第3話 なんで藤井さんが!?

「えへへ、悠真君……にへへ、悠真君♪」


「今度はどうしたの、秋穂ちゃん?」


「ふふふっ、何でもないよ! 呼んでみただけ、悠真君を!」


「……そっか」

 ……なんかちょっと距離近すぎる気もするけどまぁいいか!



 ~~~


「あ、あのお家が私の家! あの真っ赤な屋根が私の家!」


「お~、キレイな家だね! オシャレな感じで素晴らしい!」


「でしょでしょ~! えへへ、悠真君ならいつでも遊びに来ていいんだよ~!」


「え~、それは……ちょっと考えなきゃだね」




 ☆


「ただいまー……って誰もいないけどね。えへへ、悠真君私のお部屋が良い? それともリビングが良い?」


「お邪魔しまーす……うーん、リビングが良いかな?」

 真っ赤な屋根の大きなお家の秋穂ちゃんの家に入ると、中もすごくキレイで落ち着いた内装。


 なんかもうちょっとごちゃごちゃしてるかな、とか思ってたけどそんな事ないみたい。小学生の子供がいてこのお家の感じはすごく親さんがきれい好きなんだろうね。


「わ、私的にはお部屋でイチャイチャ……で、でもしょうがない! 悠真君がそう言うならしょうがない、お姉さんは物わかり良いからね! こっちだよ、リビング!」


「はいはい、あんまり急がないで」

 少し残念そうな秋穂ちゃんに手を取られ、促されるままリビングへ。


「ええっと、ええっと……ん、ソファ! ソファで食べよう、スプーン持ってくるね! 待ってて、悠真君!」

 案内されたリビングも白を基調とした落ち着いた空間で、遊び道具とかもなくてすごく整然としていて。

 まるで子供が独り立ちしてものが少なくなったおじさんの家みたい……本当にキレイな好きなんだろうな、アイスこぼさないように気をつけないと。


 お家の状況に少し緊張していると、2本のスプーンを持った秋穂ちゃんがとことこと俺の方に走ってくる。

「はい、これ悠真君の! こっち私のね、可愛いでしょ!」


「うん、ありがと。秋穂ちゃんのはヌメルゴン?」


「うん! 好きなんだ、ずっと昔から使ってる! めっちゃ可愛くて好き!」


「へー、そんな時からポケモンやってるんだね。僕も好きだよヌメルゴン。僕は結構世代だし。はい、これ秋穂ちゃんのアイス」


「私はちょっと世代じゃないんだけどね……ありがと! ふふふっ、悠真君からの初プレゼント……にへへ、味わって食べるね、悠真君!」

 そう言ってぴとっとアイスをほっぺに当たる。

 そんな大げさな事じゃないよ、プレゼントとかそんなんじゃない。


「もー、悠真君優しすぎ! 私にとってはプレゼント、これはプレゼントなの……あ、そうだ悠真君! え、えっと……よいしょ……えへへ、ここ好き」

 ニコニコとほっぺをとろんとさせていた秋穂ちゃんが、思いついたようにスプーンを咥えながら俺の膝の間にすとんとおさまる。


 そしてうーんと俺を見上げながら、とろとろ微笑んで。

「どうしたの秋穂ちゃん? 僕お父さんじゃないよ? ここ狭いよ?」


「えへへ、わかってるよそれくらい! だって、悠真君は私の……えへへ。だからその⋯⋯好きだからいいでしょ? ダメ、悠真君?」


「⋯⋯わかった、大丈夫。秋穂ちゃんが嬉しいならそれでいいよ。親さんが帰ってくるまでは僕は秋穂ちゃんの騎士さんみたいだからね」


「うん、嬉しい! 嬉しくて、すごく嬉しくて……えへへ、大好き」

 あむあむとアイスを頬張りながらピタッと温かい頭をお腹にくっつけて嬉しそうに笑って。噛みしめるように安心したようにゆるゆるほっぺを緩ませて。


 ……寂しくて、怖かったんだろうな、秋穂ちゃんも。

 割と強がってる感じだけど、あんなことあったし、お母さんもお父さんもいないし……怖くて誰かに甘えたいんだろう。

 たまに見る、そう言う子⋯⋯それじゃあ誰か帰って来るまでは好きなようにしてあげようかな。



「ゆ、悠真君。わわわ私のアイスも食べさせてあげるね。あ、あーん」


「あーん……ありがと。すっごく美味しいね、そのアイス」


「えへへ、そうでしょ……ん、んっ!」


「ん?」


「え、えっと……わ、私も悠真君の、食べたい、です⋯⋯ダメ?」


「ふふっ、良いよ。はい、あーん」


「んんんっ、悠真君……ふへへ、悠真君♪ すごく、美味しい!」



 ☆


「あ、もうこんな時間! そろそろ妹が帰ってくる、妹にも悠真君紹介したい!」

 俺の膝の間でもきゅもきゅアイスを食べていた秋穂ちゃんが、ふわっと古そうなジブリの時計を見て思いついたように声をあげる。


 へー、妹さん居るんだ秋穂ちゃんも……さっきまでの行動、なんか全部合点いったかも。

 妹がいるから自分の事お姉さんって言って、でも甘えたくて……そう言う事か、俺も経験したことあるし凄いわかる、それ。


「ん? どうしたの、悠真君? そんな目で見ないで……えへへ」


「ああ、ごめんごめん。ちょっとね。そうだ、妹さんが帰ってくるってことはお母さんと一緒かな?」

 小学生の秋穂ちゃんと帰ってないってことは幼稚園児だろうし、ここでお母さん帰ってくるのかな……なんて思ったけど、秋穂ちゃんはキョトンと首をかしげて。


「ん? なんで? 妹は一人だよ、一人で帰ってくるよ?」


「え、一人? 危なくない、それ?」


「たしかに可愛いし危ないかも……あ、でも悠真君がいれば大丈夫かも! 悠真君と仲良しさんになれば安心かも、安心して登校できるね!」


「ん? んん?」

 何だかいまいち話がかみ合わない。

 なんかその……わかんないけど話が微妙にずれてるというか。


 そんな事を考えているとピンポーンと少しさびれたチャイムの音が鳴る。

「ただいま」


「あ、帰ってきた! えへへ、行こ、悠真君! おかえりー、歩美ちゃん!!!」

 パッ、と顔を輝かせた秋穂ちゃんに手を取られ、もう一度玄関の方へ。


 玄関の方から聞こえるのは幼稚園児とは思えない透き通った声……あれ? この声どこかで、しかもこの名前……気のせいだよね? 気のせい……気のせい!?


「歩美ちゃん! 歩美ちゃん、お帰り! 紹介したい人がいる!!!」


「どうも、妹さん! お家お邪魔してます、お姉ちゃんと……!? なんで!? なんで藤井さん!?」


「もー、お姉ちゃん声大きすぎ。近所迷惑……!? 野中君!? なんでここに……てかなんでお姉地ちゃんと一緒!?」


「え、二人とも知り合い? お、そう言えば確かに制服一緒! それじゃあ話が早いね! 紹介するね、悠真君! こっち妹の歩美ちゃん! それで歩美ちゃん! こっちが悠真君! 私の彼氏さん!!!」

 俺の腕をギュッと握った秋穂ちゃんが元気よくそう言って……え!? え!?


 ……藤井さん!? 妹、お姉ちゃん……彼氏!?


 ★★★

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