第3話 ライラのミッション
◇◇◇
確かにライラとチャールズは、知らない仲ではない。チャールズが生徒会長を務めていたとき、ライラも生徒会役員の一人として、共に活動していたからだ。なかなか生徒会の仲間たちに馴染めないライラを心配してか、チャールズは何かとライラを気にかけて声をかけてくれていた。
そうした学生時代の気安さがあるのかもしれないが、ライラは気の利いた受け答えなどできないというのに、「好きな花は何か」とか、「好きなドレスの色は何か」とか、矢継ぎ早に尋ねてくるので、今回は何を聞かれるのだろうかと毎回緊張してしまう。恐れ多くて王妃様には直接尋ねにくいのだろうか。
「メリッサさまはピンク色の可愛らしいお花がお好みのようです」だの「今は先日お召しになっていた水色のドレスが一番のお気に入りのようです」だの精いっぱい知っている情報を話すのだが、なぜかチャールズには頭を抱えられ、王妃様には笑われる始末。そのたびに、大変居心地の悪い思いをしていた。
そこでライラは考えたのだ。兄であるチャールズに弟の様子を聞くよりも、自分が直接ジョシュアを見てきた方が、より正確な情報を届けられるのでは?と。そうすれば、毎回チャールズ相手に、肩身の狭い思いをすることもない。それに、万が一ジョシュアが王妃様のお眼鏡に適わない相手の場合、自分が鍛えてやればいいではないか。敬愛する王妃様のため、ライラは(勝手に)ジョシュアの監視兼教育係になることを決意したのだった。
それからのライラの行動は早かった。速やかに護衛騎士を辞職する旨を王妃様に伝えると、すぐに公爵家のメイドとして働き始めたのだ。王妃様も「今後は公爵家で働いて、王妃様に直接ジョシュア様の様子をお伝えしたいと思います」とライラが言うと、嬉々として紹介状を書いてくれた。それなりに期待されているということだろう。
(坊ちゃまはチャールズ殿に似て眉目秀麗。チャールズ殿がお気に入りのメリッサ王女も、坊ちゃまのことをきっとお気に召すだろう。しかし、5歳という年齢の割に賢く利発な坊ちゃまだが、戦闘能力はまだまだ。これではいざというときメリッサ王女をお守りできないだろう。まずは基礎体力作りに重点を置いた方が良さそうだ)
だが、自分に構わず無表情で黙々と歩くライラの姿に焦れたジョシュアは、思わず叫んだ。
「離せってばっ!は、離さないと、は、母上に言いつけるからなっ!」
すると、ライラの歩みがピタリと止まる。
「それは、私を解雇したいということですか?」
ピタリと視線を合わされ、今度はジョシュアが慌てて目を逸らす。
「そ、そうだよ!僕の命令に逆らったら、ライラなんて首にしちゃうんだからっ!」
ジョシュアにしてみれば、ほんの少しすねて見せたかっただけ。けれどライラは、ジョシュアの言葉にふむ、と頷くと、ジョシュアをそっと下ろし、キリッと騎士の礼をとる。
「不肖ライラ。坊ちゃまのご期待に沿えず残念です。では、これにておいとまいたします。今までお世話になりました」
そう言うと、近くに控えていた護衛騎士にジョシュアを渡し、あっさり背を向けて歩き出してしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます