待ち受けにしたい、食べかけのチョコレートケーキ

秋雨千尋

何でもキッチリのあなた

 結婚したばかりの夫はこだわりが強い。

 毎朝5時に起きて散歩。

 朝と夜の7時に食事。ちょっと遅れてお皿を運んでいる最中でも食べ始める。

 食後は読書を一時間。

 使うシャンプーやボディーソープはずっと同じ。

 まるでロボットみたいだと思う。


 職場でも雑談無しで黙々と働いている。飲み会の席で隣になった縁で付き合い始め、三回目のデートで婚姻届を渡された。プロポーズの言葉は特になかった。


 よく分からない人だけど、ドーベルマンみたいにシュッとした顔がタイプなので勢いで結婚してしまった。

 私のどこを気に入ってくれたのかは分からない。


 3時ちょうどにケーキと紅茶。

 日曜日のお決まりだ。

 夫は食べ終わるまで絶対に他の事をしない。


 仕事の電話がかかってこないように電源OFF。

 工事の騒音も聞こえないフリ。

 うっかり紅茶をこぼしても放っておくので、私があわてて拭いた事がある。


 今日もチョコレートケーキを顔色一つ変えずに集中して食べている。

 たまには美味しいとか聞きたいな。

 その時、窓から吹き込んだ風で買ったばかりの花瓶が倒れそうになった。

 私は急いで駆けつけ、足を滑らせた。


 やば、転んじゃう!


 床に叩きつけられる感触はなかった。

 代わりに力強い腕が私をしっかりと抱きとめてくれていた。


「気をつけて」


 彼はクルリと向きを変えてテーブルに戻る。

 お皿の上には、食べかけのチョコレートケーキがあった。



 終わり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

待ち受けにしたい、食べかけのチョコレートケーキ 秋雨千尋 @akisamechihiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ