第2話 公爵家の二人の息子たち

 ◇◇◇


 先月から新しく公爵家で働くことになったライラ。けれど、ライラがな存在であることは一目で分かった。


 漆黒の髪に燃えるようなルビーの瞳。美しく整った顔立ちに、ピンと伸びた背筋。少しも無駄のない動きに凛々しい表情。なによりも、その圧倒的強者のオーラ!ライラはジョシュアが憧れるかっこいい騎士そのものだ。


 現役で騎士団長を務めるボナール伯爵家の娘であり、自身も最近まで王妃様の護衛騎士を務めていたと言う。優秀な騎士のライラがなぜ急に公爵家の使用人になったのか。まだ幼いジョシュアには詳しい理由は分からないけれど。かっこいいライラを一目で気に入り、自身の専属メイドとなって貰ったのだ。


(それなのに、あんなに小さな角ウサギに驚いて泣いた挙げ句、ライラに抱きかかえられて屋敷に帰るなんて!こんなの恥ずかしすぎる!)


 一方ライラは、


(坊ちゃまの基礎戦闘能力を測るために、ごく弱い魔物の出る森をピクニックの場所に選んだが、やはり時期尚早だったようだ。これ以上の滞在は時間の無駄だな)


 などと、これからのジョシュアの教育方針について、思いを馳せていた。


 王妃様付きの護衛騎士であるライラがアムール公爵家の使用人になったのには、とある理由があった。アムール公爵家の二男であるジョシュアが、先月三歳になったばかりのこの国の第一王女、メリッサ様の婚約者候補として選ばれたのだ。


 ジョシュアは年齢、地位、血統、政治的な観点から見て、王女の婚約者として申し分ない相手だ。何事もなければ、然るべき時期を見計らって婚約を結ぶこととなるだろう。性別に関わらず第一子が王位継承権を持つこの国では、第一王女はいずれ女王として立ち、ジョシュアは女王を支える王配になる。


 当然王妃様は婚約者候補に選ばれたジョシュアがどんな子どもなのか気になるようで、ことあるごとにアムール公爵家の長男チャールズを呼び出し、お茶をご馳走しては話を聞くようになった。


 アムール公爵家のチャールズと言えば、年頃の少女だけでなく、妙齢のご婦人たちまでそろってうつつを抜かし、誰もが顔を染める『氷の貴公子』として知られた人物だ。プラチナブロンドに紺碧の瞳の完璧とも名高い整った容姿に加え、あまりに優秀なため、貴族学園を卒業後すぐに宰相補佐官に抜擢されたという実力者。いずれは宰相として国を支えていくことが確実な人物だ。当然、王妃様も彼には一目置いている。これを機に公爵家と友好関係をしっかり築いていきたいとういう気持ちも強いのだろう。


 王女の将来を考えても、将来のアムール公爵であるチャールズの後ろ盾は欠かせない。しかし、ライラはチャールズが苦手だった。お茶会の席には護衛騎士のライラも王妃様の側に控えているのだが、「氷の貴公子」と評判通り、どんな令嬢にも塩対応で有名なチャールズが、なぜか自分にばかり嬉々として話しかけてくるのだ。

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