第4話 ライラの実力

 ◇◇◇

(ふむ。専属メイドとして側で見守るのは上手く行かなかったようだ。となれば、次は剣の師匠として雇ってもらえるか打診してみよう)


「え、ま、待ってよ!ライラ!」


 そんなことを考えているとは露知らず、あまりにあっさり解雇通告を受け入れるライラに、一瞬あっけに取られて固まっていたジョシュアは、ハッと我に返るとライラを慌てて追いかける。


「ねぇ!ライラってばっ!怒ったのっ!?ねえってば!」


 焦れて声を上げるジョシュアに、ライラは振り返らない。しかし、


「嘘だよ!クビにするなんて嘘だから!僕を置いていかないで!」


 泣きながら叫んだその言葉に、ライラはゆっくりと振り向いた。


「ライラっ!う、うう、わがまま言ってごめんなさい。もう、クビにするなんて言わないから、いなくならないで」


 慌ててライラに駆け寄るジョシュア。しかしライラは、しがみつこうとするジョシュアをそっと手で制する。


「坊ちゃま、今すぐ私から離れてください」


 聞いたことのないような低い声に、ジョシュアの心臓が跳ねる。


「い、いやだ!絶対離れないからなっ!」


 己のわがままから、大好きなライラに見捨てられそうになっていることに焦り、ポロポロと涙を流すジョシュア。


(どうしよう。僕があんなこと言ったから、ライラがいなくなっちゃう!)


「……仕方ありませんね」


 ライラはふうっとため息を付くと、ジョシュアの頭をそっと撫でる。


「では、私がいいと言うまで、しっかり目を瞑っていて下さい」


 そういうと、背中に差している大剣をすらりと引き抜いた。


「ら、ライラ!?お、お願い!もうわがまま言わないから、許して……」


 真っ青になってがくがく震えるジョシュア。しかしライラの「坊ちゃま!伏せてっ!」という鋭い声に、思わずしっかり目を閉じて、地面にうつ伏せる。


 その瞬間、おぞましい咆哮が周囲にこだました。


「ひっ!ライラ!な、なに!?」


 ライラは小さく舌打ちを漏らす。


「森の主、アイアンベアがなぜこんなところに。さては先ほど仕留めた獲物の血の匂いに誘われたか……」


 ライラの周りには、手慰みに狩った狩りの獲物が山のように積みあがっていた。アイアンベアは角ウサギとは比べ物にならないほど凶暴な魔物で、その鋭い爪は鉄をも引き裂くと言われている。


(坊ちゃまには近付けさせないっ!)


 トンっと跳躍してジョシュアから距離をとると、ライラは真っすぐアイアンベアに突っ込んでいく。慌てて制止の声を上げる公爵家の護衛騎士たち。しかしライラは、彼らがジョシュアの周囲を守っていることを確認すると、ニッと口角を上げた。大丈夫。怖がりの坊ちゃまには、血飛沫すら浴びさせない。


 真横に剣を構えると、仁王立ちで威嚇しているアイアンベアの体に沿って、すらりと剣を滑らした。狙うのは、魔核のある心臓だけ。心臓の核を破壊され、途端に音を立てて倒れるアイアンベア。

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