないの、秋穂ちゃん? 小学生でしょ、藤井さんの妹でしょ!? 秋穂ちゃんは小学生じゃないの!?」
「……え、それはその……普通にお姉ちゃんだけど。お姉ちゃんは普通にお姉ちゃんだけど」
「酷い! 私小学生じゃないもん、お姉ちゃんだもん! えっとね、えっとね……ほら! 見てみて、これ! 大学の学生証! お姉さんだよ、私! もうちょっとではたちだよ、お酒も飲めるんだよ! 悠真君よりお姉さんだよ、お姉さんおーらむんむんだよ!」
相変わらずぴょんぴょん跳ねる秋穂ちゃんがゴソゴソ財布から取り出したのは緑の学生証。
近所の大学の名前と写りのいい顔写真、それに「藤井秋穂」の名前と今年で20歳を告げる生年月日……え、マジで!? マジでお姉さんなの、秋穂さんが藤井さんのお姉さんなの!?
「だーかーら! 何度もそう言ってるでしょ、私がお姉ちゃん! 歩美ちゃんは妹! 大人の女の人の魅力がいっぱいだよ! なんたって私はもうすぐはたちだからね!」
そう言ってデーンと小さな体を目いっぱい大きく張る秋穂ちゃん……いや、見えない、信じられない!
確かに顔は似てるけど、でも秋穂ちゃんがお姉さんなんて……妹って言われたらしっくりくるけど、やっぱりお姉さんって言うのは納得いかない!
学生証とか反応とか見る感じ本当にそうなんだろうけど……いや、やっぱり納得いかないよ!
「むー、また失礼なこと考えてない悠真君? 変な事考えてない? どっからどう見てもお姉さんでしょ、悠真君をめろめろにしたお姉さんでしょ! 悠真君は私のお姉ちゃんおーらにめろめろになっちゃったんでしょ!」
「……まあその話は置いておいて……って置いといちゃダメです! その、えっと……俺と秋穂ちゃ……秋穂さんが付き合ってるってどう言う事ですか!? なんでそんな話になってるんですか!?」
俺がその……秋穂さんと付き合うとかそんな話した憶えないんですけど!?
というか小学生と思ってたしそんな話するわけないんだけど!
「そ、そうよお姉ちゃん! おかしい、そんな話おかしいわ! 聞き間違えない、野中君は今日私の事……とにかく、そんな話おかしい! 野中君がお姉ちゃんの事好きなんておかしいって! おかしいおかしい意味わかんない!」
「いや、そこまでは……で、でもその言った覚えないです、そんな事! 秋穂さんと付き合うなんて、そんな話した覚えないです!」
藤井さんの熱量は怖いけど、でもそれに同調するように俺も秋穂さんを問い詰める。
俺の言葉に秋穂さんの少し涙目の顔はぷくーっと真っ赤になって、怒った可愛いハリセンボンみたいにぽんぽん大きく膨らんで。
「もー、なんでそんなこと言うの!!! なんでそんな悲しいこと言うの、なんでそんないじわる言うの悠真君も歩美ちゃんも! お姉ちゃん泣いちゃうよ、悲しくて泣いちゃうよ! 言ってくれたじゃん、好きって! 泣いちゃうよ、お姉ちゃん……ぐすん」
「あ、ごめんなさい。泣かないで、秋穂さん……で、でも言ってませんよ、俺そんな事。そんな話した覚えないですよ、好きとか付き合うとかそんな話」
「したもん、悠真君としたもん、大好きって言ってくれたもん……ぐしゅん。私の事命がけで助けてくれたもん、こうやって泣きそうなときナデナデしてくれたもん。悠真君私の事いっぱい励ましてくれたもん、ぐしゅ」
「まあ、それはしましたね。それは覚えてます、絶対しました」
小学生と勘違いして、だけど。
でもそう言う事はしたよ、今思うと何やってんだって感じだけど。
ぐすぐす大きな瞳に涙をいっぱいためた秋穂さんの話はさらに続いて。
「ぐすん……アイスもかってくれたもん、手も握ってくれたもん。悠真君も怪我してるのに、大好きな秋穂ちゃんを守るのが僕の役目だって、喜んでもらえると嬉しいって言ってくれたもん。お母さんとお父さんにも早く会いたいって言ってくれたもん」
「……お?」
「それに私の事可愛いって言ってくれた。めっちゃ可愛くて、すごくいい子って言ってくれた。可愛すぎて大好きになっちゃったから離れたくない、誰にも渡したくないしずっと一緒に居たいって、そう言ってくれた」
「……ん?」
「それに小さい子も大好きって言ってくれたもん。それで私がよろしくお願いします、って言ったら悠真君も同じようによろしくって言ってくれたもん。悠真君を私とのお付き合いするって言ってくれたもん。初対面だったけど、私も大好きになっちゃったもん」
「……んんん!!! んんっ!?」
……言ってる、これ全部言った覚えあった!
多少脚色とか色々されてる部分もあるし、店員さんの言葉とかもあるけど……言ってる、全部言った覚えある!
「言ってくれたもん、悠真君……私にそう言ってくれたもん」
「……野中君、そんなこと言ってたの? 初対面のお姉ちゃんにそんなこと言ったの?」
「あ、あの……はい、ごめんなさい!」
……だってしょうがないじゃん、絶対小学生だと思ったんだもん!
どう見ても小学生じゃん、小さくて可愛い小学生じゃん!
秋穂さん小学生だと思ったから、いつものボランティアとかの癖でそうやって喜ばせようと思って……ああ、もう! これじゃただのナンパ男じゃん、ゴミクズナンパ野郎じゃん!!!
「ぐしゅん……悠真君、嘘だったの? 初めてだったのに、男の子に好きとか言ってもらえたの……嘘だったの? 全部嘘だったの?」
「いや、それはその……」
「野中君! ねえ野中君!」
「あ、あの、だ、だからぁ……」
……どうしたらいいんだよ、俺は!?
実際に好きなのは藤井さんだけど、でも秋穂さんの事を勘違いさせちゃったのは事実だし、実際に好きとも言ってるし、でも……
「……悠真君、私本気だったのに……本気で言ってくれてると思って、私も初めて本気になれたのに……ぐすん」
「ねえ、野中君? 野中君! 嘘だよね、私の事……ねえ、野中君! お姉ちゃんじゃないよね、違うよね!!!」
じりじりとプレッシャーをかけながら、僕の方に詰め寄ってくる二人。
かたや大事な姉をナンパされた妹、かたや軽薄な男に裏切られる姉……どっちの選択肢も最悪じゃん、どっちにしてもクソ男確定だ!!!
どうしよう、どうすれば……でもそれなら、僕は……
「野中君! ねえ悠真君!!! 私の方が一緒に居たよね、私の方がずっと一緒だよね!」
「悠真君……ゆーまくん……」
「……う、嘘です! 嘘ですよ、それは!」
『え?』
★★★
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